7話 見栄を張る父
ちょっと小洒落たレストランを予約した父に、少し
背伸びをしたのだろうと思う。
多分初対面の印象をよくしようとでもしたのだろう
か?
でも、父には似合わない。
もっと普通のファミレスでもよかったと思う。
まぁ、これも見栄なのだろう。
今だけでも、張らせてやろうと何も言わなかった。
先に着くと、まだ誰もきていないように見えた。
「すいません、予約の水城ですが……」
「はい、予約の水城様ですね。承ってます。こち
らへどうぞ。先にお連れ様がお待ちですよ」
「はい、ありがとうございます」
そう言うと個室に案内された。
父が先に着いているのだろうか?それとも美咲が?
そう思いながら案内された部屋に入ると見た事が
ある人が座っていた。
「えっ……貴方は……」
「あれ?この前の子じゃん。久しぶり…」
「あ……はい……」
目の前にいたのは痴漢事件の時に飛びかかってき
た男を軽々と取り押さえてくれた人だった。
「あら、知り合いなの?」
「うん、この前ちょっとね。すっごく勇気のある
子だよ」
「そうなのね。それは良かったわ、少しでも私の
事を気にいってくれると嬉しいわ」
「そうだ自己紹介がまだだったよね?俺は山尾
郁也、今は大学4年だよ。こちらは母のまど
か。よろしくね?」
丁寧に挨拶されると、歩夢も前の席に座ると軽
く会釈したのだった。
「えーっと、僕は水城幸樹の長男、水城歩夢で
す。もうすぐ父と、妹の美咲が来るので……」
「そういえば、私に女の子ができるのね?すっ
ごく楽しみだわ〜仲良くしてくれるかしら?」
「大丈夫だと思いますよ?あいつは意外と人見
知りしない性格なので……」
「ふふっ、そうだと嬉しいわ、もちろん歩夢く
んも、息子が二人になって嬉しいのよ〜」
『女の子なら、一緒にキッチン立ったりも出来
たらいいわね〜、料理とかは私得意だし、今
から楽しみだわ』
なんとなく、分かってはいたが、これは残念な
気がする。
でも、盗み聞きしているようでちょっとすまな
い気持ちになった。
それから数分して、父と美咲が到着したのだっ
た。
「悪い、悪い、道が混んでて遅くなってしまっ
た…」
「大丈夫よ。気にしないで。」
「まどかさん。今日もお綺麗で、これ良かった
ら……」
そう言うとどこで買って来たのか花束を渡して
いた。
こんな父親初めて見た気がする。
母にもこんな感じだったのだろうか?
「さぁ、席に着いたらまずは自己紹介を始めよ
うか…」
そう言って、父が家族の説明と、まどかさんと
の出会いなどを語り出した。
終始恥ずかしそうにしていたまどかさんは、嘘
偽りない人のようだった。
そしてさっきからじっと見つめる視線が来てい
る。
「えーっと、郁也兄さん?さっきからずっと見
てるけど 何か変かな?」
「いや、そんな事はないよ。君達があまりに可
愛いからついね」
『ほんと背も小さいし可愛い』
「いや、可愛いって……」
「本当ですか!私可愛いですか?郁也お兄ちゃ
んもかっこいいですよ!こんな人がお兄ちゃ
んだなんて〜嬉しいです!」
『えぇーーー可愛いって!!やっぱり?きゃぁ
ぁーーー』
我が妹ながらテンションが高かった。
そして何より、全く人見知りしていなかった。