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70話 バレた関係

部屋で聞いていた歩夢はなんとも言えない気持ち

になった。


父親の複雑な心境も、まどかさんの不安な気持ち。

郁也の歩夢への気持ち。

全部がわかるだけに、何も言いようがない。


コンコンッ。


ノックの後にガチャと入ってくる。


「……」


少しは遠慮して欲しいところだった。

不機嫌そうな顔で侵入者を見ると、機嫌がいいの

か駆け寄って来た。


「聞いてくれよ?俺が歩夢を口説く事、応援して

 くれてるってよ」


それは多分意味が違う。

そういいたいけど、口を動かしても声が出て来な

いのだった。


言いたい事は沢山あるのに…、喉が震えて何も言

えない。

自分でも分からない。

なんでこんな事になってしまったのか……


悲しそうに俯くと、いきなり手が伸びて来て抱き

しめられる。


「俺の事頼ってよ。もっと、歩夢の力になりたい

 んだ。お兄ちゃんとしてじゃなくて、一人に男

 として頼りにされたいんだ」


こんなところ誰かに見られたらと考えながらも、

つい甘えてしまう。


硬い胸板に顔を埋めると力を抜く。


クイっと顎を上げると唇に温かい感触が伝わる。


キスされているのだと理解した。

そして、ゆっくり目を開くと、さっき入って来た

ドアが開いている事に気づいた。


締めてこい。


と言いたいが言葉が出ない。

背中をバンバンと叩く。


『なんだよ、可愛いな〜もっとってことか?』


心に直接流れ込んでくる言葉に、「ちがーう」と

訂正を入れたかった。


だが、そのまま押し倒されるようにベッドにもつ

れ込んだのだった。


唇が離れてもすぐに塞がれ、何度もキスを重ねる。


「歩夢、好きだよ……」


「……」


何も言えずただ頬を染めると、視線を移した。


「何を……やってるんだ……」


入り口の方から聞こえる声に、ハッとして振り返

った。

さっきまでそこにはいなかったはずの幸樹が立っ

ていたのだった。


どこから見ていたのか?

歩夢を押し倒す郁也の姿はまるで襲っているよう

に見えたのだろうか?


何度もキスをして、話せないのをいい事に、好き

放題に弟に手を出した奴だと……。


幸樹の心の中では戸惑いと葛藤が混在していた。


「郁也くん、これはどういうことなんだ?歩夢に

 何をしている?」


「さっき、本気で口説き落とすって言ったじゃな

 いですか?」


「それは……相手が他人だと思ったからで…歩夢

 なのか?」


「はい、俺が惚れてるのは歩夢です。」


「いつからだ?」


「母と再婚する前からです。俺の一目惚れなんで。

 歩夢はずっと否定してましてけど……」


飄々という郁也に、幸樹の怒りがまじまじと見え

る。


「なら、今のは同意の上か?それとも…無理矢理

 か?」


「同意では……ないかな。でも、俺は歩夢を大事

 にしますよ?」


「黙れ!お前は……今後歩夢に近寄るな!今すぐ

 に出ていけ!」


「……わかりました。歩夢、…………その時は…」

『俺の気持ちは変わらないからな……待ってる、

 すぐに迎えに来るからな…』


「………」


こんなに激怒する父を見たのは初めてだった。


歩夢は何も言えずただ、黙って見守るしかなかっ

た。

幸樹の怒鳴り声に美咲とまどかさんも駆けつけた

が、みんなの見ている中、郁也は荷物をまとめて

出て行ったのだった。


「郁也……」


「母さん、ごめん」


泊まるところは決まっているのだろうか?

歩夢には見ている事しかできなかった。


2階の窓から見送ると、笑顔で歩夢に手を振って

来た。

なんとも危機感のない兄だった。


「お父さん、どうしたの?なんで郁也お兄ちゃん

 を追い出すの?酷いよ!」


「美咲、これからは、彼の事は家族じゃない。あ

 んな事を平気でいうとは……歩夢、お前もお前

 だ、なぜ助けを呼ばないんだ?」


「……」


何か言いたげに口を開きかけるが、声にならない。


「お兄ちゃんは声が出せないんだよ?お父さんも

 知ってるでしょ。」


「そうだったな……まさか郁也くんに脅されてこ

 んな事になったのか?言いなさい」


ふるふると首を振ったが、信じてはいない様子

だった。


「お兄ちゃん、何かあったの?郁也お兄ちゃん

 ともっと一緒にいたかったのに〜」


「何を言ってるんだ!あんなケダモノを家に入

 れたのが間違いだったんだ。家族に手を出す

 なんて……」


「私、手を出されてないよ?いつもデートも断

 られるし?……お父さん?」


父の幸樹の視線は歩夢に注がれている。


そして、ようやく美咲にも理解できたのだ。

郁也がいつも歩夢にベタベタとくっついていた

理由や、個人的に家庭教師をするといい出した

ことも。


美咲には目もくれなかった理由も。

全部歩夢がいたからなのだと……。


「えぇーー、お兄ちゃん、郁也お兄ちゃんと付

 き合ってたの?」

『マジで?男同士とか気持ち悪っ!郁也お兄ち

 ゃんを誘惑とか気持ち悪すぎ、汚さないでよ

 〜〜ってか、どこまでいってたのよ?嫌すぎ

 る〜』


「………」


美咲の辛辣な言葉が耳に入る。

誰にも聞こえていない言葉。

それがいつも歩夢を傷つけるのだった。


「…うっ……」


「歩夢っ!」


吐きそう……気持ち悪い……。


口元を抑えると、崩れ落ちる。

あわてて幸樹が支えようとするが、その手を

すぐに跳ね除けたのだった。





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