9話 家事の得意、不得意
美咲が去った後で、後ろから笑い声が聞こえて来
た。
「ごめん、ごめん。なんか兄妹ってこんな感じな
んだ〜一人っ子だったから面白いなって思って」
「ちょっと郁也、笑ったら失礼でしょ。ごめんね、
失礼なこと言って…」
「別にいいですよ。いつもあんな感じなので……
僕は気にしてないです」
「ねー、美咲ちゃんって言ったっけ?あの子駅前
のケーキ屋が好きなの?」
『あそこってマジで甘いよな〜ちょっと苦手かも』
「好きじゃないならはっきり言った方がいいです
よ?甘すぎるとか…」
「ん?俺って甘いの苦手だって言ったっけ?」
確かに、そんな事は聞いていない。
今、郁也が言ったのを聞いていただけだった。
「さっきの食事でも選んだものを見れば多少はわ
かりますよ」
「へ〜、そんな事で分かるの?」
「歩夢くんはすごいわね。ほら、郁也も意地悪言
ってないで、お兄ちゃんなんだからもう……」
『この子、ちょっと悪戯っぽいのよね〜大丈夫か
しら』
何に興味を持ったのか知らないが、あまり関わら
ないようにすればいい。
そもそも受験生なのだ。
遊んでいる時間などない。
「そういえば歩夢くんは今年受験生よね?勉強は
大丈夫?」
「はい、大体は家で勉強なので部屋へは来ないで
欲しいです。あと、片付けは自分でやるし掃除
も自分でできるので構わなくていいです」
「何?勉強教えてあげよっか?」
『俺意外と成績はいいんだよね〜。生意気そう
なのがいいじゃん。面白すぎっ』
何が面白いのかわからないが、今はそっとして
おいて欲しかった。
家に着くと、ちょうど追い着いた美咲と一緒に
なった。
「私が案内するからお兄ちゃんは部屋にこもっ
てれば?」
『ここは私がリードして頼れる妹を確立しなき
ゃだわ』
「はいはい、じゃー任せるよ。では、僕は勉強
してるので、何かあったら言ってください」
張り切っている美咲をおいて買い物をしまうと
部屋に籠ったのだった。
微かに聞こえてくる声に自然と心の声のが大き
く聞こえてきていた。
『やっぱり可愛い。部屋に入ったらどんな顔す
るのかな』
『お兄ちゃんかぁ〜、今は彼女いないし、私じ
ゃダメなのかな〜』
『触ったら嫌がるかな?少し触れてみたいな…
家族になるんだし、ちょっとくらい…いいか
な?』
『初めてのキスとか……いや、絶対アリでしょ!
家族だっていいよね?口じゃなければいいか
な?おやすみのチューとか?いやぁぁ〜恥ず
かし〜〜〜』
「はぁ〜、一体何を考えてるんだか……」
一息つくとキッチンへと降りて来た。
まどかさんがキッチンで夕飯の下拵えをしていた。
「あ……ごめんなさいね、勝手に使って…」
『どうやって切ればいいかしら……魚は苦手なのよ
ね…』
「あぁ、大丈夫です………魚苦手ですか?」
「え……そんな事はないわ!ちょっと考えてしまっ
ただけよ?」
『魚捌くのなんていつも魚屋さんに任せてたから
丸一匹買うだなんて思ってもいなかったわ、ス
マホで動画でもみようかしら?』
「苦手なら言ってください。僕がやるので…」
「出来るの?」
「そうですね、家の事は全般僕がやっていたので
……貸してください」
そう言って、包丁を受け取ると綺麗に捌いて見せ
たのだった。