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第六話 神の偶数の戦士


ひっそりと王城に侵入し、玉座に辿り着いた僕とバマウ。

世界中に正義の暴動を引き起こす稀代の暴君は、玉座の上で静かにこちらを睨み見下ろすように視線を落とした。


「何用だ、貴様ら。

我が玉座に無断で踏み入る愚か者が」


「ムジール王ユーゴン......アンタが例の......!」


「ユーゴン陛下、だ。

貴様ら、この俺を誰だと心得る?

この世界の全てを支配せんとする、ムジールの王であるぞ」


「支配なんてもうまっぴらだ!

俺たちはお前に戦いを挑みにきた!

この悪政を断ち切るためにな!」


「ふ、ふふ、ふはは、ふははははははははは!!!

面白いことを抜かす。俺は悪政を敷いた覚えなどない。

俺の成すこと全てが美政。そんなこともわからんのか、この下民どもは」


「下民などとはいい言われようだ。

アンタこそ、随分と派手に暴れ回ってるそうじゃねえか!」


「暴れ回る? それの何が悪い?

俺はこの世界を統治する最大最高の王であるぞ?

思うがままにできる、それは必然の出来事であろう?」


「その時代はもう終わりだぜ、ユーゴン。

人を散々弄び苦しめた事実は揺らがない。

お前には一度、玉座から陥落してもらうよ」


「未来永劫、俺が玉座から堕ちることなどありえはしない。

それを今から証明してやるとしよう」


ユーゴンは指をパチンと鳴らし、六人の戦士を玉座の前に呼びつける。


「我が王国随一の精鋭『神の偶数』だ。

神聖なる偶数を背負いし戦士を、お前たちは止められるかな?」


「構えろアシヌ、コイツら、強いぞ......!」


バマウは一瞬で六人の気配を感じ取り、臨戦態勢を整える。


「神の偶数......まさか、噂は本当だったとは......!

コイツらは本来、七人で名を馳せた神の使者、代々ムジール王家に仕える戦士だ。

イーギス、ダイトム、エヴァンリ、ロースン、グギト、ムアーレ、サイドル。

どれも歴戦の猛者揃いだ......!」


「歴戦の猛者か......それは油断ならないな!」


僕は神の松明を構え、目の前の戦士たちを迎え撃つ準備をする。


「ふふふ......今回イーギスは不在だが、六人でも十分対処できる。さあ、あの男どもを、殺せ......!」


ユーゴンが命じた六人の戦士は玉座から勢いよく飛び跳ね僕らの周囲を覆うと、するりと細い長剣を抜き僕らに指し向けた。


「立ち振る舞いからわかる......凄い気迫だ。

コイツは骨が折れそうだ!」


長剣を指し向けた六人の戦士はいっせいに僕らに斬りかかり、僕とバマウは互いに背を預け合う形で戦士の攻撃を受け止める。

その間松明の力が僕らに宿ったのか、一時的に身体能力や動体視力が向上するような不思議な現象に助けられているのに気づく。


「なんだ、体が軽い......!

戦えるぞ!」


六人の戦士はそれぞれ自然現象にも近い『落雷』や『突風』、『噴火』『津波』『土砂災害』『吹雪』など、それらを想起させるエネルギーの弾丸を一つ一つこちらに向けて解き放っていた。


「森羅万象の砲弾......! 

気をつけろ! 人が触れれば消し飛ぶ威力だ!」


「問題ない! コイツで吹き飛ばす!」


僕は松明の先端部分を王城の床に突き刺すと、その中心に圧縮した神の気のエネルギーの突風を僕とバマウの周囲に撒き散らし、それらの砲弾を一つ一つ潰していった。


「す、すげえ......! これ全部弾いたのか!?」


「想像以上の力だな......

慣れてきたとはいえ、これほどの力を発揮するとは......!」


僕は神の松明『ドレイド』の力に驚きながらも、これ以上ないくらいの手応えとともに不可解な動きをする六人の戦士を追い詰めていく。


「なんだ、この強さは......!」


六人の戦士らは神の松明の放つ異常な神気に当てられ、明らかに動きが鈍くなる。

僕らはその隙を狙い撃つように次々と打撃を急所に与え、彼らの無力化に努めていく。


「おかしい......神の偶数ともあろう戦士たちがこの程度の実力なのか? いや、この松明が異常なのか!」


バマウは僕の持つ松明をチラリと横目で見つめ、六人の戦士の間を縫うようにユーゴンのいる玉座に向かって一気に駆け出す。


「お覚悟! ムジール王、ユーゴン!!!」


「舐められたものだな、俺をこれしきで倒す気とは」


バマウの右腕、その先端に握られた兵士の剣がギラリとユーゴンの首に牙を向く。

ムジール王は静かに剣を鞘から抜く。

正義の剣ルディーサイオがギラリとその鋭い刃を覗かせる。


ザシュッ!


バマウの剣がユーゴンの首元を通過する音が聞こえる。

ユーゴンは垂直に立ったまま血塗れの剣を握っている。


「え、血?」


その下に見覚えのある腕が一つ、兵士の剣とともに転がり落ちている。

これは......これは......!


「バマウ!!!」


僕は大声で叫びバマウの元に駆け出す。

しかしバマウは絶望した表情でユーゴンに首を持ち上げられる。


「ご自慢の腕は、その程度かな?」


バマウは右腕の激痛と強く締められる首に脳が混乱する。

彼は......バマウの腕は、ユーゴンに切り落とされていた。


「がああぁぁぁぁぁ!!!」


痛みに悶え、叫び出すバマウ。

しかしその煩い口をユーゴンは首ごと握り締め、圧迫する。


「騒ぐな。叛逆者ども」


僕は慌ててユーゴンに向かって松明を構える。

ユーゴンはそれを見て冷静に剣の刃で松明を受け止めると、僕の体勢を崩しそのまま斜めへ弾き飛ばした。


「ぐぁああ!!!」


「並々ならぬ神気だ......貴様、これをどこで手に入れた?」


地面に倒れ込む僕はすぐさま体勢を整え神の松明をユーゴンに指し向ける。

僕は松明から無尽蔵のエネルギーを一気に放出すると、ユーゴンは目前にまで迫ったそのエネルギーの波状をルディーサイオでいとも容易く分断した。


「くっ、強い......!」


ユーゴンの切り裂いたエネルギーが玉座の間全体にくまなく行き渡ると、ユーゴンはルディーサイオをこちらに向かって指し向けた。


「お前らでは俺には勝てん。

が、その実力の高さは評価に値する。

決めた。もしお前が俺の部下になるのなら、

この男は離してやる。

この男の首をな。

そして降伏しろ。

さすればお前の愚行は見逃してやる。

選べ」


「(クソッ、バマウが人質に......!

万事休すか......!)」


「耳を貸すな、アシヌ!

アンタはこの国を救える男......!

絶対に奴の言う通りになるな!」


「煩わしいぞ、下民が......!」


ユーゴンはバマウの反応を不快に思ったのか、握り締めていた手の力を更に強める。

僕はバマウがうがうがと悶え苦しむ様を見て、見捨てる勇気が次第に湧かなくなっていった。


「動くなよ、そこの下民。

今から俺が十を数える。

その間にその杖を地面に置け。

降伏せねばこの男の命は貰う。

十、九......」


僕は葛藤した。

あと十もしない間に彼の命が無くなる。

でも、彼を見捨てれば、戦う意味など......!


「クソッ......クソがッ......!」


「八、七......」


「どうすれば......どうすれば彼の命を救える.....?」


「六、五......」


「(見捨てたくない......こんなところで、見捨てるなんて......!)」


その時だった。

僕の脳裏に思いもよらぬ文字が浮かび上がったのは。


『玉座に走れ。お前を助ける者が現れる』


それは松明の声だった。

松明は白銀色の輝きで僕にそう伝えると、僕は一直線に玉座に駆け込む準備をする。

松明に宿る白銀色のエネルギーを放り投げ、神の偶数の戦士らの生み出した隙めがけて突撃すると、僕はその白銀色に輝く松明を玉座に向かって投げ飛ばしていた。


ユーゴンは「小癪な......!」と一言言い放ち、その松明をルディーサイオで自身の真上へと弾き飛ばす。

そして僕がユーゴンの懐に駆け込んだその瞬間、天井にまで飛ばされた白銀色の松明が更なる光を真下に向かって解き放った。


「なんだ!? 何の光だ!!!」


突如として光だす松明の輝きにユーゴンは目を奪われる。

そしてそのほんの僅かな刹那の時、玉座の窓は割れ外から影のようなものがユーゴンめがけて飛び出してきた。


「バマウー!!!」


ユーゴンは光の不意打ちで目が眩み、思わず緩んだ握力の中からバマウの首を引っ張り出されると、僕の隣にそのバマウを引っ張り出した張本人が現れた。


「ヌミシー!!!」


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