56話 あの時の
告白イベントは5組のカップルを成立させて幕を
閉じたのだった。
ぞろぞろと教室に戻って来ると、そのままホーム
ルームになって解散となった。
残りは明日以降に片付けていくらしい。
大まかなものは片付け終わっていて、歩夢のクラ
スでは殆どのものが片付けられていた。
「水城くん!待ってよ!」
『水城君と仲良くなればあのかっこいい人とも…』
「水城くーん、今日一緒に帰らな〜い?」
『こんな平凡な男子にあんなイケメンの連れがい
るなんて聞いてないわ〜、早くコネクション作
らなくっちゃ』
声をかけてくる女子に目もくれず綾野と一緒に帰
っていく。
完全に無視した。
考えている事がダダ漏れだった。
呆れてものが言えないとはこの事を言うのだろう。
「今日はモテモテだな〜ププッ」
「勝手にしなよ。全く……どう言う神経してるん
だか…」
「図太いんじゃね〜の?お兄さん狙い間違い無し
だろ?」
綾野は分かってて言っているのでいいが、他の
クラスの男子からは別の意味で嫉妬の視線が投
げかけられたのだった。
冗談じゃない。
勝手な思い込みに、巻き込まれるなんて冗談じゃ
ない。
そう思うと、駅へと向かった。
すると、ちょうど改札を通る手前で、二人の女子
に声をかけられたのだった。
「あの〜〜、すいません」
「ん?俺らに用か?」
振り向いた綾野が応えると、他所の高校の制服だ
った。
「えーっと、何か用?」
「いえ、ちょっと、彼なの?」
「違う……もう一人の方……」
後ろにいる可愛らしくお淑やかそうな女子が何
やら歩夢の方に用事があったらしかった。
「ごめんなさいね、あなたに話があるの?いい
かしら?」
いきなりの申し出に歩夢は一瞬眉を顰めた。
そして、考えた結果電車での女子だと気づいた。
「私は武藤ありさ。こっちは相川美香。前に電車
で痴漢にあっていたのを助けてくれたって聞い
たんだけど?」
「あぁ、あの時の…、別に普通でしょ?」
歩夢は平然と言ってのけると、帰ろうとした。
が、武藤ありさの方が逃さなかった。
「お礼をさせてよ!あの時、私がいなかったせい
でこの子には怖い思いをさせちゃったの。だか
ら……」
「だったら余計に、男の僕は怖いんじゃないの?
無理しなくていいよ?じゃ、これで」
「って、水城〜、そんな冷たくしたら彼女だって
怖がるだろ?俺はこの水城歩夢の親友で、綾野
晃司。よろしくな!」
綾野は誰とでも仲良くなれる明るい性格だった。
それに、ちゃんと人の事を大事にできる出来た男
だ。