16話 兄弟の仲
勉強を見る代わりに弁当を作る。
そういう約束をしてしまった。
次の日から、2人分の弁当を作る事になった。
家に帰ると美咲がカンカンに怒っていたが、郁也
兄さんを見るとすぐに機嫌が良くなった。
恋は人をダメにするというが、本当な気がする。
「歩夢、一緒に風呂入らないか?背中流してやる
ぞ?」
「狭いので一人がいいです」
「ねぇ、ねぇ!郁也お兄ちゃん、私一緒に入りた
ーい!」
『これはチャンスじゃん?裸の付き合い?いいじ
ゃん、いいじゃん』
「美咲、母さんに顔向けできない事を考えてるん
じゃないよな?」
「えっ……あ、そうだった私、今日は宿題がある
んだったー先に上がるね〜」
『お兄ちゃんのばか!もうちょっとだったのに…』
気まずかったのか、先に行ってしまった。
油断も隙もない。
「俺は別に良かったけど?家族だし…?」
『裸の付き合いかぁ〜、このまま脱がせちゃえば
どんなにいいか……いっそこの目の前の唇に…』
「悪いんだけど、着替えるから出て行ってくれる?」
「男同士だし、いいでしょ?」
『着替え!って事は……目の前で脱ぐじゃん?ス
トリップかぁ、いいね〜じっくり目に焼き付け
ねば』
「よくない!早く出てって!」
最近の郁也兄さんの事がわからなくなっていた。
顔には出さないけど変態思考がどうにも似合わな
い。
本当にあの声は郁也兄さんのなのだろうか?
別人の声が混ざっているのだろうか?
でも、近くには誰も居ないし……。
謎は深まるばかりだった。
それから勉強は親がいる時にキッチンでやる事に
した。
なんだか部屋でやるのに、嫌な予感しかしないか
らだった。
二人っきりで個室になど入りたくなかった。
「へぇ〜、郁也くん、歩夢に勉強を教えているの
かい?」
「えぇ。歩夢のご飯美味しいし、兄として何かで
きないかなって思いまして…」
「そうなのよ〜、さっきからずっとここで勉強し
てて、本当に仲良くなってくれて嬉しいわ」
まどかさんは本気で喜んでいた。
郁也の手が触れてくる度に、一瞬緊張が走る。
「あのさ、これって意味あるの?」
「ん〜?別に、俺がそうしたいからかな」
そういって勉強中に手を握ってくるのをやめない。
勉強を教えるのに、なんで後ろから抱きしめるよ
うにべったりくっついてくる必要があるのだろう。
美咲だったら喜んで擦り寄りそうなシュチュエー
ションだったが、歩夢には理解できないのだ。