44話 手を出すってどこまで?
どうにも気が散ってならない。
「あのさ〜、すっごく気が散るんだけど…」
「このくらいで気が散ってちゃダメだろ?受験の
時は緊張で気が散る以前に覚えていた事が真っ
白になる事もあるんだぞ?このくらいは平気じ
ゃないと、困るんだぞ?」
それらしい事を言いながらも、身体に触れて来る
ので本当にやめて欲しかった。
男の身体はその気がない相手でも、何度も触れら
れればどうにも反応してしまう事もあるのだ。
だから、極力下半身へのお触りはやめて欲しかっ
た。
頭を撫でられるのは嫌いじゃない。
でも、太腿から腰にかけては、際どいものがある。
「だから〜、そこは……」
「同じ男に触られても感じちゃう?」
「それは……」
「女の子だったら、よかった?それとも歩夢は気
になってる子でもいるのかな?」
揶揄うように言って来る郁也の言葉に呆れるよう
にため息が漏れる。
「ほら、最後まで手は出さないからさ」
「手は出さないって、今触ってるのは違うんです
か!」
「これは違うな〜、だって…手を出すって事は……」
腕を掴むとそのまま押し倒した。
急に顔つきの変わった郁也を見上げると、背筋が
ゾクッとする。
男の顔をしているからだ。
真剣な顔つきにあきらかにいつも見ている郁也と
は雰囲気が違う。
「冗談はやめてくださ………ンッ……」
言いかけた言葉を遮るように唇を重ねられると、
鼻から漏れる息が声にならない呻き声に変わる。
ジタバタともがくが、びくともしない。
『怖い……嫌だっ……』
一瞬身体を硬くすると、震えている事に気づく。
それに気づいた郁也は力を緩めると、上から退
いたのだった。
「こういう事を手を出すっていうんだ歩夢、下手
に誘うと本当に最後までするよ?」
「最後までって……どういう…」
「まぁ、今はそれより、勉強ね?」
それ以上は何もしてこなかった。
ただ、怯えるような目で見上げた歩夢を見て少し
ばかりやり過ぎたと感じたのだった。
覚えの良い、歩夢に教えるのは意外と面白い。
教えれば同じ間違えはしない。
だからサクサクと先へと進められる。
「ねぇ〜郁也お兄ちゃ〜ん私の勉強も見てほしい
なぁ〜」
途中何度か妹の美咲の乱入はあったものの、順調
と言えた。
夏休みの後半に差し掛かる頃には、過去問を出し
ても不正解のが少ないくらいだった。
「うん、いいね」
「本当!よかったぁ〜」
「これなら一般入試でも合格ラインに行くよ?
頑張ったね歩夢」
「受験まではまだ油断できないよ」
「それでも、偉いぞ。あとは時間内にどれだけ
解けるかだな」
正解率は上がっても、時間もかかっている。
制限時間内に全部解ける人は少ない。
どれかは捨てて、点数の高い問題を中心に解いて
いくのがセオリーだったからだ。