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48話 勉強の後のキス

練習時間は放課後となった。

部活で忙しい人は舞台裏のセットなどの移動と黒子

に役割り分担される予定だ。


「そろそろ諦めろって。思いっきりやった方が恥ず

 かしくないぞ?」


綾野が言うと、歩夢も嫌々ながらにセリフを読みな

がら考える。


男女逆転にした意味ってなに?

絶対に気持ち悪いって言われるやつじゃん。


何がなんでも秘密を死守せねばならなかった。


疲れて帰ると、郁也が待っていた。

お風呂に入ってからはいつもの勉強時間になる。

夏休みと違って学校がある日は時間があまり取れ

ない。


日頃の積み重ねが大事だと言う事をまざまざと感

じる。


「今日は順調だね……」


「まぁ〜ね、最近は結構すぐに理解できてる気が

 する…」


「そっか、偉いぞ〜」


郁也兄さんの手が頭に触れると、優しく撫でられ

る。

まるで壊れものを触るかのように優しく撫でられ

るとむず痒くなる。


「そろそろ0時だな、あんまり根を詰めるなよ?

 今日はここまで!いいな?」


郁也に言われると、教科書を閉じた。

無理して勉強して体調を壊しても意味がない。


そこで、0時を過ぎたら教科書を閉じて寝ると言

う約束事を決めたのだった。


「さぁ、歩夢こっち向いて…」


「ちょっと、待って、兄さんっ!!」


強引に引き寄せられ顔が目の前に迫ってきていた。

勉強をきっちり教える代わりに、高校を卒業する

まで郁也は手を出さない。

そして歩夢の返事を待つ代わりに、勉強後キスを

一回と言う条件を出したのだった。


その代わり過剰なお触りもなくなった。

少しホッとした……が、終わってからのこの時間

が一番憂鬱だった。


「……ンッ……ふっ、んっ…」


初めは息ができず苦しいだけだった。

唇は男女関係なく柔らかくて濡れていた。


「ほら、鼻で息して〜」


郁也の言われた通りにすると少し楽だった。

いつのまにかこれが毎日の日課になったのだった。


嫌かと言われると、嫌だが触られるよりはマシだ

と判断した。


身体に触れられると、勉強どころではなくなる。

それよりはいい。


そう選んだはずだった。


「どうした?顔が赤いぞ?俺に惚れたか?」


この無神経な男をなんとかしたい。

どこまで人を揶揄うのか?


この前も家の前で綺麗なお姉さんとキスしていた

くせに…


「いいんだぞ〜、お兄ちゃんはいつでも歩夢の見

 方だからな」

『やっぱり可愛いな〜。照れちゃって…キスだけ

 なんて言うんじゃなかったかな〜、早く○○し

 たいな〜』


「なっ……あんたは勉強教えに来てんだろ?だっ

 たら余計な事ばっかり考えるなよ?気が散るだ

 ろ…」


「はいはい、それでは退散するかな……あ、添い

 寝して欲しければ……」


「いらない!」


部屋から無理やり追い返すと隣の部屋に帰ってい

った。

郁也兄さんとのキスは一向に慣れない。

今は、勉強に集中しなきゃいけないのに……。


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