38話 待っている時間
歩夢を探して、駅で待っていたが、日も暮れてく
ると一旦家へと帰ってきた。
「ただいま〜」
「あ!郁也お兄ちゃん!おかえり〜。今日はお兄
ちゃんと出かけたんでしょう?ずるーい!私も
行きたかったのに〜〜〜」
「歩夢は?まだ帰ってないのか?」
「えーー、知らなーい」
郁也はすぐに歩夢の部屋に駆け込んでいく。
鞄もないし、帰った形跡すらない。
「あら、帰ったの?今日は大学のオープンキャン
パスだったわよね?歩夢くん、どうだったかし
らね?……郁也?」
「ごめん、母さん。俺さ歩夢、探しに行くよ。」
あきらかに家に帰らないのは郁也のせいだろう。
どうして上手くいかないのだろう。
どうでもいい相手ならもっと単純な対応で済むの
に……。
「郁也お兄ちゃん、また出かけるの?ほかってお
けばいいじゃん。お腹すけば帰ってくるって」
「そうよ、もうすぐご飯だし、食べてから待って
ればいいわよ。もう歩夢くんも高校生なのよ?」
「………そうだな…」
母親の料理を食べて風呂へとはいる。
0時を回っても連絡すらなかった。
キッチンでずっと待つにも流石に不安が過ぎる。
事故にでも遭っているんじゃないか?それとも…。
「すいません、やっぱり俺……探しに行きます」
「郁也くん、歩夢も子供じゃないんだ。連絡しな
いのは始めてだが何かあれば助けを求めるだろ
う?放っておきなさい」
「違うんです。帰ってこないのは…多分俺のせい
で…」
「郁也くんのせい?今日何かあったのかい?」
「それは……」
言えない。
弟が襲われたなんて言えるはずもない。
一番襲いたいのは郁也自身なのだから。
「それは……」
「どーせ、友達の家でしょ?お兄ちゃんの友達っ
て一人しかいないじゃん」
美咲の言葉にすぐに反応したのは郁也だった。
「頼む!教えてくれ!」
「いいけど…そこまでして連れて帰る必要ある
の?」
確かに今の時間を考えると、連れ戻す必要はない
気がする。
でも、もしそこにも居なかったらと思うと、やっ
ぱり探しにいかないという選択肢はなかった。
「俺、行ってきます」
「歩夢も子供じゃないんだ。放っておけばいいと
思うがな」
「でも、心配ではあるわね。いつもは連絡するん
でしょ?」
「いや……連絡というか……家事全部やってくれ
てたからな〜あいつにはいつも無理させていた
ことは事実だから強くは言えないんだ。母さん
を亡くして一番辛かったのはあいつだからな…」
父の幸樹は歩夢を叱った事は殆どなかった。
出来た息子であったせいもあるが、妻の亡くなっ
たあとから塞ぎ込む息子に何もしてやれなかった
のを悔いているらしい。