母性の碧巫女姫
オーバーロードの蹂躙により、世界樹の王宮の周囲は冷たい緊張感に包まれていた。
エルフの巫女姫は静かに立ち、母性と高貴さが溢れる巨乳の身体を護るかのように法衣を揺らし、碧国の運命を見つめていた。
「……逃げてください」
彼女は悲壮な決意を込めて言葉を紡いだ。
その声は絶望ではなく、静かな強さと慈愛が宿っていた。
響く声に、周囲のエルフたちは息を飲む。彼らは姫の命令に逆らうことなど考えもしなかったが、その言葉が告げる未来を恐れていた。
「姫様、いったいなにを……!」
ひとりのエルフが震える声で問いかけた。
その問いに答えるかのように、姫は静かに目を閉じた。
「……残念ですが、大勢は決しました。この戦い、我ら碧国の敗北です」
その言葉は鋭く、しかし穏やかであった。
巫女姫の背後には、世界樹の神秘的な光が差し込み、彼女を照らしていた。
迫り来る闇の中で、彼女だけが光の中にいるような錯覚さえ与える光景だった。
「!?」
驚愕の声が漏れる。しかし、姫はその声に応じず、ただ前を見据えて言葉を続けた。
「逃げてください。民を慈しむのが私の……世界樹の役目です」
エルフたちの間に静かな悲しみが広がる。守護すべき者たちを逃がすこと、それは誇り高き碧国のエルフたちにとって耐えがたい苦渋の選択だった。だが、姫は微笑を浮かべ、彼らを見つめた。
「ですがここで逃げたとて!」
法剣士の一人が叫ぶ。その声には焦りと恐れが混じっていた。彼らも理解していた。
「逃げた先には何もありません!だったらここで――」
「――希望はあります」
巫女姫の静かな一言が、重く沈んだ空気を切り裂いた。彼女の目は信じるものが宿っていた。その光は不安に揺れるエルフたちの心を僅かに照らし、微かな希望を灯した。
そして、姫はゆっくりと神託の言葉を口にする。
「神ノ風」
その名を告げると、王宮の空気が一瞬、変わったように感じられた。巫女姫の瞳がどこか遠くを見つめ、彼女は確信を持って続ける。
「彼ノ風を――」
法剣士たちは姫の言葉を待つ。沈黙の中で、誰もが彼女の次の一言に全てを賭けるかのように息を詰めた。
姫の言葉は、まるで運命そのものを告げるように響いた。
「希望の風。あの時……百万の魔軍を討った風を」
彼女の言葉が一言ずつ胸に突き刺さる。エルフたちはその時の光景を、遥か彼方にみていた。
彼女が言う“風”は
「――日本」
姫の口から出たその言葉が、空間を震わせる。エルフたちは皆、世界樹の力を信じ、そして彼女を信じるしかなかった。
「世界樹が教えてくれました……」
巫女姫の声が、世界樹から溢れる光に重なるように優しく響いた。敵の足音がどんどん迫り来る中、彼女だけが静寂の中に立っているかのようだった。
「神風は……世界を解放する……」
彼女の手がゆっくりと持っていた杖を掲げた。その瞬間、杖から淡い光が漏れ始め、空に舞い上がっていく。世界樹の守護と共に、彼女の言葉が風となって広がっていった。
「これをもって…………いって!」
その言葉は命令であり、最後の希望だった。逃げるべきエルフたちは、その言葉に従わねばならない。
「姫様……」剣士たちの声が震え、胸に秘めた感情が溢れ出す。
「……あの神風なら……きっと……!」
姫は微笑んだ。それはもう、誰にも止められない決意の表れだった。




