63話 郁也の隣
風邪も治って、やっと普通の生活に戻った頃。
週末に約束していた、デートの約束を果たす事に
したのだった。
週末、こっそり朝早くに家を出ようとすると、な
ぜか郁也が起きていたのだった。
「お…おはよ…」
「あぁ、おはよう。歩夢今日は早いな?どこかい
くのか?」
「うん、ちょっと友達と約束してて……」
「風邪が治ったばかりだから気をつけろよ」
「うん……行ってきます」
なぜだろう。
すごく素っ気ない気がする。
こんな事始めてかもしれない。
いつもなら、どこにいくのかとか、聞いてきそう
な勢いなのに、今日に限って何も言っては来なか
ったのだ。
それと、郁也自身も今日は出かけるらしかった。
誰に会うのだろう?
そんな事、どうでもいいはずなのに、気になって
しまっていたのだった。
家を出て駅まで来ると綾野が手を振ってきた。
横には武藤ありさと相川美香がいた。
「この前はごめん、ちょっと体調崩してて……」
「そうなんだよ、こいつったらさぁ〜受験前に風
邪引いてさぁ〜、本当に残念だろ?」
綾野が言ったおかげか、前の時に約束を先延ばし
にしたのも含めて言い訳がたった。
「別に体調が悪いのに来てもらっても困るわ。」
「やっぱりありさちゃん優しいね〜」
「変な事言わないでよ?私は美香の付きそいで…」
「分かってるって、俺もありさちゃんの付き添い
って事で」
確かに仲良くなったのは確かなようだった。
ショッピングセンターに来ると、買い物や、食事
を摂りながら、色々と話をした。
「それでさ〜、またそれが面白いのよ〜」
「ありさちゃん、ありさちゃん。水城くん退屈か
な?」
「あぁ、そうね。二人にしてあげよっか?」
「いいよ、そんなに気を使わないでよ……」
ありさに言われて恥ずかしそうに言う美香に、あ
りさと綾野は目配せをした。
ただし、それが普通の人だったらそのまま二人の
策に乗るのだろうが、歩夢には聞こえてしまって
いた。
そっと視線を外すとそこには郁也がいたのだった。
まさか同じ場所にいるとは思わなかった。
だが、その横には女性が立っていて何か話すとい
きなり抱きついたのだった。
唇にキスをして、嬉しそうに話していた。
真昼間のショッピングセンターで、男女が腕組ん
で歩いていても何らおかしくない。
キスしていても、誰も咎めないし、変な目で見る
事もないだろう。
もし、それが自分だったら?
きっと、周りの反応も違うだろう。
しかし、今見た光景が頭から離れない。
どうしてか、モヤモヤして気持ちが悪い。
「水城、ちょっとトレイ言って来るわ」
「あ、私もトイレ〜」
綾野に続いてありさも言い出した。
「はぁ〜、二人にしようとしなくていいと思うよ
?そうでしょ?相川さん」
「ありさちゃん!気を使わないで、本当にやめて
よ〜」
歩夢の言葉でありさの作戦がすっかり台無しにな
ってしまったのだった。