57話 男性恐怖症
駅で偶然会った武藤ありさと、相川美香と少し話す為に
近くのカラオケに来ていた。
「せっかくだし、一曲歌うか?」
「はぁ〜、悪いけど僕は帰っていいか?」
「ダメだろ?」
「ダメよ!」
綾野と武藤の声が被ると、後ろで相川が噴き出していた。
面白かったのだろうか?
少ししてから、綾野も武藤も笑った。
「この子、男性が苦手なのよ。なのに君に会いたいって
言い出したって訳。だから探してたのよ」
「それで?会ったんだしもう良くない?」
「よくないわ。これからが本題よ!美香とお付き合いし
てくれない?見た限り水城くんって結構真面目で紳士
的じゃない?だからこの子も安心だと思うの…だから」
「待って、僕の意見は?悪いけど誰とも付き合うつもり
ないから…そんな余裕ないし、もうすぐ受験なんだ」
彼女を作って浮かれるつもりはない。
それじゃなくても結構レベルの高い大学を受けるつもり
なのだ。
遊んでいる時間などないのだ。
「あの、ごめん…なさい」
「美香が謝る事ないわ。私が勝手にしたんだから。それ
に、その言い方はないんじゃない?少しくらいは期待
させてくれても……」
「それって、その子の為にならないんじゃない?それに
さぁ〜、勝手に決めない方がいいと思うよ?彼女はま
だあの時の恐怖を克服してないんでしょ?」
あの日以来、男性恐怖症だという。
歩夢の言った通りだった。
普通の生活の上でもクラスの男子にさえも恐怖を感じ
てしまって困っているという。
だから、唯一助けてくれた歩夢を頼ったらしい。
彼なら恐怖の対象ではないのではないかと言う考えがあ
ったらしい。
歩夢が近づくと、頭に手をかざすと、それだけでビクッ
と肩を揺らす。
「まだ、怖いんだろう?だったら無理しなくていい。荒
療治は帰って危険なんじゃないか?」
歩夢は武藤の方を向いて言うと、帰ろうとする。
「待って……お願い、少しでいいから付き合ってくれませ
………んか?」
消え入りそうなくらいにか細い声で言うと、一回だけと言
う約束でデートを了承した。
もちろん、二人っきりと言うのは不安だろうから武藤もつ
きそう事になった。
「責任持って武藤さんも参加する事。」
「ならさ〜、俺もいい?」
綾野が話に入って来ると、4人での週末デートという流れに
なったのだった。