12話 家族の気持ち
月曜日の朝、いつものように早起きすると歩夢は
自分の分の弁当を作ると朝食に取り掛かる。
いつもだったら3人前の弁当と3人前の朝食だった
が、今は自分の弁当と5人前の朝食を用意する。
洗濯物はスイッチを押して置く。
出来上がると。ちょうどまどかさんと父が起き
てきた。
「歩夢、そんなに早く起きなくても…」
「いつもの事だったし。洗濯はもうすぐ終わる
から。それと僕、もう出るから。美咲は寝て
るよ」
「歩夢?」
食べ終わると自分の分を片付けてすぐに出てい
く。
朝は早く行って静かな教室で勉強した方が捗る
気がした。
だが、それより気になるのは、郁也兄さんが追
いかけてきた事だった。
「待ってよ。一緒に行こうぜ」
「朝食食べなかったんですね…」
「あぁ、ごめん。俺、朝は食べないんだ。歩夢
ってしっかりしてるんだな?」
『へ〜、なんでもこなす弟かぁ〜、可愛いな』
「別に……って……一体何を……」
言いかけてやめた。
今のは口に出した言葉ではないからだった。
家族になると言うのに、変な目で見られるのは
流石に勘弁してほしい。
こういう事は知らない方がいい。
歩夢自身、この聞こえる声の事を話したのは母
親だけだった。
母はよき理解者で、真っ直ぐに歩夢に向き合っ
てくれた。
そして…絶対に誰にも言わない事を誓わされた
のだった。
もし知られれば、きっと嫌な思いをするのは歩
夢自身なのだと何度も言われたものだった。
母が死んでからは誰にも言っていない。
当たり前だろう。
こんな事、言っても誰も信じるはずがないのだ
から。
多分、家族でさえも気持ち悪がるに決まってい
る。
もし自分だったらと考えると、ゾッとする。
知らないうちに本心がダダ漏れなど考えたくも
ない。
そう考えると、母は出来た人だったのだろう。
「ねぇ〜、何考えてるの?勉強、よかったら俺
が教えようか?」
「……別に自分だけで平気だし……」
「その割に眠そうだけど?お兄ちゃんになった
んだし、少しは頼ってよ。ね?」
「………僕こっちだから」
足早に向かうのを引き止められると、余計に気
まずい。
「一緒に行こうって言ったじゃん。この前も同
じ方面の電車だったでしょ?ほら、行こう」
郁也は歩夢の腕を掴むとぐいぐいと引っ張って
いく。
いくら家族になったといえど、あまりに馴れ馴
れしい。
普通兄弟とはそういうものなのだろうか?
歩夢には初めての兄なのでわからなかった。