37話 お泊まり
水戸を置いて走り出す歩夢を追いかけて大学を出
ていた。
街の中では飛び出して危険な場所は幾つでもある。
早く見つけなければと焦れば焦るほどに遠ざかる。
「待ってくれ……歩夢っ!」
先回りして駅に向かうか?
このままだとすぐに見失いそうだった。
人混みに紛れればもう後を追えない。
一旦道を逸れると駅へと向かった。
改札口で見張る事にしたのだった。
その頃、歩夢の方はといえば、がむしゃらに走っ
たせいで息切れしていた。
人に紛れるように人通りの多い道を選んだ。
どうせ家に行っても先回りされていそうだったので、
1区間分歩くことにした。
家に帰らず綾野に電話して今日だけでも泊めてもら
えないかと電話をかけたのだった。
「お!水城じゃん、どうした?勉強のやり過ぎで疲
れたのか?」
「ごめん、今日だけ泊めてもらえないかな……」
「ん?どうしたんだよ?何かあったのか?」
「うん……ちょっとね……」
「ま、いいぜ。昨日から親も旅行でさぁ〜飯は外
でもいいか?」
「それなら僕が作るよ」
家族の事でなんて言えない。
突然の訪問にも、快く許してくれる綾野には本当
に感謝している。
家に行っても、何も聞いてこなかった。
「おう、いらっしゃっい。勝手に上がっていいぞ」
「ありがとう」
「ゲームでもするか?」
「うん…そうだね、気分転換にいいかも」
「そうこなくっちゃな!」
綾野の部屋にくるのはいつぶりだろう。
何も変わっていなかった。
乱雑に並んだ本棚に、テレビの前に無造作に置か
れたゲーム機。
さっきまでやってましたと言わんばかりの温もり
が感じられた。
あきらかに勉強していなかった事を指している。
勉強ではなく、遊んでいた事がバレバレだ。
「補習は大丈夫か?」
「それを言うなって、思い出さないようにしてん
のによ〜」
「ははっ……やっぱり綾野といると落ち着くよ…」
「……よし!気を取り直してゲームやろうぜ、この
前買った奴がさ〜二人プレイなんだよ。手伝えっ
て〜の」
「うん」
まだ明るいうちからテレビゲームに熱中するなんて
一年の時以来だろうか。
スーパーに寄ってきたので食材はある。
夕方になると適当にフライパンや、そこにある調味
料を借りて食事を作ったのだった。
「マジで器用だよな〜。うまっ!」
「普通だよ。いつもやってるし……」
「でも、新しい母ちゃん来たんだろ?あっ…言い
たくないならいいんだけどさ」
「いや、平気。まどかさんはすっごく気を使って
くれて僕にばかり負担がないようにってしてく
れてる…」
それでも、家に帰りたいくない。
今だけはまだ、帰りたくないのだった。
それを察するようにそれ以上の追求はしてこなか
った。