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36話 弟は渡さない

中から聞こえる声に、ドキドキする。


歩夢の話声に耳を傾けると、とんでもない事を言

われた気がした。


自分の耳を疑いたくなる。

ドアに手をかけたまま郁也はそれ以上入っていけ

なくなった。


歩夢の安全を守るために、自分がエスコートする

からそれまで見張っててくれと水戸には言ってお

いたはずだった。


だが、今聞いた言葉を思い出すと、出ていけなか

った。


ドアに映る影で水戸には郁也が来たことは分かっ

ていたはずだ。


そのタイミングで郁也の事を聞く。


拍子抜けするほど、郁也は好かれていなかったの

だろうか?

毎日、勉強をつきっきりで教えていたのに、こん

な事って……。


確かに弟に勉強を教える事は兄弟なら当たり前だ

と思っていいかもしれない。それでも……。



『そうですね〜……強いてあげれば…いつもベタ

 ベタ触って来るところとか、うざ絡みして来る

 ところとか、それに、一番は顔が嫌です、大っ

 嫌いなんですよね』



呆れるほどの自信は顔がいい!と言う誰もが褒め

ちぎってくる見た目にあった。

誰もが初めて見るのはまず顔で、それから体格と

順番に知っていく。

惚れる以前に最初の時点で、完全否定された気分

だった。

あんなにはっきり否定されると、悲しくてすぐに

は出ていけなかった。


自信を無くしそうになる。


二人が楽しそうに話す姿を眺めるだけしかできな

い自分が不甲斐なかった。


歩夢の横には自分がいたはずなのに……。


友人の水戸には感謝はしているが、これとそれと

はまた別の話だ。


「歩夢くん、よく言えるね〜。でも、みんなあの

 顔に惹かれるんだよ。本当に君は面白いよ、い

 っそ俺の恋人にならない?俺も、男でも女でも

 イケるからさ」


「……?」


「いい加減に歩夢を返してくれるか?」


歩夢の後ろからした声にドキリとする。

郁也は平然を装うと、水戸に話かけたのだった。


「水戸先輩、僕これ見ておきたいです」


「ぷぷっーーーー。マジで嫌われたな?いいよ。

 行こっかぁ〜」


そう言って立ち上がったが、すぐに引き止めた。


「返せって言ったよな?」


「そう怒るなって。怖い思いをした歩夢くんの事

 を考えろって……な?」


「…くっ…嫌だ、俺は歩夢が側に居ないと嫌だ!」


「……なんで?僕はただの弟でしょ?それ以上で

 も以下でもない。そう言ったのはあなたでしょ」


歩夢からその言葉が出てくるとは思わなかった。

そう、郁也が水戸に言った言葉だった。


決して本気じゃない。

少しの照れ隠しだっただけだ。


それが歩夢を傷つけたと思うと、余計にショック

だった。


「違う……なんていえばいいか……そうだ!俺を

 理解してくれ!それすれば何が言いたいか分か

 るだろう?」


「何を言って……知らないっ……そんなの知りた

 くないから…」


そう言うと、走り出して行ってしまった。


「待てっ、歩夢ー!!」


後を追ってすぐに駆け出した。

今度こそ見失わないように……と。


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