10話 打ち解ける
5年も家事と学業をこなして来たのだ。
我儘な妹と父親を満足させて来た歩夢の実力は
普通の主婦達におとならなかった。
「すごいわね、まさかいつもやってるの?」
「はい、朝は弁当も作るのでいつも時間がない
せいで手を抜くことも多いですが…」
「それでも凄いわ!歩夢くんにこんな特技があ
るなんて!あ、ごめんなさい。私ったらちょ
っとはしゃいでしまったわね」
「僕のは好きでやっているわけではないので…
僕しかやらないから仕方なく……」
少し俯く視線を向けると、やるせなくなったの
か、まどかさんの腕が包み込んできた。
女性に抱きしめられるなんて初めてだった。
だからこそ、慌てるように動揺してしまう。
「そうよね、好き好んで家事をするわけないわ
よね。ごめんなさい。これからは私に頼って。
なんでも頑張ってみるからね?」
『いつから家事をやっていたんだろう。これか
らは私がしっかり支えなきゃ』
まどかさんはしっかりした女性らしかった。
何にでも挑戦しようとしたし、歩夢のことも、
美咲の事も本気で自分の子供のように思って
くれそうだった。
「一緒に手伝ってくれますか?」
いきなりの申し出に戸惑ってはいたが、嬉し
いことが伝わって来ていた。
「では、こっちをお願いします」
「これなら出来るわ。なんか手慣れてるわね〜、
あ、ごめんなさい。覗かれるの嫌だったかし
ら?」
「いえ、いつも一人でやっていたので、誰かと
って慣れてなくて……」
「こちらこそ、息子と一緒に料理なんて楽しい
わ」
本当に明るい人だった。
夕方になって、父が帰ってくると、2階では郁也
兄さんと美咲が何やら話していたらしい。
「今日はいきなり会社に呼ばれてな…お、美味そ
うだ」
「えぇ、歩夢くんと一緒に作ったのよ?歩夢くん
ってとても器用なのね〜私こんな息子ができて
嬉しいわ」
すっかり仲良くなっていた事に、郁也も美咲も驚
いたらしい。
「なになに?お兄ちゃんってまどかさんみたいな
女性がいいの?」
「美咲……本当はお前が手伝うべきだろ?何やっ
てたんだよ?」
「えーっと、それはぁ〜」
『仕方ないじゃん、郁也お兄ちゃんが昔のアル
バム見たいって言うんだし〜、やっぱり昔の
私も結構可愛いからかな〜』
「ごめんね、全部やらせて。歩夢くんも……」
『子供の時も可愛かったけど、やっぱり今も可
愛い。髪もサラサラだし……触ったら嫌がる
かな?』
「少しは手伝うべきだろ?」
「歩夢?」
「別に……少し疲れたから部屋に戻るよ。僕の分
は残しておいてよ…」
そのまま部屋へと一人戻ったのだった。
「何か気に触る事でも言っちゃったかしら?」
「いや、まどかさんのせいじゃないよ。受験生
で少しピリピリしてるんじゃないかな……、
それにいつも歩夢にはなんでもやらせてしま
っているからね」
「そうなのね。これからは私がなんでもやるわ
ね」
「まどかさん……」
「はいはい、母さん、お腹空いたんだけど?」
「お父さんも子供の前で何やってるの?そんな
んだからお兄ちゃんが怒るんじゃない?」
そう言うと、4人で食卓を囲ったのだった。