18話 理解できない
あの日から少しでも隙を見せると、抱き寄せられ
たり、キスされそうになった。
実際何度かされている。
流石にこれはおかしいとしか思えなかった。
あきらかに女性にモテる顔して、どうして弟にこ
んな事をするのか理解できなかった。
「郁也お兄ちゃーん!明日空いてる?私買い物行
きたいから付き合って〜」
「いいよ。歩夢もどうだい?」
「僕はいいよ。二人で行って来たら?」
素っ気ない態度で言うと、あまり近づかないように
していた。
「最近お兄ちゃん、素っ気なくない?郁也お兄ちゃ
ん戸惑ってるじゃん?マジで迷惑なんだけど?」
最近は朝も起こさないようになったせいか、美咲は
遅刻が多くなって学校でも注意されているらしい。
まぁ、自業自得なのだが、高1になって遅刻してい
なかったのがいきなり遅刻が増えて弛んでいると言
われたらしかった。
ただ、歩夢が起こさなくなっただけの理由なのだが、
周りはそれを知らない。
「あんまりそんな態度されると、俺としては寂しい
な〜」
『可愛い弟に触れないと寂しいんだぞ?あぁ、マジ
で可愛い。美咲ちゃんより断然歩夢のが可愛いじ
ゃん。この素っ気ない態度も焦らされてるようで
萌える』
いきなりぎゅっと後ろから抱きつかれると、一瞬固
まってしまう。
「そう、硬くならないでよ何?怖いの?なにかされ
そう?」
『こんなに固まっちゃって……何かされたいって言
ってるみたいじゃん……いい匂い』
首筋に息がかかると、ビクッと全身が身震いしたよ
うにゾワッとした感覚が蘇る。
「ちょっとぉーー!何やってるのよ?」
「弟とのスキンシップは大事だろう?ほら、美咲ち
ゃんも…」
そういって、腕を伸ばすと、美咲が郁也兄さんの腕
の中に飛込んできたのだった。
すぐに逃げるようにその場を離れる歩夢に郁也は眺
めるだけだった。
抱きしめた熱が今も腕に残っている。
やっぱり、違う。
郁也の中では興味のないものだった中から、これほ
ど惹かれるモノがあるとは思わなかった。
同じ男で、そこまで自分に気がないのはわかってい
るが、それでも、惹かれる気持ちがさらに増した気
がする。
「美咲ちゃん、歩夢ってどんなものが好きなの?家
族として知っておきたいんだけど……」
「お兄ちゃん?どうだろう?あんまり話さないから
分かんなーい。気持ち悪いほど人の事は知ってる
んだよね」
どうも、歩夢自身家族にも上手く馴染めていないの
だろうか?
そもそも、美咲が言うには、母親が死んでからはず
っと母のような口調で、家の事の全部をになってい
たらしい。
自分の時間は勉強に注ぎ込み、その他は家事という
状況だったらしかった。