22話 家庭教師
あの日以来、毎日のように勉強を見るようになっ
た。
拒絶されない事に郁也は甘えていたのかもしれな
かった。
家族だから。
一番近くにいる存在、それが家族という名称で呼
ぶ事が出来る正当性のある言葉だった。
「ここは、こっちを持ってくるんだ。わかるか?」
「うん…でも、こっちは?」
素直に理解してくれるところをみると、基礎はわ
かっているのだ。
応用が苦手なだけで、覚えはいい。
「ここは、これをこの順番で覚えれば楽に覚えら
れる。そしてこっちは………………」
「なるほど…」
飲み込みが早いと教え甲斐がある。
この分なら、郁也の後輩になる事も無理ではない
だろう。
夏休みにオープンキャンパスに誘って、郁也がど
んな大学生活をしているのか見せた方がいいかも
しれないとさえ、考えていたのだった。
「夏休み始まってすぐにあるオープンキャンパス
くるだろ?」
「あ……うん。そのつもりだけど…」
「だったら、俺が案内するから一緒に行こうぜ?」
『俺の人気を見せて、尊敬させれれば、俺の株も
上がるだろう』
「……」
どんなに取り繕うと、歩夢には通じない。
逆に、言っている言葉と思っている言葉が同じだ
ったら信用できたのに…。
そう思うと、残念過ぎる兄にため息しか出なかっ
た。
夏休み前の試験を終えて、進路用紙を出すと憂鬱
そうな綾野を見た。
「どうした?」
「あ、水城〜〜〜、助けてくれよ〜。俺さ追試だ
って〜」
この時期に追試となると、夏休み中の前半は夏期
講習に出なくてはならない。
それも追試者は強制参加なのだ。
「そんなに悪かったのかよ?」
「2教科赤点だった…」
「あ〜……それは、しっかりやれよっ……」
「水城も一緒にやろうぜ?知ってるやつがいて
くれれば頑張れると思うんだよ」
夏休みは最後の追い込みの時期だった。
いくら友人といえど、ここは心を鬼にしてやらね
ばならない。
「僕さ…○○大学に行くから最近つきっきりで勉強
見てもらってるんだ。夏休みが終わるまでには学
力アップしてないと、試験すら受けれないからさ」
「それって……結構無謀じゃね?」
「無謀じゃない。このまま行けばきっと、だから休
み中は勉強で手一杯になりそうだよ」
成績は高くないと入れない○○大学といえば、この
辺では有名な大学だった。
それだけに、受験して落ちる生徒は多い。
推薦を取れればいいが、推薦枠はたった1つだった。
学年首席でもない限りは、夢のまた夢なのだ。
一般入試で入ろうものなら、余計にレベルが跳ね
上がる。
それでも、歩夢は一般入試で試験を受けるつもり
でいたのだ。