17話 不意打ちのキス
慣れないスキンシップに苦戦していた。
もちろん勉強はわかりやすいし、教えてくれるの
には感謝してはいる。
感謝しているのと、身体に触れてくるのとは話が
違う。
「郁也兄さんって彼女いないの?」
「なんだ?気になるのか?知りたいか?俺の事…」
『まぁ、適当に遊ぶくらいなら何人もいたけど…
今は歩夢のが可愛いからな〜、あんまり見つめ
られるとキスしたくなるだろう』
「いや、やっぱりいいや」
すぐに顔を逸らすと教科書へ目を写した。
やっぱり聞くんじゃなかった。
この人、やっぱりなんか変だ。
「お、前回間違えたところも出来るようになった
な?偉い偉い」
「あ……うん」
褒められるとやっぱり嬉しい。
嬉しいのだけれど……頭を撫でられるのはまだい
い。
いいけど……これはどういう状況なのだろう。
撫でながら髪にキスするなっ!
いきなりでびっくりしたけど、これはあきらかに
別の糸があるとしか思えなかった。
「なっ…何をしてるんですか…」
「別に、ちょっと髪にゴミがついててね」
『あぶねっ……ついそのままキスしようとしちゃ
った。でもそろそろいいかな?結構懐いて来た
わけだし……歩夢も』
「ありがと、あとは部屋でやるからもう、いいよ」
「まだ終わってないだろ?今日の分はあと3ページ
やるっていってただろ?それとも…何かあるの?」
間近に寄って来られると本当に恥ずかしくなる。
郁也兄さんは本当に顔はいい。
顔だけなら、男でもドキリとするくらいにはいい
のだ。
でも、あえて男に興味を抱く趣味もない。
そう思っていた。
が、最近ずっと言われる『可愛い』という言葉に
つい反応してしまう。
やっぱりこの女ったらしは危ない。
美咲はすでにハマっているようだが、歩夢にはそ
んな感情理解したくなかった。
「終わるまで逃がさないよ?ほら、座って……飲
み物、取ってくるからその間にやってて」
「……」
側から見たらいいお兄さんだった。
だが、内心ドキドキなのだった。
「コーヒーでいい?」
『あぁ、押し倒したい。腕の中に収まるこのサイ
ズ感、堪らないな〜』
「やっぱり要らない」
「遠慮しないでよ。俺も飲みたいし」
『部屋なら不意打ちでキスしてもいいかな?いや、
まだ早いかな?』
早いとかそんな理由より、そもそも兄弟でキスは
ない。
そう言いたかったが、声が聞こえる事を言えない
ので反論もできない。
早く終わらそう。
そう思うと、真面目に取り掛かった。
今日やると言った分を終わらせると、急いで部屋
へと戻る。
鍵さえかければ落ち着ける。
そう思うと、今やってる教科が終わると片付け出
した。
「もういいのか?」
「うん、あとは一人で出来るから、部屋に戻るよ」
「そっか。わかった」
「うん、ありがとう。勉強見てくれて。」
慌てて2階へと上がると部屋に駆け込む。
そしてふぅ〜っと一息つくと、いきなりドアが開
いたのだった。
「あのさ…」
「なに?もう大丈夫だけど?」
「うん。忘れ物と思って」
そういって持って来たのは、さっき見当たらなか
った消しゴムだった。
持って来てくれたんだと思うと警戒せずに手を伸
ばした。
その瞬間、空いてる方の手で身体を引き寄せると
唇に温かい感触が当たる。
「ご馳走様」
「……なっ!」
いきなりで驚いて固まっている歩夢に郁也はにっ
こりと笑いながら堂々と唇にキスしたのだった。