5話 父の再婚相手
妹の美咲が戻ってくると、テヘッと笑って誤魔化
した。
女だからなんでも出来るというのは嘘だ。
妹は不器用で父親似だからだ。
すると、早く帰宅できた父親が帰ってきたのだっ
た。
「ただいま〜」
「おかえり、父さん、ご飯できてるから」
「いつもすまんな。美咲は…もういるな、ちょっ
とお前達に大事な話があるんだ」
「食べてからにしたら?冷めるじゃん」
「分かった、分かった」
『よし、今日こそは話すぞ……美咲と歩夢にもこ
の再婚話をしっかりと話さないといかんしな…』
「ブッ………」
「お兄ちゃん、汚い〜〜〜何してるんのよ!」
「いや、ちょっと……」
まさか先に聞かされるとは思わなかった。
これでは心の準備どころではない。
再婚?って事は好きな女性ができたって事だろう。
母が亡くなってもう5年。
確かに、寂しくなっても仕方がないのだろう。
歩夢自身、このまま家事と勉学の両立は疲れて
きていた。
自分の時間を作るチャンスでもあった。
ただし、どんな女性なのかが気になるところだ
った。
食事は黙って黙々と食べた。
後片付けをしてコーヒーを淹れるとテーブルに
持っていく。
「父さん、最近機嫌いいね?いい人でもできた
の?」
いきなりの歩夢の言葉に父親の焦る顔が見られ
た。
いきなり言われるよりも、こっちから言ってや
ろう。
そう…ちょっとした意地悪だった。
「歩夢はいつも勘が鋭いな、実はな……好きな
女性がいてだな」
「えぇーー!嘘でしょ?今更知らな人を母親っ
て呼ぶの?」
「美咲、待って。父さんも寂しいんだよ。僕ら
を一人で育ててくれてるんだから……少しは
考えてあげなよ」
「お兄いちゃんまで?………でも……」
「不安なのは僕も一緒だよ。でも、まずは紹介
してくれるんでしょ?それからでもいいんじ
ゃないかな?」
「うん……そうなんだけど……」
美咲はまだはっきりとは賛成できないらしい。
それもそうだろう。
3人の家族だったのが、知らない女性が入って
くるのだ。
賛同しかねる気持ちもわかる。
でも、歩夢には会えば何を考えていようと手に
取るように分かるのだ。
だからなんの不安もなかった。
「だったら今度一緒に会わないか?今週末に
予定を組むから、そこで一緒に食事でもし
よう!」
「それならいいよ。場所はラインで送ってよ」
「分かった。それとだな……えーっと……」
『やっぱり驚かせた方がいいかな?いや、でも
な〜向こうにも息子がいるって言った方がい
いのかな?』
「まだ何かあるんでしょ?父さん、隠さずに言
ってよ?」
「あ、分かったか?あのだな〜、彼女には息子
さんがいてだな〜、大学4年だから歩夢の4つ
上だな」
「ふ〜ん。まぁ、同じ条件ってわけだね」
「あぁ、うまくやれそうか?」
「向こうの息子さんには会ったの?」
「あぁ、あったぞ、好青年だった。顔もいいし、
イケメンだったぞ?」
父の言葉に美咲の方が反応していた。
「イケメン?ちょっとだけ会ってもいいかも…」
『イケメンかぁー、家にかっこいいお兄ちゃん
がいるっていいかも〜』
「おい、なんか失礼な事考えてるだろ?」
「ないない、別に何も考えてないよ?」
『小言言うお兄ちゃんより、かっこいい方がい
いかも〜ちょっぴり楽しみになってきたなぁ
もし、恋にでも発展したら〜……』
「美咲〜、先に言っとくが兄妹は結婚できない
ぞ?想像はいいが、何もないと思うんだな」
「何よ〜!何も言ってないじゃん!」
いきなりの歩夢の言葉にまるで考えが筒抜けに
なった気分になると、側のクッションを投げつ
けたのだった。