3話 出会い
なんともクズ野郎らしい。
声も出せないような子をわざと選んで痴漢してい
たらしい。
「おい、聞いてんのか?」
『恥をかくのはお前だ…』
「どうかな……ね〜美香ちゃん、こんな変態知り
合いだったの?」
「え……あ、知らない……」
『どうして……名前…』
「そうだよね?美香ちゃんを脅して痴漢行為して
るなんて最低な大人だよね?僕がいるから大丈
夫だよ」
「うん……」
今にも泣きそうな声でしがみつく彼女を見て、周
りもどちらに非があるか理解したらしい。
「クソがっ、お前から誘っておいて今更逃げんな
よっ!」
『こっちは盗撮した画像だってあるんだ、逃さね
ーよ』
「それと、盗撮した画像出してよ?まさかそのま
ま逃げる気じゃないよね?」
いきなりの歩夢の言葉に騒然となる。
男がいきなり殴りかかろうとしたところを、後ろ
から捕まえてくれた人がいた。
細そうなのにしっかり捕まえると、次の駅で警察
を呼んでくれた。
「君たち大丈夫だった?友人を護るっていい友達
を持ったね?」
さっきの捕まえてくれた青年が話しかけて来たの
だった。
「あ……あの……」
「ごめんね?大丈夫だった?本当はあのまま前の
駅で降りたかたんだけど……盗撮犯だったんな
ら捕まえれてよかったね?」
「えっ……」
「知ってて、言ったんじゃないの?」
唖然とする二人に歩夢は「全然?」と答えたのだ
った。
「あははっはっ、君は度胸があるな〜」
「僕はこれで。これからは気をつけてね!」
「あの…連絡先を聞いても……」
『怖い……でも、男の人だけどこの人はきっと大
丈夫かもだし…助けてくれたし……』
「無理しなくていいよ。怖いんでしょう?気にし
なくていいから…」
そのまま反対方面へ行く電車に乗ったが、やっぱ
り遅刻は免れなかった。
さっき助けてくれた男性は誰だったのだろう。
ちょっとかっこよかった。
自分もあんな風に颯爽ときて助けてあげられたら
よかったのだが、いかんせん力に自信がない。
名乗らずそのまま来たが、大丈夫だっただろうか?
一応警察では名前も言ったし、覚えていればの話
だった。
颯爽と助けた青年は大学へと向かうと少し嬉しそ
うにニヤケ顔だった。
いつもつまらない1日だったのに、朝から面白い
ものを見たからだった。
実は痴漢には気づいていた。
周りの乗客も気づいてはいたが、誰も声を上げ
なかった。
もし、そういうプレイだったら?
大騒ぎにして、この時間の電車に乗れなくなっ
たらと思うと見て見ぬふりをしたのだ。
もちろん彼もそうだった。
他人の事情には関わらない。
それが一番平和だったからだ。
でも、いきなり乗り込んできた彼によって状況
は一変した。
嫌がる女性を庇い、あたかも知り合いであるか
のように話しかけたのだ。
後から知ったが、全くの他人らしい。
そんな事があり得るのだろうか?
平凡そうな彼に興味が出た瞬間だった。
「どうしたんだ?ニヤニヤして?」
「あぁ、ちょっと可愛い子見つけてさ……」
「へー、郁也が言うって事はものにすんのか?」
「いや、面白いけど、そこまでじゃない」
「変わってるな?一応味見はするんだろ?」
「しない………大学卒業したら一応真面目になる
って約束したからな」
「それまで遊びまくるんだろ?」
「まーね…」
そう言いながら、さっきの彼の顔を思い出してい
た。
迷う事なく、見たこともない人を助けるようなお
人好し。
どんな家庭で育ったらそんなふうになるんだろう
と考えていたのだった。