34話 親衛隊の情報網
その頃、郁也は一向に見つからない歩夢を探して
いた。
山尾親衛隊と呼ばれる組織が校内にはある。
それは一度関係を持った男女や、郁也を崇拝して
やまない人達で構成されており、見ているだけで
幸せと感じている者も少なくなかった。
「おい、お前、俺と一緒にいた男の子知らないか
?探しているんだ、頼む教えてくれ」
「山尾様が話かけてくださったーーーー!!感激
です」
「そんな事はどうでもいい。知らないかって言っ
てるんだ!」
「少々、お待ちを……」
スマホに打ち込むと即座に返事が返ってきていた。
すごい情報網だ。
「えーっと、B館の2階の空き教室に連れて行かれ
たのを見た生徒がいます。首謀者は姫宮倫と、
秋里理恵」
「ありがとな!」
その言葉を聞くと、すぐに水戸にも連絡して向か
ったのだった。
辿りついた先で、思いっきりドアを蹴り飛ばすと
目の前の光景に一気に頭に血が昇った気がした。
歩夢の上にのしかかる男を蹴り飛ばすと、服に手
をかけた奴の腹を思いっきり蹴り上げていた。
「山尾先輩!来てくれたんですね!さっきこのモ
ブ顔がなんて言ったか知ってます?誰でもいい
から抱いて欲しいって言ったんですよ〜、薄汚
いネズミ如きが…」
『やっぱり先輩はかっこいいなぁ〜』
「今、なんて言ったんだ?俺の弟が薄汚いって言
ったのか?」
「弟………まさか……先輩は一人っ子ですよね?弟
なんて」
「知ってるか?山尾先輩って兄弟いなかったはず
よね?」
親衛隊の中でも知らない者は多い。
そんな中で、先生を連れてきた水戸がやっと到着
したのだった。
「そいつ本当だぜ?その子は正真正銘、郁也の弟
だ」
「!!」
その場にいる全員が驚きを隠せなかった。
まさか、身内に手を出したとあってはいけない事
だ。
ましてや、郁也が可愛がっている弟となれば尚更
だった。
「山尾先輩…嘘ですよね?」
「大丈夫?君、私は何もしてないわよね?ね?」
『そうよ、この子に優しくして郁也と寄りを戻す
のよ』
すぐに取り入ろうとする者も出て来る。
差し伸べられた手を叩き落とすと歩夢は誰の手も
とらなかった。
「歩夢、大丈夫か?」
「……」
そして郁也の手を取ることもない。
ただ睨むだけで黙ってその場を離れようとしたが、
すぐに引き止めたのが、水戸だった。
「おっと、待った。その格好で出ていくの?」
「あ……」
確かに乱れた服に前はボタンがちぎれている。
これでは外を歩くには不相応だった。
「着替えなよ。ほら、こっち。それとも俺が怖い?」
「平気。ありがとう」
素直に言うと、歩夢は水戸について行った。
決して郁也の方は振り向きもしなかったのだった。
その後の事など、知りたくもなかった。
水戸という男は郁也の友人のようだった。
裏表のない人のようで、だがちょっと誤解をして
いる気もする。
渡してくれたのに、着替えると、少しサイズが大
きかった…着れなくはないのだが。
破れた服よりはマシだった。
「歩夢くんだったよね?家で郁也はどうなんだ?
やっぱり好きな子の前では違うのか?」
「好きな子って何か勘違いしてませんか?僕は
ただの家族だしそういうんじゃないです」
「え?でも、あいつ歩夢くんの事ばっかり話す
んだぜ?自分に懐かない理由がわからん〜っ
てさ。どっか嫌なところでもあるのか?」
「そうですね〜……強いてあげれば…いつもベタ
ベタ触って来るところとか、うざ絡みして来る
ところとか、それに、一番は顔が嫌です、大っ
嫌いなんですよね。あの整った顔が」
「……ぷっ……あっっはっははっは。顔が嫌いか!
マジか」
「そんなに笑うところですか?」
「いや、初めて聞いたわ。顔か………それはどう
しようもないな………」
目一杯笑うと、そのあと郁也のせいで怖い思いを
させたお詫びと言ってこのお祭りのおすすめを教
えてくれた。
そして、何かあると困ると言って一緒に回ってく
れたのだ。
「大丈夫なんですか?僕についてたら……」
「大丈夫、大丈夫。本当なら郁也が一緒に回りた
いんだろうけど、今は俺のが気楽だろ?それに
一人にさせるのを郁也が許さないしな」
「そう、でしょうね……」
この水戸という人は気遣いができるらしい。
わざと今は自分のがいいだろうと判断したのだ。




