53話 嫉妬と怒り
いきなり叱られた歩夢は、驚きで何も言い返せな
かった。
どうしてそこまで怒るのか?
それすら理解できていなかったのだ。
「……そっちこそ…」
「俺が来た事が気に入らないか?なら、俺は見知
らぬ男に連れて行かれそうになってるのに、気
づかない歩夢に、少しは危機感を持って欲しい
もんだがね…」
『あのまま連れて行かれたら絶対に掘られてただ
ろ!………まーったく少しは警戒しろよな』
「掘られてた?」
「あぁ、そうだったな。歩夢は聞こえてるんだっ
た……面倒だな……俺が歩夢を好きだって言っ
てたの知ってるんだろ?俺は歩夢を恋愛的な意
味で好きだ。そして抱きたいって思ってるって
事だ」
「いつも抱きしめてるじゃん?それにキスも/////」
「……それ、本気で言ってる?」
『まさか…抱くって意味わかって無いのか………
まじか』
「意味?それってどういう……」
「わかった、俺が悪かった。歩夢にそういう知識
がないんだっって事を忘れてたよ…こっちこい」
「待ってよ。着替えて……来てからでいいだろ?
この格好のままはちょっと……」
衣装のままの姿だった。
すぐに化粧を落としたかったので、落とした顔で
は衣装と少し不釣り合いだった。
教室で着替えると、郁也の元に戻ってきた。
「まずはこれを見てみろ」
渡されたスマホに写っているのは、裸で抱き合う
男同士の映像だった。
あられもない姿で抱きしめるとあろう事か、相手
の指がとある場所を執拗に掘り出したのだった。
みるみるうちに歩夢の顔が赤くなっていく。
「なに……これ……」
「それが男同士のセックスだよ。俺は歩夢にそれ
と同じ事をして〜って思ってんだよ」
「無理!絶対に無理っ。こんなの無理に決まって
るっ」
画面の中で悲鳴が漏れる。
目が離せなかった。
あんな場所にと思える行為に歩夢は血の気が引く
思いだった。
常日頃から好きだとは言われていた。
そして今すぐに抱きたいという事も知ってはいた。
だが、まさか抱くという事がこんな行為だとは想像
できなかった。
今は手を出さない。
あの言葉を信じていいのなら、卒業までは安全と
言える。
では、そのあとは?
あんなところに、あんなモノ入れたら……。
無事に済むのだろうか?
不安が膨れるままに郁也に連れられて、各クラス
の企画に参加したのだった。
あんな画像見せておきながら、今は普通に接して
きていた。
歩夢だけが、意識している気がして、なんだかイ
ラつく。
「もういいでしょ?離してくれません?」
手を握ったままでいる事に、文句を言ってみるが、
全く離す気はないらしかった。
「少しは俺の気持ちも理解しろよ?まぁ、好きな
子の手を握れるだけでも嬉しいんだけど?」
ニィっと笑うと、心臓が鷲掴みになったかのよう
にドキドキしたのだった。
男の人にどうして?
いや、顔が良ければ男も女も関係ない。
誰でも魅了されるのだろう。
歩夢は大きなため息を漏らした。
学校の中なせいか誰もが郁也と歩夢を交互に眺め
てくる。
説明を求める視線は、嫉妬に変わる。
女子の嫉妬めいた視線に、嫌気がさすほどに気持
ちが悪かったのだった。