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66話 兄弟同士なのに?

上を指差すと綾野はぶっきらぼうに言った。


「今、あいつ屋上にいるってよ」


「すまない、ありがとう」


礼を言うと、すぐに屋上へと上がっていく。

このショッピングセンターの屋上は自然豊かなハイ

キングロードが作られていて、途中には休めるよう

にベンチが置いてある。


そこに座ったまま、じっとしていた歩夢のもとに郁

也が駆け寄ってきたのだった。


「歩夢っ!」


「えっ…どうしてここに?いや…綾野に聞いたんだ」


「あぁ。そうだ、あいつに電話かけてもらったんだ。

 お前には隠し事はできないだろ?」


「そう……だね」


真面目な顔で答える歩夢に、郁也はゆっくりと近づ

いていく。


そんな二人の後を追いかけてきた3人は興味深々に

木の影から眺めたのだった。




「歩夢……誤解してるなら言っとくけどな…今日俺

 は…」


「デート……だったんでしょ?いいよ隠さなくても

 最近よそよそしかったし、そうだよね。僕なんか

 誰も必要となんかしない……」


「違うっ、俺には必要だっ!家族としてじゃなくて、

 初めて俺が惚れた相手なんだよ!こんな事言って

 も信じないかもしれないけど…お前がいいんだ。

 歩夢だけなんだ…こんなに本気になったのは」


「………」


ただ視線を逸らすと、黙ってしまった。


「お前なら声が聞こえるんじゃないのか?嘘なら

 わかるはずだろ?」


「……」


屋上には数人のカップルがいるくらいだった。


大きな声で言われても困る。


「もう……放かっておいてよ…」


「放かってなんていけるかよ…一緒に戻ろう」


手を差し出すが一向に握る気配はなかった。


陰で見ている方がハラハラする。


「ねぇ、彼って水城くんのお兄さんなんだよね?

 なんか雰囲気違わない?まるで口説いてるみた

 いに聞こえるんだけど?」


「そうだよ、口説いてるんだろうぜ?」


「えっ、何で?兄弟なのに?それに……男じゃん」


ありさの言葉に綾野だって分かってはいる。

同性での交際がどれだけリスクがある事も、周り

の偏見の目で見られることも。


そして、それに歩夢自身が耐えられない事も……。


人が多い場所ではよく気分を害していたのを覚え

ている。

大きくなって少しはまともになったと思ったがそ

うではなさそうだった。


「ありさちゃん、偏見はよくないよ」


「でもさ〜、いくら顔がよくたって男同士はね〜、

 気色悪いわ。まさか水城くんもそうなら軽蔑だわ」


「ありさちゃん!」


美香の方がこれには反論したのだった。

おとなしい顔して、こう言う言葉には反応が早か

った。

それは自分を助けてくれた人への憧れもあったせ

いかもしれない。


「ありさちゃん、ダメだよ、そんな事言っちゃ!

 私は……私はそんなありさちゃん嫌い!」


今にも泣きそうな顔で駆け出していく美香に、

流石に気まずいと思ったのかありさも追いかけ

るように駆け出していた。


それを追って行くように綾野もついていく。




その頃、ベンチの横に腰掛けた郁也から少し距離

を取るように歩夢は座り直した。


「なぁ〜、いい加減口聞いてくれよ。」


「……」


さっきから黙って目も合わせないし、口も聞いて

くれなかった。


確かに最近郁也がそんな態度をとっていたのも否

定できない。


いきなり無くなったスキンシップに。

毎晩のようにキスを強請る事もやめた。


それだけなのに、歩夢の態度も余計に冷たくなっ

た気がする。


「なぁ〜、俺が悪かったって………勝手に出て行

 く事か?それともさっき理恵といた事か?何に

 機嫌悪くしてるんだよ〜」


郁也には心の声を聞く事もできないし、ましてや

顔色で判断する事もできなかった。


「もう、帰ってよ」


「やだっ、せっかく外であったんだし、このまま

 デートしよーぜ?」


「……なら、僕は帰るから」


「おい、待てって……」


腕を掴むとすぐに振り払われてしまった。

思いっきり嫌がっているようにしか見えない。


最近では少しづつだが、打ち解けて来た気がして

いたのだが、それは間違っていたらしい。


今の表情を見るに、あきらかに嫌悪しかない。


「歩夢……」


「もう、僕に関わらないでよっ!」


今にも泣きそうな顔で言われても説得力はない。

郁也は意を決して立ち去ろうしている歩夢を引き

寄せると自分の腕の中にしまい込んだ。


ぎゅっと抱きしめると、腕の中で暴れていたが、

次第におとなしくなったのだった。

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