クロノスカオス
「ダメ...死んじゃダメ!」
「いいんだ......が生きていれば....それで」
ピピピピピピピピ
「う〜ん....」
アラームの音がうるさい。
俺は即座にアラームを消した。
「早く起きなさい!永太!」
下の階からお母さんの声が聞こえる。うるさいな〜眠いのに...
「あんた紗奈ちゃんが玄関で待っとるよ!」
「今行く〜」
俺は直ぐに階段を駆け下り、食パンを口入れて準備した。
やばいやばい急がないと!
準備が終わり玄関へ猛ダッシュ
「行ってきます!」
「行ってらっしゃい永太」
ガチャ
「おはよう!」
「おはよう永太。今日も遅かったね」
「冬は特にね...今日は寒いな...いつになったら春が来るのか...」
はあ...はあ...
息をかけても全然手が温まらない。
「大丈夫?うゎ!永太手冷た!」
「さ、紗奈の手が暖かいだけだ。」
うわ...ドキッとした。こいつなんでこんな平然と手を繋げるんだよ。
「あっ!今ドキッとしたでしょ?」
「なんでわかったの!?」
「分かるよ。てかなんでそんなドキッとしてるの?私たち付き合ってるんだよ?普通でしょ。」
「いや紗奈が気にし無さすぎるだけだよ。」
「ふふ。」
中学生のとき、俺は恋愛とは無縁だったからちょっとの事で正直ドキドキしてしまう。
「永太、今日放課後空いてる?」
「え?あ〜今日は部活休みだし、空いてるよどうして?」
「今日ちょっとここ行きたいんだよね」
そういうと紗奈はスマホを見せた。
「何ここ?カフェ?」
「そうそう!凄い美味しそうなパンケーキがあるの!」
「OK分かった。帰り行こう!」
ていうかこれデートじゃん!放課後デートか気分上がってきた。
キーンコーンカーンコーン
「永太、今日一緒にカラオケ行かね?」
「悪ぃ、今日は彼女と予定あるんだ。」
「そうかよ。お熱いカップルなこった。」
「ごめんな守、また誘ってくれ」
「OK。彼女いない俺の分も楽しんでこいよ...」
「わかったよ」
「永太〜!行こ!」
「おう!今行く」
「じゃあ」
「行っちゃった永太...俺も彼女ほしーーー!!」
ここが紗奈が行きたかったカフェか...オシャレな店だな
「私はもう決まってるけど永太は何頼むの?」
「そうだな〜パンケーキがおすすめならこのチョコパンケーキにしようかな」
「飲み物は?」
「いつも通りミルクティーかな」
「わかった。すいませーん」
奥の方から店員さんが来た。
「はい。ご注文は?」
「えっといちごパンケーキ1つとチョコパンケーキ1つ
飲み物はカフェオレとミルクティーでお願いします」
「かしこまりました。」
「楽しみだね」
紗奈が凄い笑顔で言った。俺も正直テンションが上がっていた。
「お待たせしましたいちごパンケーキとチョコパンケーキにカフェオレとミルクティーです。」
「ありがとうございます。」
「おいしそ〜」
パシャパシャ
「いつも思うんだけどなんで女子ってみんな料理の写真撮るの?」
「あ〜ね。まぁインスタにあげる人とかが多いんじゃない?私は単に思い出として撮ってるだけだけどね。
さぁ!早く食べよ!」
「うん」
にしても美味しそうだな。紗奈はよくこんなお店見つけたな。それじゃあいただきます。
「ウマ!」
「本当!美味しいね」
口いっぱいにパンケーキを頬張っている紗奈可愛すぎるだろ!
「永太!ソースついてるよ」
「あぁ!ごめん」
ちゅっ
「え!?」
「ソース取ってあげたよ」
本当にもう!紗奈にはいつもドキドキさせられてる。俺もドキドキさせたい。
「美味しかったね」
「そうだな。ここ教えてくれてありがとうな」
「ふふ。どういたしまして」
タッ...タッ...タッ...タッ...
「待って...」
紗奈が急に俺の袖を掴んで言ってきた。
「どうしたの?」
「今日はこっちから帰ろう」
「うん...まぁいいけど」
どうしたんだろう?いつも通る道と違う方向へ行きたがっている紗奈が不思議で仕方がない。
「ぐす」
紗奈が急に涙を流した。
「どうしたの?大丈夫?なんかあった?」
「大丈夫気にしないで」
紗奈は何かおぞましいものを見て恐怖を堪えているようなそれとも悲しい表情のようにも見えるそんな顔をしていた。
「大丈夫じゃないでしょ?なんかあった?」
俺は焦りながら聞き返してしまった。正直こういう時どう接すればいいか分からない。
「大丈夫!大丈夫だから!私が...」
彼女が急に抱きついてきた。彼女を心配する気持ちと彼女の温かみを感じでドキドキする自分がいた。
「安心した。」
そこには涙を拭って笑顔になった紗奈がいた。
「何かあったら言ってくれ俺が助けてやるから」
「ありがとう」
そう言っていつもはしないのに手を繋いで来た。
正直心配だ。よく女性の大丈夫は大丈夫じゃないと聞くから心配で仕方がない。
タッ...タッ...タッ...タッ...
いつもと違う見慣れない道をドキドキしながら手を繋いで
歩いて行く。なんでこの道を選んだんだろう。
赤信号を待っている間気になって紗奈の顔を見た。いつも通りの笑顔でホッとした。
信号が青になった時紗奈は繋いでいた手を離した。
「どうしたの?」
「ありがとう」
と紗奈は満面の笑みで言った。
ひとり前に歩き出した。その時
キーーーーーーーーーーーーーーー
ドーーーーーーーーーン
「は?」
目の前には1台のトラックと血だらけになった紗奈がいた。迷わず俺は紗奈のもとへ駆け寄った。
「おい!おい!紗奈!」
「永太...ありがとう...」
紗奈の声がどんどん細くなっていく。
「ダメだ...死んじゃダメだ!」
「いいの...永太が生きていれば....それで」
「紗奈!紗奈!」
紗奈は一切返事をしなくなった。次第に手はどんどん冷たくなった。押し寄せる絶望によってそこから少しあとのことが記憶にないくらいになっていた。
「南無阿弥陀仏...」
お坊さんのお経が聞こえる。目の前には笑顔の紗奈の遺影が飾られていた。
もう紗奈の葬式が終わりそうになっていた。あの日のことを思い出して鼻を啜っていたせいか何も聞こえなかった。
2024年2月21日 哀川 紗奈 交通事故により死亡
紗奈が亡くなって1週間がたった。学校にも全然行っていない。飯も喉を通らずほとんど何も食べてない。俺は家に引きこもった。
「永太。ご飯部屋の前に置いておくからね。」
「ありがとう母さん。」
何をする気力も起きない。学校に行かなきゃ行けないこともわかってる。でも、立ち直ることが出来ない。外に出る度に、横断歩道や信号を見る度に、今目の前で起こってるくらいあの日の事故を思い出して怖くなる。
そうやって引きこもって、毎日少しでも気を紛らわそうとテレビを見たり、スマホで時間を潰す日々。
時間を戻したい。時間を戻したい。時間を戻してあの日の紗奈を止めたい。ありえないことを何度も何度も考え結局ため息をついて終わる。
そして、半分冗談のつもりくらいに時間を戻したいとスマホで検索した。こんなこと検索しても何も出ないと思いながら。明らかに嘘な情報ばかりで適当にスクロールしていた。その時一つのサイトが目についた。
「時間を戻す扉『アメノミ』」
何とも不思議なものだ。嘘だとは思いつつもそのサイトにアクセスした。すると、この場所に時間を戻すことができる扉があるというものだった。
地図を見るとそこはここからそう遠くには離れていない山だった。
もしこれが本当なら俺は紗奈を救えるかもしれない。
本当なら...明らかな嘘だと思う。しかし、ブログには本当にできたというコメントが多く残されていた。でも、サクラだろ。そう受け流しながらも心のどこかで少しの希望に賭けてみたい自分がいた。
「母さん行ってくる!」
「あんた急にどこに!?」
ガチャ
気づいたら死ぬほど嫌だったはずなのに家から出ていた。
動いたからには仕方がない勇気を出して行ってみることにした。
自転車を山のある方向へ走らせる。
距離はまぁまぁあるが、疲れることは無かった。それ以上にその扉に向かうことに必死だったからかもしれない。
地図にある山に着いた。ここから普通は通らないような道の通り方で行かなければならない。
道順を辿っていくと立ち入り禁止の看板もあった。それでもここを通らなきゃ行けないようだから勇気を出し進んでいく。
タッ...タッ...タッ...タッ...
地図を見るとここが目的地らしい。
何も無いように見えた。しばらくそこら辺を探索しているとそこにぽつんと近未来的な扉が存在感を放ち建っていた。
「これが時間を戻す扉」
本当にある事の驚きを隠せなかった。
そこの隣に扉の説明が色々書かれていた。ペンで書かれたもので消えている文字もあった。
「...間を操る扉『アメノミ』」
「行きたい世界を想像し...開け」
「この扉を使う...日記をつけろ」
「00058F1A」
消えていても全然読める。日記をつけなければいけないらしい。理由は分からない。しかし、そうしなければいけないのなら仕方がないと思った。
俺はあの日を想像した。想像するだけで辛く涙が出てきた。吐き気がした。それでもあの日を想像した。そして心の中で俺は叫んだ。
(紗奈が死ぬ前のあの日へ!)
扉を開くと扉の向こうには白く光り輝いていた。俺は足を前に踏み出した。
ピピピピピピピピ
「は!」
俺はいつの間にか自分のベッドの上にいた。
驚きながらとりあえずうるさかったアラームを止めた。
俺はさっきまで山にいたはずだ。どうして...
「早く起きなさい!永太!」
俺はすぐに部屋から出て母さんの元へ行った。
「今日...今日何日?」
「どうしたのあんた。今日は2月21日だよ。」
やっぱり時間が戻った。
「とりあえず。玄関で紗奈ちゃん待ってるから」
俺はいつも通りの準備をした。そして余っているノートを使って日記をつけた。
「2024年2月21日 過去に戻ることが出来た。」
とりあえずこれだけ書いておこう。
「行ってきます!」
「行ってらっしゃい永太」
ガチャ
驚いてしばらく動くことが出来なかった。そこには亡くなったはずの紗奈がいた。
「おはよう永太。今日も遅かっ おっと!」
俺は感動よあまり紗奈に抱きついてしまった。
「どうしたの!?永太?いつもはこういうこと恥ずかしがってしないのに」
「よかった...よかった」
「ちょっ!永太。何が?」
俺は冷静でいられなくなっていた。でも、時間を戻すことを知られる訳にはいかない。俺は涙を拭った。
「何でもない行こう」
「う、うん」
そうだ感動している場合では無いこれからこれからなんだ。あの悲劇から救い出さなきゃ。俺はいつも通りに振る舞う。
「にしても今日も寒いな」
「大丈夫?うゎ!永太の手冷た!」
あの日と同じだ。
「さ、紗奈の手が暖かいだけだ。」
2回目だけどやっぱりドキドキした。
「あっ!今ドキッとしたでしょ?」
「なんでわかったの?」
「分かるよ。てかなんでそんなドキッとしてるの?私たち付き合ってるんだよ?普通でしょ。」
「いや紗奈が気にし無さすぎるだけだよ。」
「ふふ。」
「永太、今日放課後空いてる?」
放課後行くべきなのかあのカフェにそもそも時間帯の問題だったりしたのかもしれない。よし、断ればもしかしたら大丈夫かもしれない。
「ごめん!ちょっと今日部活の用事があって空いてないわ」
「そう...じゃあ待ってるから」
よし。しかしどうしたものか。本当は用事がないから誤魔化す必要があるな。やり方を考えながら一日が過ぎてった。授業の内容も全く一緒。なんの代わりもなかった。
「永太、今日一緒にカラオケ行かね?」
「ごめんちょっと今日は用事があるんだ。」
「そうか。分かった」
「また誘ってくれ」
「おう」
さて、ここからどうするかとりあえず1時間くらいは学校に居なきゃいけない。俺はとりあえず紗奈に見つからないようにしながら学校をウロウロしていた。しばらくすると紗奈は校門前に立っていた。
俺の事をずっと待ってくれている。時間も時間だしそろそろ行こうと思った。怖くて震えている自分がいたが大丈夫何も起きない。そう信じて俺は紗奈の元へ向かった。
「ごめん遅くなって」
「全然大丈夫。帰ろう」
何か迫ってきていないか注意深く観察しながら歩いていく。
「今日はこっちから帰ろう」
あの日と同じように言ってきた。正直あの道のせいで紗奈が死んでしまったと思っている自分もいたが、時間帯も違うから大丈夫だと思って
「うん」
と返した。しばらく進んでいくとあの時の横断歩道まで来た。あの時のことが映像のように目の前に流れてきて吐き気がしてきた。俺は紗奈の手をしっかり握った。紗奈の手を離すことなく横断歩道を渡りきることが出来た。これで大丈夫だと思い俺は紗奈に抱きついた。
「ちょっ。どうしたの?今日の永太なんか変だよ」
「大丈夫。安心した」
「意味わかんない」
そして何事もなく紗奈は家に着くことが出来た。
良かったこれでいつも通りの日常に戻れる。安心して俺はベッドに寝転がりそのまま眠ってしまった。
しばらくして母さんが俺を起こす声が聞こえた。
もう朝なのか。昨日は夜ご飯も食べてないし母さんに迷惑かけただろうなと思っていたらまだ全然夜でどうしたんだろうと思っていると母さんは冷や汗ダラダラで焦りながら
「さ、紗奈ちゃんが...」
俺はすぐに察した。
「紗奈が紗奈がどうしたんだ。」
俺も焦りながら聞き返した。すると
「工事中の鉄骨の下敷きになって...」
俺は母さんの両肩を両手で強く握りながら大きな声で
「ねぇ!紗奈は、紗奈は生きてんのか!」
と聞くと、母さんは静かに下を向き答えた。
「亡くなったって」
2度目の絶望が襲いかかってきた。なんで、なんでまた。
俺は急いで外に出てまたあの扉まで駆け出した。不気味な雰囲気が印象に残りすぎて地図も見ないでその扉に着くことが出来た。
扉の前に立ってまた扉の横に書かれた文字を見た。
「...間を操る扉『アメ...』」
「行きたい...を想像し扉を開け」
「.....を使う際は日記をつけろ」
「00000547」
書かれている文字が変わっていた。消えている部分が変わっているのもそうだ。書かれていた謎の文字の羅列も変わっている。どういうことだ。いや、そんなことどうでもいい。今はただ紗奈を救いたいんだ。
(紗奈が死ぬ前のあの日へ!)
心の中でそう叫びまた俺はその扉を開けた。
「は!」
またいつも間にか自分の家のベッドの上だった。
ピピピピピピピ
起きてから少ししてアラームがなった。
そうだ。日記を書かなきゃいけない。そういえば前書いたやつなんて消えてしまうから日記をつけても消えてしまう。そう思いながらも俺は日記をつけた。「2024年2月21日 過去に戻ることが出来た。」階段を降りてリビングへ向かう。
「おはよう」
「おはよう永太。早くご飯食べちゃいなさい」
「うん」
違和感を感じながらもいつも通り準備して玄関に向かう。
「おはよう」
「おはよう永太」
同じ光景だ。
しばらく歩いてまたあの話をする。
「永太、今日放課後空いてる?」
さて、どうするか。紗奈は絶対に家に帰れたはずだ。なのに工事中の鉄骨で死んだということはその後外に出かけたに違いない。これは今回も断ってから2回目と同じ行動を取り、家を出る様子を見た方がいい。
「ごめん!ちょっと今日部活の用事があって空いてないわ」
「そう...じゃあ待ってるから」
また前と全く同じ授業などでつまらない。時間はあっという間に過ぎ去っていった。
「おまたせ」
「うん。じゃあ帰ろうか」
あの時と同じように帰っていく。なんのトラブルもなく普通に家に着いたがここからが重要だ。俺は紗奈が家から出るかこっそり見た。しばらくすると、紗奈は家から出て歩き出した。俺はどこへ行くのかついて行くことにした。しばらくするとスマホのメモを見ながら歩いていた。きっと近くのスーパーでおつかいを頼まれたのであろう。ほんの少しスマホに目を向けていたその時だった。
ガタン!
まずい。上から大きな鉄骨が落ちてくるのが分かった。ここで紗奈は...そう思いながら迷わず足が出て紗奈の元に向かった。
「紗奈危ない!」
「え?」
すぐに紗奈を俺は引っ張った。
ドーン!
何とか間一髪ぶつかるのを防ぐことができた。
「ありがとうごさいま...永太!?なんでここにいるの!?」
「いや偶然通りかかっただけだよ。にしても危なかったな」
「ありがとう...」
紗奈は少し寂しそうな顔をしていた。
「怖かった。死ぬところだったよ。じゃあ。私おつかい行かなくちゃ」
「待って!さっきみたいなことがあったら大変だ。俺時間あるしおつかいついて行こうか?」
「ありがとう。でも大丈夫」
とは言っていたものの、やはり心配なのでこっそりついて行くことにした。しばらく紗奈は周りを警戒しながら歩いていた。紗奈は普通におつかいをして結局何事もなく家まで帰っていった。ここまで来れば安心だろう。そう思い俺は帰ることにした。家に帰るとすぐに2階に上がった。安心した気持ちも少しはあったがやっぱり心配になって落ち着いてはいられなかった。朝に書いた日記を意味もなく見返したりして時間が過ぎる。すると、母さんが階段を駆け上がって来る音が聞こえた。この時点で俺は察した。
「永太。さ、紗奈ちゃんが...車に轢かれて亡くなったって」
今回も俺は助けられなかった。俺は泣き叫びながら「アメノミ」のところまで向かった。焦っていてそのまま日記も持って行ってしまった。
またあの扉の前に立つ。隣にはまた説明が書かれている。
もう見る暇もなかったがやっぱり謎の数字が変わっていたことにだけは気づいた。
「02145BC7」
そんなことはどうでもいい。
(紗奈が死ぬ前のあの日へ!)
心の中でそう叫びまた俺はその扉を開けた。
「は!」
またベッドの上だった。何故か俺は日記を手に持ったままだった。そういえば時間が戻ったあと服装が扉を開ける前の服装であることに気づいた。そんなこと今はどうでもいい。とりあえず日記を記す。まだ内容が残ってる。
「2024年2月21日戻ってきた3回目」
前に書いたところに2回目と付け足して日記を閉じた。
ピピピピピピピピ
今頃アラームがなる。止めて準備して学校に向かう。次こそは必ず紗奈を救ってみせる。
.....何度繰り返しただろうか.....
10回?20回?いやそれ以上か?日記を見て気づくもう27回も繰り返している。何度繰り返しても結局紗奈は死んだ。色んなことを試した。行き先を変えたり、紗奈をずっと見張ったりどんなことをしても結局帰ることの出来なかった。俺は気づいた。よくマンガやドラマである事だ。過去に戻れたとしても運命を変えることは出来ないのだと。俺は悟りただ部屋にこもった。
もう救えない絶望でしばらく家に引きこもっていたある日守が家に来た。
「おーい大丈夫か永太?」
「大丈夫だと思うか...ごめんちょっと出ていってくれ」
「分かった。お前が辛いのが分かるとは言わない。大切な人が亡くなったことがない俺が言ってもただの綺麗事だ。でも俺はお前のその苦しさを一緒に歩んでいきたい。手を取ってくれないか永太」
どんな思いで守がここまで来たかその一言で少し分かった気がする。いつまでも挫けたままではいけないと分かった。いつまでも引きこもって失ったものから目を背けていてはいけないと思った。俺は守の手を握った。
「ありがとう...」
涙が溢れてしょうがない。紗奈失ったとしてもそれ以上何も失ってはいけない。俺はそう思った。
「泣くなよ永太。大丈夫か?明日学校行けるか?」
「大丈夫だ。もう目を背けない。逃げたりなんかしない。」
俺は紗奈のことを頭の片隅に置きながら辛いことからも逃げず向き合って生きていこうと決意した。運命は変えられないのだから。
引きこもっていたが守のおかげで学校に来ることができた。クラスにつくと周りは俺のことを心配してくれた。
普段喋らないような人まで話しかけてくれた。
「お前紗奈と仲良かったもんな...いつでも頼ってくれよ」
「大丈夫?紗奈ちゃん...辛いよね...」
「わざわざありがとう...もう...大丈夫...だから」
言葉が詰まりながら俺は言った。大丈夫だと思っていても心のどこかでやっぱり紗奈が居ない辛さを感じているのだと思う。
学校生活が普段通り過ぎていく。でも、紗奈が居ないからか物足りなさというか、大切なものがないような気がする。それでも、無理をしてでも振り切って俺はいつも通りの俺を振舞った。これでいいんだと思えるように。
「永太。今日さカラオケ行かね?」
「守...」
「まぁなんだ。元気づけ的なやつだ。」
「ありがとう。行こうぜ」
「おう!マジか!正直来ないかと思った。じゃあ行くか」
「フリータイム2人で」
「かしこまりました学生証はお持ちですか?」
「はい」
「ではご案内しますね」
タッ...タッ...タッ...タッ...
「ごゆっくりどうぞ」
「よっしゃ今日は存分に歌うぞ!」
「おーーーー」
「なんだ永太テンションが低いぞもっと楽しもう今日は」
「そうだな」
そうして俺たちは遅くまでカラオケを楽しんだ。
「もうこんな時間になっちまったな。どう気は楽になったか?」
「少しは楽になった。本当にありがとう」
「いいよいいよお礼なんて親友だろ」
「あぁ」
「そんじゃあまた学校で」
「おう」
守と別れて自転車を漕ぎながら俺は紗奈を思い出して泣いてしまった。もうどうしようもないと分かりながら俺はあの山の方へ自転車を走らせてしまった。気がつくと俺は「アメノミ」の前に立っていた。何やってんだろ...変えれないと分かりつつもほんの少しでも期待を持っていたのだろう。俺はまた扉を開ける。
(紗奈が生きて欲しい)
俺は心の中でそう叫んでしまった。
「は!」
またあの朝だ。何やってんだろ俺。スマホを見る。
「え?」
時間がいつもより早く起きていたのはまだ良かった。問題があったのは日付だ。3月5日になっていた。理解が出来なかった。過去に戻るどころか未来に行っていた。しかし、「アメノミ」の説明に時間を操ると書かれていたため過去に行くだけではなく未来に行くことも出来るのだと気づいた。でも、これでは意味が無い。いや、もう紗奈の居ない生活をしていくしかないのかもしれない。日記を書くことにした。
「2024年3月5日 未来に来た」
俺はすぐに階段をおりた。
「あら、今日は早いね永太」
「おはよう母さん」
朝ごはんを食べて準備をして俺はいつも通り玄関を開けた。
ガチャ
「おはよう永太」
「なんで」
目の前にいたのは紗奈だった。
「なんでって何が?」
「いやなんでもない」
どういうことだ。紗奈は2月の21日死んだはずだ。なのにどうして、過去を変えることができたという事か。でも、俺は何もしていないてことは誰かがこの運命を変えたという事か。そもそも「アメノミ」がブログに乗っているし俺以外にも時間を操っている人がいると考える方が自然だ。でも、じゃあ誰が変えたというのだ。紗奈に関係している人。
「おーいおーい」
「あ。ごめん紗奈」
「どうしたのすごいぼーっとしてたけど」
「ごめんちょっと考え事してた」
「ふーん彼女の事を置いておいて考える事って一体なんでしょうかね」
「ごめんって」
「まあいいけど」
紗奈が少し笑いながら言った。そうだな今はどうでもいい。紗奈が目の前にいるのだからこの時間を大切に生きていけばいい。
いつも通りの日常に戻った気がした。でも2月21日から3月5日までの勉強の内容を知らないから授業についていくのが正直大変だった。
「永太〜帰ろ〜」
「はーい今行く」
また俺たちはいつも通りの道を歩いていく。特に何も起こらない。もしかしたら俺は長い夢を見ていたのかもしれない。そう思うようになってしまった。歩いている途中急に紗奈が口を開いた。
「今日家寄ってく?」
「え?」
正直戸惑った。家寄ってくってそういうこと!?もしかしてこの後俺は紗菜と...
ガチャ
「お邪魔します」
「あらおかえり」
「ただいまママ」
「え?あ?お母さんいるんだ」
「ん?そうだよ」
変な期待をしていた自分が馬鹿だった。確かに「今日家親いないんだ」のテンプレートのセリフもなかったしな。
「この子が彼氏くん?いつも紗奈がお世話になっております」
「いやこちらこそお世話になってます」
「なんだよ永太その返事は〜」
笑いながら紗奈が言ってきた。
「どうぞ上がって上がって」
「失礼します」
「2階上がったら私の部屋あるしそこで待ってて」
「分かった」
「あっ飲み物お茶でいい?」
「うんありがとう」
2階に上がり「SANA」と書いてある部屋があった。ここが紗奈の部屋だろう。正直緊張する。女子の部屋なんて人生で一度も入ったことない。心臓の音が耳に直接聞こえていながらもゆっくりとドアを開けた。
そこは綺麗に整っていて可愛い部屋だった。これが女子の部屋かと感心してしまった。
「おまたせ」
お茶の入ったマグカップを2つ持って紗奈が来た。
「じゃあなんか見る?サブスクでなんでも見れるけど」
「え?あ?じゃっあの、あれ見たい『明日の手紙』」
「あーあれねあのラブコメ私も見たかったやつ見よ見よ」
「てか、永太なんか緊張してる?どうした?」
「いやあの別になんでも」
やっぱり緊張してるな俺。でも大丈夫映画見て気を紛らわせればいいんだ。
そして二人で映画を見出した。
ダメだ。ラブコメなんて見るんじゃなかった。余計緊張する。キスシーンとか出てきたし、ドキドキしすぎてもう心臓がうるさい。色々余計なことを考えてしまう。
その時、俺の手に紗奈が手を重ねてきた。映画見てるから何も言えないし心臓が鳴り止まない。はやくはやく終わってくれ。
「面白かったねこの映画ねえ?永太」
結局映画に全然集中出来なかった。もう心臓が持たない。
「そろそろ俺帰るわ」
「じゃあすぐそこだし家まで送ってくね」
「そんなわざわざありがとう」
「じゃあママ送ってくるから」
「はーい」
タッ...タッ...タッ...タッ...
「あの映画よかったね永太と見れてよかったよ」
「そ、そうだネ〜」
やばい。さっきのことが頭から離れない。紗奈はよくあんなことが出来るな。
「どうした凄いカタコトだよ?面白くなかった?」
「いや面白かった面白かった。また一緒に映画見よ」
「うん」
少し緊張しながらも楽しく話していた。気がついたら家に着いていた。
「じゃあ俺はここで」
「待って」
「どうしたの?さっ」
チュッ
え?え?え?えぇぇぇぇ
急に俺の唇に紗奈の唇が優しく触れた。紗奈の甘い香りがする。口に今までにない柔らかい感触がする。
「じゃあ明日また学校で」
紗奈は顔を赤らめてそそくさと帰ってしまった。あんな紗奈を初めて見た。紗奈も照れていたんだと思う。にしても急にキスは反則だよ。
俺は家に入ると即座に自分の部屋に行き今日のことを思い返していた。恥ずかしくて顔が真っ赤になった。
そして、ご飯を食べる時も風呂に入っている時も今日のことを思い出して落ち着かなかった。
ベッドに入っても今日のことが頭から離れなかった。
はぁ
「こんな日常が毎日続いて欲しいな」
暗い部屋で俺は一人ボソッと口にした。
紗奈が無くなってから1週間経った。このところ毎晩のように紗奈の死ぬところが繰り返される夢を見る。今日も憂鬱ながらも日記を書くことにした。
「2024年2月28日 朝起きるのは憂鬱で仕方がない。」
学校行くか。朝の支度をして俺は家を出た。
「行ってきます」
ガチャ
ドアを開けた後に誰もあいさつをしてくれないことに少し寂しさを感じながらもそれらを振り切って学校に向かった。一人で歩くのは何だが久しぶりな気がする。
そして俺は紗奈の死について一人考えながら歩いた。
まず、紗奈が生きることはできるということが分かった。だけど結局死んでしまっている。運命には抗えたはずだがダメだった。そして俺はあるひとつの仮説を立てた。俺以外にも時間を操る人がいるのは不自然では無い。この力を後悔のために使う人がほとんどだろう。俺だってそうとしか考えられなかった。だからこそ気づけなかった。逆に復讐的なことで使っているやつもいるのではないかと。要は、紗奈をどれだけ死なないようにしても紗奈が死ぬ様に仕向けているやつがいると俺は考えた。俺が時間を戻して紗奈を救うからそいつも紗奈を殺すために時間を戻す。キリがないような戦いをしているわけだ。だから俺はそいつを見つけ出す。絶対に見つけ出して紗奈を救ってみせる。
とは言っても正直手がかりが全くない状況でどうするべきか。
キーンコーンカーンコーン
「大丈夫か永太。やっぱり浮かない顔してるなまぁそりゃそうか」
「すまん変な顔見せたな。」
「しゃあないよ気にすんなとりま購買行く?」
「おうじゃあ行くか」
購買はいつも通り並んでいた。並んでいる間何を買うか考えていた。ふと行列を見るといつもふたりで並んでいるはずの女子が一人で並んでいるのに目がいった。そういえばあの人はいつも紗奈といる人だ。俺も話したことがある。えーと確か名前が関根さんだったけな。そうか、もしかしたらこの人なら紗奈を恨むような人を知っているかもしれない。俺は購買でメロンパンを買いすぐに平らげ紗奈がいたクラスの所へ行った。
「いた」
俺は関根さんの所へ向かった。
「関根さんちょっといい?話があるんだけど」
「あなたは...紗奈の彼氏の」
「そうですそうです。覚えてくれてたんですか」
「幼馴染の彼氏くらい覚えてて当然よそれで話って」
「紗奈について話したいことが」
すると急に顔色が変わった。
「ごめん今はちょっと...」
きっと紗奈が亡くなったのが辛いのだろう。そりゃ何年も一緒にいた親友が急に事故でなくなるのは辛いに決まってる。実際俺も初めて亡くなった時は本当に立ち直れなかった。
「ごめんこんな時に...でも一つだけいいかな。紗奈に恨みを持ってたような人っている?」
「は?あんたなんでそんなこと聞いてんの?今紗奈が亡くなって私も辛いのに」
「本当にごめん。でもお願いだから聞かせてくれ」
関根さんは大粒の涙を何滴も垂らしていた。それを見て俺が女子を泣かせたと思った人が俺の陰口を言っている。いつもの俺なら正直へこむ。でも、今はそんなのどうでもいいくらいに関根さんから聞かなきゃいけないんだ。
「紗奈はみんなから好かれてる人だったしわかんないよ」
関根さんは泣きながら答えた。
「ありがとう話してくれて。悲しい思いをさせてごめんそれじゃあ」
「でも...」
俺が自分のクラスに戻ろうとした時彼女は言葉を続けた。
「でも?」
「思い浮かぶ節があるとするなら1人だけ」
「教えて誰?その人は!」
「声がでかい。うるさい」
「ごめん」
「謝ってばっか本当に反省してる?」
「反省してます。」
「本当?まあいいけど。」
「で、その人って」
「紗奈の元カレ」
「元カレ?そんなの沢山いてわかんないでしょ」
「あれあんた知らないの?そっかまぁ紗奈は今彼にそういうこと言うタイプじゃないか。紗奈はあなたともう1人としか付き合ったことないよ」
「え!?そうなの!?」
「そう。紗奈は凄いモテるんだけど正直恋愛に興味なかったんだけどそれでも何度も何度もめげずに告白した人がいて、ついにその人に紗奈は惹かれて恋愛に興味を持つようになったの」
「そうなんだ。で、その人って?」
「名前は確か神崎誠」
「なんでその人が...」
「いや正直全然知らないよその人が紗奈を恨んでたか動画なんて知らないけど思い当たる節がそれくらいしかないってこと」
「そっか。その人って今どこにいるの?」
「ごめん。そこまでは知らない。紗奈は中3の途中に神崎と別れたから志望校もどこか知らないまま」
「そっかありがとう関根さん。助けになった」
「そう。なら良かった」
そうして周りから変な目で見られながらクラスに戻った。
やるべきことは決まった。神崎誠を探し出す。
「さっきは急にどっか行ったけどどうした?」
「すまんな心配かけた」
流石に守にもこの話は出来ないな。とりあえず手がかりを探す。中学校の時付き合っていたということは同じ中学校の東中の人を探せばいい。俺は先生などに聞いて東中だったやつを探し話を聞くことにした。俺たちの代ではあまり東中のやつが少ないらしく、いたのは紗奈と関根さんとそしてもう1人男子がいるらしいその男子に話を聞いてみることにした。
「もう1人東中の生徒がいるって聞いたんだけど君?」
「うんそうだけどあなたは?」
「俺は間宮。紗奈の彼氏です」
「紗奈?」
「同じ中学校だから知ってると思ってた。哀川紗奈」
「あ〜哀川さんの。知ってる知ってる」
「で神崎誠ってやつの話を聞きたいんだけど」
「神崎?神崎についてはまぁ知ってるよ」
「本当!じゃあ神崎がどこの高校行ったか知ってる?」
「うん。確か緑大付属だった気がする」
「ありがとう!」
よし掴めた。あとは緑大付属高校に行けば神崎と会える。
俺は次の日、緑大付属に行くことにした。ここからじゃ正直遠いけど電車を使い行くことが出来た。ついに俺は紗奈の仇を...
俺は事務室に直ぐに問い合わせた
「神崎誠いらっしゃいますか?」
「神崎誠?」
「はい。この高校に通っていると聞いて」
「少し待ってて...」
「ごめんなさいうちには神崎誠という生徒いません」
「は?」
「どういうことだ!」
俺は帰ってすぐに元東中の男子生徒に問いただした。
「知らないよそんなの。僕はあまり関わり無かったし志望校がそこって聞いただけで進学したのがそこかどうかは知らないよ」
「そうかごめん。俺も冷静じゃなくて」
「分かってくれたならいいよ」
「ありがとう」
緑大付属にはいなかった。志望校はそこだったが落ちたということか。確かにあそこはレベルの高い進学校だ。そりゃ落ちても仕方がない。そこ以外で同じ位のレベルの高校は、山ヶ丘高校そこしかない。俺は学校が終わるとすぐに山ヶ丘高校に向かおうとした。
「おい永太」
校門の所で守るが俺を止めた。
「どうしたの?今急いでるんだけど」
「お前最近変だから何かしてんのかなって」
俺は何も言えなかった。
「紗奈が亡くなって悲しいのは分かる。それでも最近の永太は変だ。何か怪しいことをしているようなそんな感じがする。」
「いいから俺行かなきゃ」
「どこにだよ。俺も連れてけ。心配なんだ永太が」
「ごめん。でも守には...」
「辛いことを一人で背負わないでくれ」
「すまん。じゃあ着いてきてくれ」
「おいちょっと待て。目的も場所もわからん状態で」
「ごめんそれは今伝えられない」
俺たちはバスに乗って山ヶ丘高校へ向かった。
隣に守がいるから少し落ち着かなかったが案外すぐに山ヶ丘高校に着いた。
「なんで山ヶ丘?」
「いいから」
怒りでまともな返事ができない。いつもならもう少し柔らかく言えた気がする。
そして事務室に問い合せた。
「神崎誠っていますか」
「あーはいいますよ」
「玄関前に呼んでもらうことって可能ですか」
「まぁ一応出来ますが。申し訳ないですけど神崎さんとはどんな関係で」
「関係っていうか事件の重要参考人ですよ」
「事件!?分かりました。すぐお呼びします」
電話はすぐ切れた。
「お前事件って。永太なんでそんなこと...」
しばらくして一人の男子生徒がこちらに向かってきた。
「お前か神崎誠は」
「はい私が神崎ですが。すいませんどなたですか」
「紗奈の彼氏だ。話がある」
俺はそう言って神崎の袖を引っ張って近くのファミレスに向かった。
「ちょっと待ってくださいなんですか急に」
「紗奈について話がある」
「紗奈って東中の?」
「そうだ。お前はよく知ってるだろ」
「そりゃ元々付き合ってたから」
ファミレスについて俺、守、神崎が席に着いた。
「で話とは」
俺は声を荒らげて大声で胸ぐらをつかみながら
「お前が!お前が!!紗奈を!紗奈を!...」
「おいおい永太落ち着けって」
「ちょっとやめてください僕が紗奈に何をしたって言うんですか」
「惚けるな。お前が紗奈を殺したんだろ」
「「は?」」
永太と神崎が戸惑っていた。
「紗奈は亡くなったんですか?」
「あ?知ってるだろ。お前が殺したんだから」
「待て待て永太なんでこの人が紗奈を殺すんだよ。それにあれは紛れもなく事故だったじゃないか。お前も目の前で見ただろ。苦しいのは分かるが人のせいにするな」
「そんな...紗奈が」
「いつまでシラを切るつもりだよ」
「いや、本当に知らない。第一紗奈が亡くなったのを知ったのは今ですよ」
「『アメノミ』この言葉を聞いてもか」
すると神崎は不思議そうな顔をして言った。
「なんですか。『アメノミ』って」
「知らないわけないだろ。時間を戻せるあの扉を」
「「は?」」
「おい永太時間を戻せるってどういうことだ。そんなこと出来たら紗奈は生きてるじゃないか」
「それでも死んでる。だからお前が『アメノミ』を使って紗奈を何度も何度も殺してんだろ」
「いやいや本当に知らない。というかなんで俺が疑われているの」
「紗奈を恨んでいるやつがお前くらいしか浮かばなかったからだ」
「ちょっと待て俺は紗奈を恨んだりなんかしてない」
「じゃあお前はなんで紗奈と別れたんだ」
「勉強に集中したかったんだ。目指していた高校のレベルが高くて紗奈にかまってやれないから」
「え?」
俺はその時神崎の納得がいく説明を聞き急に冷静になった。俺は視野が狭くなっていた。初めから勝手に神崎が殺したと思っていた。自分の誤りを謝罪しなきゃと思い俺は床に頭をつけた。
「本当にすみません。勝手に疑って」
「まぁまぁ。紗奈が亡くなって辛いのは分かりますので」
「優しいんですね」
「それより時間を戻すってどういうことだ永太」
「そうです。そこが気になってたんですよ」
「俺は紗奈が亡くなってからしばらく立ち直れなくてふざけて時間の戻し方って検索したら時間を戻せる扉『アメノミ』って言うブログを見つけたんだ。俺はそこへ行ってその扉で時間を戻して何度も何度も紗奈を救おうとした。でもダメだった。」
「いや待て待て話がついていけない時間を戻す何言ってんだよ」
「でも、それって結局死ぬようになってるとかじゃないですか。運命は変えられない的な」
「え?なんで神崎さんは話がついていけてるの?え?俺だけ?」
「俺もそう思って1回諦めたんだ。でも1回だけその亡くなった日に死ななかった時があったんだ。まぁ結局いつの間にか死んでしまったけど」
「あんま分かんねぇけど要は何回も死ぬのは時間を戻せるやつが殺してるとしか考えられないってことか?」
「そうだから神崎さんを疑って...本当ごめん」
「もういいからさ。でも紗奈がそんな目にあってるのは許せない。俺達もなにか協力するよ」
「ありがとう」
さっきまで俺があんだけ酷いことを言ったのに神崎は優しくしてくれたことに俺は涙を流しながら言った。
「でもどうすればいいんだろうな」
「紗奈を恨んでた人から探すのは難しいんだよ。関根さんが紗奈はみんなから好かれる人だったって言ってたし」
すると神崎が急に何か閃いたような顔をして言った。
「逆だよ。時間を戻してる人からサナを恨んでる人を探せばいいんだ。」
「確かにそれなら上手く絞れそうだがそんなの分かるものか?」
守がそう口にすると続けて神崎が
「時間を戻して前と違う行動をしてる人を探せばいい」
「なるほど。そうすれば探すことが出来る。ありがとう守。神崎さん」
俺はそう言ってすぐに店から出て駆け出した。
「おいちょっ永太...聞いてねぇし...」
待ってろ。絶対に見つけ出してやる。
俺は「アメノミ」の前に着いた。そしてまた俺はあの時のように
(紗奈が死ぬ前のあの日へ!)
心の中でそう叫び俺は扉を開いた。
また同じ朝を迎える。何度この日に来たかなんてもう覚えていない。でも周りの様子をよく見てきた。いつもと違う行動をしてる人を探せる気がした。俺は日記を描き身支度をし家を出た。
「おはよう永太」
「おはよう」
こうやってまた同じ一日が始まる。俺は周りを警戒しながら紗奈と歩いた。
「ねぇ?さっきからキョロキョロしてるけどどうしたの?」
「あぁいや別に」
「そう」
いかんいかん。バレてないように観察を続けることにした。学校につき周りを見渡す。正直俺も全員を見てる訳では無いからあんまわからないがそれでも探すことにした。
1日探したが全然見つからない。でも紗奈を殺そうとしてるということは紗奈が死ぬ前に違う行動をとる可能性が高い。そう思って帰ろうとした時、
「永太、今日一緒にカラオケ行かね?」
「悪ぃ、今日は彼女と予定あるんだ。」
「そうかよ。お熱いカップルなこった。」
「ごめんな守、また誘ってくれ」
そういやまだこの時じゃ永太は俺が戻れることを知らないのか。成功したら守にも伝えないとだな。
しかし、結局なんの手がかりも得ることなく紗奈は死んだ。また俺は「アメノミ」の所へ行った。
また同じ朝が来た。何度繰り返さなきゃいけないのだろう。そう思いながらもまたいつも通り日記書き支度をし学校に行く。正直期待していなかった。しかし、俺は一人の男子生徒の行動に気がついた。彼は前購買でクリームパンを買っていたが今はメロンパンを買っている。俺はこいつは何回もループして飽きたから変えたのだろうと思いすぐにそいつの元へ行った。
「おいお前」
「はい。どうしましたか」
俺はいきなり喧嘩腰で言ってもダメだと思い神崎と同じ質問をすることにした。
「『アメノミ』これについて知っているか」
すると男子生徒は神崎と同じようなキョトンとした表情をして
「知りません」
と言った。神崎を見たから分かる嘘をついた人間の顔じゃないことが。
「すまない」
「あっはい」
俺は直ぐにその場を立ち去った。にしてもなぜ前と行動が違うのか不思議でならなかった。そしてまた観察を続けた。しかし、今回も何も見つからずまた同様に紗奈が死んだ。やはり、何度見てもなれない光景で毎回吐きそうになってしまう。それでもこれを乗り越えれば紗奈が生きていけると思い俺はまた「アメノミ」の所へ向かう。
同じ朝をまた迎える。そして結局何も起きないまま今日も紗奈と帰ろうとした時ふと気がついた。そういえばいつもここで守がカラオケに誘ってくれるのに今日は誘ってくれない。もしかして守が「アメノミ」を使っているのかと思い話しかけた。
「守。『アメノミ』について知ってるか」
「急にどうした永太。なんだそれ?新しいゲーム?」
やはり守では無い。でもなんで前と違う行動をとっているんだ。そう思いながらも俺はまた紗奈の死ぬ所を目撃する。腹の中に貯めてきた憎悪が今にも飛び出そうな感情を抑え俺はまた「アメノミ」の所へ向かう。
...もう何度やっただろうか。少なくとも30回は超えている気がする。結局何度も何度も探しても行動が違う人はいるのにその人たちが全員「アメノミ」のことを知らない。俺も何度も繰り返して疲労感が溜まってきた。何日も寝てない気がする。俺はまた朝いつも通りに学校に向かう。
「おはよう永太」
「おはよう」
「永太大丈夫?」
「何が」
「何がって。めちゃくちゃ疲れてるじゃん」
「あっ本当?」
「何かあった?無理しないでね。一人で抱え込んじゃダメだよ」
俺はその言葉を聞いて守も同じようなことを言っていたのを思い出した。
「ごめん紗奈先行ってて」
俺は走り出した。
「急にどうしたの?」
「忘れ物!」
俺はすぐに「アメノミ」に向かった。「アメノミ」は時間を操れるものだ。だから今すぐに「アメノミ」のことを知ったあとの守に会いに行けると気がついた。俺は扉の前に立ち心の中でこう叫んだ。
(守が「アメノミ」を知った時へ!)
ガチャ
気がついたら俺は神崎と守がいるファミレスにいた。
「守!お前に相談したいんだ」
「おう。急にどうした」
「俺さっき行って確かめてきたんだ『アメノミ』を使ってる人がいたかどうか」
「え?お前さっきまでここいなかった?」
「そんなことないだろとりあえずだ。そしたら色んなことがあってさ」
「色んなこと?」
「前回と違う行動を取っているのに『アメノミ』について知らない人が結構いたんだ。なんならその中に守もいた」
「え?おかしくね?なんで過去に戻ったのに違う行動取ってんだよ」
「それは俺にも分からない。だから相談に来たんだ」
すると、神崎が何か閃いてこう言った。
「時間を戻せるってことは一旦タイムリープについて調べてみればそしたら何か手がかりが掴めるかもしれない」
「確かに。ありがとう神崎さん」
「いえいえそれにさん付けはやめてくださいもう友達みたいなものですよ」
「神崎〜〜〜」
俺は涙が出てしまった。
「何してんだとりあえず3人で色々検索するぞ」
俺たちはタイムリープについて検索することにした。
「これとか違うかなんかそれっぽいやつ出てきたぞ」
守が嬉しそうに言った。
「どれどれ」
「この5分前仮説ってやつ」
聞いた時神崎は呆れた表情をした。すると優しく神崎が説明をしだした。
「5分前仮説というのはこの世界が全て5分前にできたものだという仮説です。なのでタイムリープにはあまり関係が無いものです」
「よく分かんねぇけど外れかよ」
俺もそんな仮説を初めて知った。正直俺もあまり意味が分からなかった。こうやって俺たちは色々調べたが結局手がかりになるものは見つからなかった。結局何も掴めず俺たちは解散することにした。
手がかりも何も無いのに気づいたら俺はまた「アメノミ」の前に立っていた。次こそは次こそは変えるんだ。そして俺が扉を開こうとしたその時、それを止めるように俺の腕を誰かが強く掴んでこう言った。
「やめとけ」
恐れながらも掴んだ人を確認すると30代くらいの男性だった。俺は勇気を振り絞ってその人に尋ねた。
「なぜです。あなた誰ですか」
「俺は佐野庄司。この扉を作った者だ」
「この扉を作った人?え?そんなわけ。は?」
「驚いてるな。これは俺が作ったも物だ」
「これ人工なんですか?」
「なんだよそこかよ。明らかに人工物だろ」
まぁ確かにそうだが。
「でなんで止めたんですか。俺は行かなきゃいけないところがあるんですが」
「お前さん『アメノミ』の使い方分かってないだろ」
「いや理解していますよ。使い方だって書いてあるんですから」
「お前じゃあこれは何を操るものか言ってみろ」
「え?時間ですよね」
「はぁ〜やっぱりな」
「なんですか?違うんですか。俺は過去に戻れたりしましたけど」
「これはな空間を操るものなんだ」
「空間?」
「そう並行世界って聞いたことあるか」
「まぁ。パラレルワールドとかそういうやつですよね」
「そうこれはそういうこの世界とは別の世界に行けるものなんだ」
「いやいやじゃあおかしいじゃないですか。なんで時間が戻れるんですか」
「俺も最初はそれを不思議に思ってた。だが研究を進めてあくまで仮説だがほぼ確定の答えが出た。それが5分前仮説だ」
「え?5分前仮説なんて関係ないでしょ」
「なんだ聞いたことあるのか。なら話が早い。そもそもこの並行世界というのは人や生物あらゆるものが選択をした時、選択されなかった世界線をもうひとつの世界としてつくる。そうやっていくつもの並行世界が生み出される。しかし、その世界が作られるまでに約5分の時間がかかるのではないかというのが俺の仮説だ。たがこの仮説はほぼ証明できている」
「じゃあ俺は毎回時間を戻っていたんじゃなくて別の世界に行ってまた別の世界の紗奈を見てきたってことか」
「紗奈?誰だそれは」
「俺の彼女です。事故で亡くなって」
「要はお前さんは彼女を助けたいから『アメノミ』を使ったと。前にもそんな奴がいたなぁ」
「だから行動が前と違うやつがいたんだ」
「まぁ時間とかで指定すると元の世界に最も近い世界に行ける。でも何度も何度も繰り返すとその分ズレてくる」
「じゃあなんで紗奈は毎回亡くなっているんですか。運命は変えられないのですか」
「何言ってんだ。お前がそんな世界を望んで行ったからだろ」
「そんな世界望んでな...」
「気づいたか」
「そうだ毎回俺は扉を開ける時心の中で『紗奈が死ぬ前のあの日へ!』って」
「そう。だからお前は自分から紗奈が死ぬ世界へ行ってたんだ」
「俺自身が紗奈を何度も殺していたのか...」
「考えたくないがまぁそういうことだな」
「じゃあ紗奈が生きている世界に行けばいいだけか。簡単な事じゃないか」
「いや。無理だな」
「は?なんで」
「まずお前が別の世界に行ってる時、その別の世界のお前の存在はどうなると思う」
「え?そこにいるんじゃないのか」
「俺も最初はそう思ってた。でもどこにもいなかっただろう」
「確かに」
「もう一度同じ世界に行った時どうなるかを探るため俺は同じ世界か分かるようにその世界に番号を振り分けた」
「『アメノミ』の説明の下に書いてあった!」
「そう。それで同じ世界に来ることができて俺は友人や家族に尋ねたんだ。すると俺がこの世界にいない時も俺はいたと言うんだ」
「ん?どういうこと?」
「つまりだ。入れ替わってるんだ。元の世界と別の世界の自分が」
「いやいや入れ替わってたら気づくだろ」
「それが気づかないんだ。だから毎回日記を書いて変なところを探してみると違和感があったりするんだ」
俺はすぐに自分の書いた日記を取り出して読み返した。しかし、どこにも異常がないと思った。
「変なところなんてないぞ」
「よく見てみろここを」
「2024年3月5日 未来に来た」
「2024年2月28日 朝起きるのが憂鬱で仕方がない」
「本当だ。過去に戻ってる」
「自主的に戻った訳では無いだろ。現にお前さん過去に戻った時は日記に書いてある」
「でも、この入れ替わりと紗奈のいる世界に行けないのはなんの関係性があるんだ」
「入れ替わりのトリガーとなるのはお前だけじゃない。別の世界のお前もそうだ。無量大数を超えるほどある並行世界の中でもお前さんの彼女の死んだ世界もごろごろいる。その世界のお前と入れ替わる。お前は一生彼女がいる世界を求めて入れ替わり地獄になるか。それとも、彼女のいない世界で生きるかのどちらしかないんだ」
「そんな...」
「いやでも...もうひとつないことも無いな」
「本当ですか!お願いします。どんな方法ですか」
「ダメだ。正直この方法は捨ての考えだ」
「それでもお願いします。どうしても紗奈を救いたいんです」
「お前さんの覚悟は伝わったいいだろう教えてやろう。その方法ってのは......」
俺はそれを聞いた時、恐ろしくなって逃げたくなった。それでも紗奈を救うためにやるしかないと思った。
「さぁお前はどの方法を選ぶ」
「そりゃもちろん」
「お前のようなやつならそう選ぶと思ったよ。正直やめて欲しいけどな彼女のためだろ」
「はい。じゃあ行ってきます。佐野さん」
「おう。気をつけろよ」
俺は扉を開けた。
ガチャ
「たく。行きやがったな。そうやって恋人を助けに行ったやつが前にもいたっけな」
ピピピピピピピ
また同じ朝...いや違う朝なのか。正直なかなか覚悟が決まらなかった。でもやるしかないんだ。紗奈が生きていくために。俺はまたいつも通りに支度した。日記は書かなかった。
「行ってきます母さん」
「行ってらっしゃい」
ガチャ
「おはよう永太」
「おはよう今日も寒いな」
はぁ...はぁ...
あの時のように息をかける。素直に手を繋ぎたいと言えばいいのになんでこんな時も言えないのだろうか。
「大丈夫?うゎ!永太手冷た!」
「紗奈の手が暖かいだけだ」
あの時よりドキドキしなかった。それ以上の使命感があったのかもしれない。
「なんか永太いつもと違くない?」
「気のせいでしょ」
「そう...ならいいけど」
決して紗奈に悟られてはいけない。
「あっ!永太、今日放課後空いてる?」
「え?あ〜今日は部活休みだし、空いてるよどうして?」
「今日ちょっとここ行きたいんだよね」
そうやってあの時と同じようにスマホで写真を見せた。
「なんかいいカフェだね」
「でしょ?凄い美味しそうなパンケーキがあるの!」
「OK分かった。帰り行こう!」
俺は前のデートを思い返した。今日も全く同じようなことしかしないのだろうと思った。それでもいいこの日々をまた同じように過ごしたいと思った。
キーンコーンカーンコーン
「永太、今日一緒にカラオケ行かね?」
「悪ぃ、今日は彼女と予定あるんだ」
「そうかよ。お熱いカップルなこった」
「ごめんな守」
「OK。彼女いない俺の分も楽しんでこいよ...」
「わかったよ。ありがとう守」
「水くせぇこと言うなよ」
「永太〜!行こ!」
「おう!今行く」
「じゃあ」
「永太行っちゃった。なんかいつもより表情が暗かったような...気のせいか」
俺はまた同じカフェに来た。それでも食べたのはもう結構前な気がする。味がもう思い出せない。それ以上に衝撃なことが記憶に残ったからだろうか。
「おーいおーい」
「あっごめんごめんボーッとしてた」
「何してんのよ。私はもう決まってるけど永太は何頼むの?」
「そうだな〜パンケーキがおすすめならこのチョコパンケーキにしようかな」
「飲み物は?」
「いつも通りミルクティーかな」
「わかった。すいませーん」
奥の方から店員さんが来た。
「はい。ご注文は?」
「えっといちごパンケーキ1つとチョコパンケーキ1つ
飲み物はカフェオレとミルクティーでお願いします」
「かしこまりました」
違うものを食べればいいのに俺は何故かあの時と同じものを頼んだ。もう一度味を思い出したいと思った。
「楽しみだね」
紗奈が凄い笑顔で言った。紗奈の笑顔がいつにも増して輝いて見えた。
「お待たせしましたいちごパンケーキとチョコパンケーキにカフェオレとミルクティーです。」
「ありがとうございます。」
「おいしそ〜」
パシャパシャ
「上手く撮れた?」
「うん撮れた撮れた」
「じゃあ早く食べようぜ」
「うん」
目の前には美味しそうなパンケーキ。ダメだ。あの時を思い出して涙が出そうになった。俺はそっとこらえてパンケーキをひとくち食べた。
「ウマ!」
「本当!美味しいね」
口いっぱいにパンケーキを頬張っている紗奈が本当に愛おしい。
あの時のようにして欲しいと思い俺はわざと口元にソースをつけた。
「永太!ソースついてるよ」
「あぁ!ごめん」
ちゅっ
「え!?」
「ソース取ってあげたよ」
前はすごいドキドキしていた。今はそれ以上に何故か安心感を感じてしまった。
「美味しかったね」
「そうだな。ここ教えてくれてありがとうな」
「ふふ。どういたしまして」
タッ...タッ...タッ...タッ...
俺は紗奈の袖を掴んだ。
「待って...」
「どうしたの?」
「今日はこっちから帰ろう」
「うん...まぁいいけど」
俺はあの時紗奈が事故にあった道を自分から選んだ。というかこの世界の紗奈はそれを選ばないはずだと思ったからだ。それ故紗奈は不思議そうな顔をしていた。
あぁ。なんでだろう涙が出てきた。
「ぐす」
「どうしたの?大丈夫?なんかあった?」
「大丈夫気にしないで」
俺は恐怖を振り切って前に進もうとした。すると紗奈は俺の手を掴んで言った。
「大丈夫じゃないでしょ?なんかあった?」
「大丈夫!大丈夫だから!俺は...」
俺は苦しさのあまり紗奈に抱きついてしまった。
「ちょっと急に!いつもこんなことしないのに」
紗奈の心臓の音が聞こえる。紗奈がドキドキしてるんだ。
「安心した」
そこから涙を拭い俺は作り笑顔をした。
「何かあったら言ってね私が助けになるから」
「ありがとう」
俺は紗奈の手を繋いだ。
タッ...タッ...タッ...タッ...
あの時と同じ道を歩いていく。もう見なれた光景に見えたはずのこの光景に何故か懐かしさを感じた。
赤信号で待ってる間俺は恐怖に押されて死にそうになった。それでも紗奈と手を繋いでるとなんだが安心して俺は笑顔を続けた。
信号が赤に変わり俺は紗奈の手を離した。
「どうしたの?」
紗奈がとても不思議がっていた。
「ありがとう」
俺は満面の笑みを見せて言った。ひとり俺は前に歩いたその時
キーーーーーーーーーーーーーーー
ドーーーーーーーーーン
そうだ。佐野さんが言っていたもう一つの方法それは...俺が死ぬこと。死んだ自分とは入れ替われないため死んだ自分の世界には行けないらしい。
俺は「アメノミ」を開く時に心の中で叫んだんだ。「俺が死んで紗奈が生きる世界へ」って。
「え?」
一瞬見えた紗奈の顔は状況を理解出来ず驚いていた。
すぐに紗奈は俺の元に駆け寄った。
「ねぇ!ねぇ!永太!」
「紗奈...ありがとう...」
あぁ声が全然出なくなってきた。
「ダメ...死んじゃダメ!」
「いいんだ...紗奈が生きていれば...それで」
「永太!永太!」
意識が朦朧としてきた。紗奈は俺の手を握って何か言っていた。俺には聞き取ることができなかった。
「また...救えなかった」