25話 郁也の知り合い
郁也に触れられた肩が今も熱い。
どうしてなのかは分からない。部屋の温度を少し
下げたけど、全く変わらなかった。
真横から息がかかると余計に緊張する。
「ん?どこが分からないんだ?」
『手が止まったなぁ〜、何かに躓いたのか?』
「あ……別に大丈夫……」
「勉強中によそごとを考えるなよ?」
『こんなに間近で見れるのも新鮮だな〜』
「はい」
「よし、続きと行こうか」
『可愛いなぁ〜横から見ると腰も細いし…抱き寄
せたら簡単に押し倒せそうだな〜、いっそその
唇を吸って、言葉を無くさせてるうちに脱がせ
たら……いやいや、歩夢は弟だ……だがな〜』
さっきから声の事が気になって勉強どころではな
かった。
「あのさ……ここでの勉強やめて、家に帰る事に
するよ」
「そうか?なら、送るよ、一緒に帰るか」
「……」
もう、それで妥協するしかなさそうだった。
家ならここまで近くはないはずだった。
図書館を出ると、数人の女性とすれ違った。
「あ、山尾くんじゃ〜ん。こんな所で何してる
の?」
『あ、郁也くん、こんな所で会うなんてラッキ
ーじゃん』
「あぁ、ちょっと勉強見てたんだ」
『そういえば、こいつもここよく使ったっけ…
面倒だな』
「へ〜、なら終わったのよね?これからどう?」
『何この子?まぁいいわ。夜は楽しめそうだわ』
「いや、この子を送ってくからまた今度」
「えぇー。私達とじゃ不満なの〜?」
『身体は好きだって言われたしこのままホテルで
も誘おうかしら。それにしても何この子?まぁ
どうでもよさそうね』
言いたい放題の声に、聞いているだけでストレス
になる。
「はははっ、悪いね。」
『面倒な奴』
「郁也兄さん、この人達は誰?」
「あぁ、大学の知り合いつーか…ただのセフレ?」
「お兄ちゃ………ん!!」
『嘘でしょ!全然顔違うじゃん』
さっきまで誘っていた女性達が予想通りの反応を
見せる。
こんなモブ顔ですからね。
それほど、顔が良いとは思わないけど、それほど
悪くもないはずだ。
それを好き放題言われたんだ、黙っているのも癪
だった。
「セフレ?この前はとても綺麗で清楚なお姉さん
と一緒だったよね?今度はケバいお姉さんでも
等しく接してるの?すごいね、兄さん」
「ブッ!!」
いきなりの歩夢の言葉に郁也が噴き出していた。
さっきの女性達も顔を真っ赤にして去っていった。
「歩夢、お前凄い事言うな〜…か弱い子を助ける
くせに、ああ言う奴らにはしっかり反撃できる
んだな?やっぱり歩夢は面白いわ。俺が好きに
なっただけはあるな」
「あっそ……」
スタスタと前を歩く歩夢を見てハッと気づく。
今、郁也は声に出して話していたのだ。
それも弟の歩夢の前で直接好きだと言ったのだ。
気がついてしまうとこれほど恥ずかしいことは
ない。
だが、当の歩夢は恥ずかしげもなく、平然を装
っていたのだった。