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第七話 イーギス


一方、ギンマの宝冠を手に入れたヌミシーは、アークの裏切りを伝えるべく王城の保管庫の中で策を練っていた。


「クソッ、部屋が取り囲まれた......!

どうにかして脱出する方法はないのか?」


僕が保管庫の内側で頭を悩ませていたその時、僕が手に掴んでいた宝冠が強く輝き出す。

何事だと思ったのも束の間、僕の体は宙に浮きだし、まるで引き込まれるかのように壁を破壊し猪突猛進に大空へと飛び出していた。


「うああああああ!?」


僕は保管庫の分厚い壁を破壊して大空へと向かう。

そして僕はこの宝冠が一条の光を指し示していることに気づく。


「この方角は......玉座の間

ということは、あそこにアシヌたちが......!」


僕は意を決して一条の光を追い、宝冠の力で空を飛ぶ。

どうやらこの宝冠には『空を自在に飛ぶ力』が備わっているようだ。


「なんだか体に力が溢れてくる......!

バマウ、アシヌ......! すぐ行くぞ!」


こうして僕は空を瞬く間に駆け上がっていくと、そのまま玉座の間の窓に突っ込んでいったのである。


ーーーーー


「アシヌ! よかった、ちょうど伝えなければならないことがあったんだ!」


「伝えなければ、ならないこと?」


「ああ、アークが裏切った!

アイツ、僕らを衛兵たちに突きつけるつもりで、怪我をしたなんて嘘を!」


「そういうことか......!

じゃあ衛兵は!?」


「今の衝撃音で駆けつけるだろう。

それより僕はバマウの手当てをする!

だからアシヌ、この場を頼んだぞ!」


「......ああ」


「貴様ら、タダで済むと思うなよ?

この俺に楯突くとは......絶対に許さぬ......!」


「あーあ、ムジール王はお怒りだぜ、こりゃあ」


僕はパンパンと服についた土煙を払うと、足元になぜか落ちていた松明をギュッと握り、ユーゴンに宣戦布告を始めた。


「一騎討ちの勝負と行こうぜ、ユーゴン!」


「懐かしい感覚だ。

久しき強者との戦い......

貴様、名を名乗れ」


「アシヌだ......!」


「アシヌ、覚えておこう。

俺の歴史に泥を塗った、一騎当千の叛逆者よ!」


僕の魂はメラメラと炎のように燃え盛る。

それに呼応するかのように、僕の松明は白銀色のチリチリとした火花を先端から放出する。


僕は構えを変えた。

目の前にいる敵は、紛れもない強敵だ。

僕の魂が尽きるか否か、この戦いに全てを投げ打つ所存だ。


「かかってこい」


ユーゴンは右手に持つルディーサイオをギラリと光らせる。

そして目に宿る黒色の瞳孔が一気に血のような真っ赤にガラリと染まる。

間違いない、雰囲気が変わった。

さっきまでのような余裕綽々の態度と打って変わって、彼の姿は覚悟を決めた騎士そのもののようなオーラを醸し出していた。


「強者との戦いは長引かない。

決着は、一瞬の隙にて決まる」


ユーゴンは剣を構え、そして僕の脈打つ心臓と微かに聞こえる呼吸の音をその目で捉えた。


「心臓の鼓動、肺の呼吸音、その狭間を縫うように剣を振り抜く......」


ユーゴンは僕の意識の狭間、僕の無意識の死角とも言えるタイミングで高威力の斬撃を剣から放出した。


無限海嶺インズマ!」


巨大なVの字を描くその斬撃は、床をV字型にくり抜くと、そのまま玉座の間全体にヒビを入れ向かいの壁を大きく破壊した。


「壁に......V字の風穴が......!?」


「やはり体は鈍るものだな。

全盛期ならこの程度の城など一撃で陥落しただろうに、このザマとは......!」


「(ユーゴンの全盛期......一体どれほどの強さなんだ......!?)」


僕はユーゴンの解き放つ脅威の斬撃を目の当たりにし気合いを入れ直す。

目の前の敵は生半可な覚悟では決して打倒できない敵なのだと理解する。


「どうした、小僧。

まだ序の口だぞ?」


「やってやる......!

お前を倒せば全てが終わる......!」


「終わるものか、俺は王だ。

伊達に四十年も国を治めているわけではないのだ。

お前のようなヒヨッコが、俺から全てを奪えるか?

答えは否、不可能さ」


「僕ならできるよ。

お前を倒してこの時代を終わりにするんだ!」


「ならば俺を、止めてみろよ......!」


ユーゴンはルディーサイオを構え、僕の目の前に急接近する。

僕は松明を正面に構えると、ユーゴンの振り翳す剣技の数々を松明を使い紙一重で防いでいった。


「防戦一方じゃないか、アシヌ。

これじゃあ俺には勝てんぞ」


「(ぐっ、攻防が速すぎる......!

なんて剣技だよ......!)」


僕はユーゴンの卓越した剣技に翻弄される。

しかしユーゴンのその顔は、まるで自分を倒して欲しいと懇願しているようにも見える顔をしていた。


「アンタ......!」


「口ではなく腕を動かせ。

戦いは言葉ではなく、剣を交え相手を測るものだ」


ユーゴンは僕を「未熟者」だと言わんばかりに、隙のない攻防を僕に見せつける。

しかし僕も絶対に負けまいという鋼の意志に突き動かされ、決してそれらの剣に屈することはなかった。


「(剣を交え相手を測る......ならば松明も同じことか......)」


僕はユーゴンの剣技を注意深く観察しながら、攻めを捨て防御と回避に努める。

僕は彼の言葉通り『防戦一方』の戦いではあったものの、徐々にユーゴンの弱点らしきものがなんなのか、見えるようになってきていた。


「(洗練された剣技、抜けのない歩法、巧みにこちらの打撃を封じる守備能力、どれをとっても異次元のレベルだ......。

だが、やや鈍い。

どうやら打つ手なしだと思っていたこの男の剣技にも弱点はあるようだ)」


僕はスッと神の松明の構えを変える。

それを見て僕の行動の変化を一瞬にて感じ取ったユーゴンは僕の間合いから距離を取り、一時的に回避の姿勢に入る。


「(先ほどから何か企んでるなと思っていたが、まさか俺の動きを読んでいたとは。戦いのセンスも一級品だな)」


僕はユーゴンが回避の姿勢を取ったことに驚いたが、しかしそれでもその行動に抜けがあることに目をつけた。


「(やはりガタガタだ......! 守備に徹していたからわかった。この男、衰えている......!

足元がおぼつかなくなっている!)」


僕は村で培った戦いの経験値と神の松明より授かった知性に身を委ねながら、ユーゴンの呼吸が乱れた一瞬の隙を突き松明を振り上げた。


ギイィィィン!!!!

金属の鈍い音が玉座の間に響き渡る。

それと同時にユーゴンの持っている剣は宙に高く飛び上がり、彼は丸腰になったまま僕の打撃をみぞおちにもろに受け止めた。


ズム、という衝撃がユーゴンの全身に伝わると、ユーゴンはそのまま倒れ込み力尽きる。

どうやら、体はもう限界を迎えていたようだ。


「肺の呼吸音、その狭間を縫うように剣を振り抜く......

アンタが教えてくれたんだぜ?」


「見事だ、叛逆者よ......よくぞ、打ち破ってくれた......」


「一つ尋ねる。どうしてこのようなことを?

悪政の限りを尽くし、世界に混沌と戦争を引き起こした。

アンタの何が自分をそこまで突き動かした?」


「なんてことはない。

俺は、いつも一人だった......。

愛する者を失って、裏切られてから、俺は全てに復讐することしか考えていなかった」


「復讐?」


「その結果多くを巻き込んだが......

しかし、俺はそこまで多くの犠牲を望んだわけではない。

俺を突き動かしたのは、黒い、闇、だ......」


「そうか、なら安らかに眠ってくれ」


僕はユーゴンの胸部に松明の先端を当てた。


ILLイル


ユーゴンの全身にはかつてないほどの毒が回った。

それと同時にユーゴンの胸部から何かよからぬもの、モヤモヤした闇の塊のようなものがふわふわと浮かび上がるのがわかった。


《ふん、惜しかったな。

せっかく良い体を乗っ取ったというのに、まさか敗れるとは。

やはり、人間の体の老いとは恐ろしい》


「お前が、全ての元凶か?」


「驚いたよ、まさかその松明がお前のような小僧の手にあるとはな」


「松明?」


「さて、無駄話はここまでだ。

俺は逃げるとするぜ?」


「待て! 逃すと思うか!?」


僕が松明の力を使いそのモヤモヤした闇にトドメを刺そうとしたその時、僕の松明を防ぐ一閃が僕の前に現れた。


「!?」


この時、近くにいたヌミシーは直感した。

そこにいるのは『神の偶数』のメンバーの一人であることを。


「アシヌ、そいつはイーギスだ!

神の偶数に所属する、世界最強の戦士だ!!!」


「なに?」


《ふん、ここで神の偶数の大半を失うのは痛いが、やはりコイツだけは格別だ。

行くぞ、イーギス。俺を守れ》


「「了解」」


僕はイーギスという底知れない怪物と戦い、その力の差を思い知った。


「コイツ、ユーゴンより遥かに強い......!」


僕はイーギスの抜いた剣に呆気なく振り払われる。

そしてイーギスは正義の剣ルディーサイオを回収すると、そのまま外に飛び出し闇とともに大空へと飛んでいった。


「クソッ、逃したか......!」


僕は彼らを逃したことに大きく落胆し、絶望した。


「僕が......僕がもっと強ければ......!」


ひどく肩を落とす僕の元へヌミシーが駆け寄る。


「大丈夫か、アシヌ!」


「ああ、見ての通り、なんとかね」


「そう落胆するなよ。

それより、彼の埋葬をしよう」


「彼?」


「ああ、ムジール王ユーゴン。

彼は世界の英雄なのにも関わらず、世界中の人々に裏切られた生涯を辿ったらしい」


「世界中に、裏切られた......?」


「ああ、ユーゴンはかつて巨人震撼と呼ばれる、世界の脅威とされる巨人の襲来を叩き上げの兵士たちとともに返り討ちにした、人類を救済した英雄なんだ。

それなのに、世界は巨人の侵攻を恐れ、英雄であるユーゴンの妻、そして子供の命を巨人たちに差し出したんだ」


「なんだって......!?」


「ああ。ユーゴンはひどく悲しんだ。

しかしユーゴンは彼らを許してあげたんだ。

彼らも自分の命がかかっていて、どうしようもなかったことをわかっていたから。

でも悲劇は終わらなかった。

ユーゴンは自らの心身を擦り減らして巨人撲滅に努めたが、英雄ユーゴンによる種族の絶滅を恐れた巨人の国家はユーゴンに内密で和平条約を人類の首脳らと締結。

その和平の引き換えに、巨人はユーゴンの身柄の引き渡すことを条件に加え、人類側はそれを承諾したんだ。

人類は平和のために彼『英雄ユーゴン』の命を彼への相談もなく差し出そうとしたんだ。

それを知ったユーゴンはひどく怒り、そして人類の国家への責任を追求した。

ユーゴンの率いる『正義の暴兵』たちの始末に困った首脳らは、英雄ユーゴンにムジール王国の王位、そして人類最強の防衛力である《七人の使者》と《正義の剣ルディーサイオ》を贈呈し、再度信用を勝ち取ろうとした。

だがユーゴンは許さなかった。

七人の使者と正義の剣を手にしたユーゴンは、そこから暴虐の限りを尽くし、世界に復讐を始めた。


それが奴の生涯だ。

奴は憎まれこそすれど、本当は憎むべきではないかけがえのない英雄だったんだ。

それを変えたのは、僕たち人だ。

人が彼を変えたんだ。

だからこそ、それらの悲劇は二度と引き継がせない。

そう、君に会ってからそれを思い出したんだ、アシヌ」


「僕に?」


「君は僕らの恩人だよ。

僕らの新たなる英雄だ。

彼はこの国のムジール最後の王として祀る。

そしてこの事実を強く受け止め、僕らは新たな国を設立するんだ! さあ、やるぞ、アシヌ!」


僕らはこうして英雄ユーゴンを大きな墓に埋めた。

そしてひどく崩れた王城を修復し、新たなる英雄アシヌこと僕と新国王であるヌミシー、その配下にバマウが付く形で国は新たな方向へ舵を切ることになった。


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