出会い
川先駅の改札を出た俺は、目の前の光景に、現実逃避をしてしまいそうになった。
改札前のモニュメントの時計塔の前に、
皮膚に漆黒の鱗を持ち、濃い青色の光が鱗に沿って幾つかのラインを輝かせていた、2つの角の生えた四足歩行のドラゴンが。
目測全長15メートルのデッケェドラゴンが、いた。
「…へ?」
思わず声が出た。
立ったまま夢を見ていたのかもしれない。
好奇心と恐怖心が混じり合う、言葉には出来ないような感情が俺を襲った。
ドラゴンから発せられた鼻息が俺を包む。
ぜんぜん夢じゃないわ。恐怖心が爆速で勝ったわ。
あったけぇなおい。
1月1日の寒空に染み渡る暖かい空気だわ。
めちゃくちゃ生き物じゃねぇか。
本物だわこれ。
「グルルルルゥ…」
唸ってるわ。うん。すげぇや。声もリアル過ぎるわ。
思わず何も出来ず呆けていると、少なからずも、駅前。
人がちらほらいたからか、
「なんだあれ。」「なんかのイベント?」
「スマホスマホ。写真撮ろうぜ」
なんて、声がちらほら聞こえてきた。
俺も、周りの人に合わせて、流れでスマホで写真を撮って、さっさと駅の近くに停めてある自転車を回収して、帰宅しようと思った。
うん。周りの人も見えてるから、夢じゃねぇわ。
なんかのドッキリイベントかなんかだろう。
そこで俺は気がついた。スマホで撮った写真のドラゴンは。
どこか怯えている様子で、周りをずっと見回すだけだった。
そんなドラゴンを見ていた。
俺の肉眼の両目は。
ドラゴンの視線とぶつかった。
その時、不思議と、このドラゴンの感情が、俺に流れ込んできた感覚がした。
不安。恐怖心。怯え。仲間は。ここはどこなのか。眩しい。助けて。
複雑にも、だが、只々悲しみの感情が俺に流れ込んできたんだ。
そんな俺は。
気がついた時、周りに向かって叫んでいた。
「申し訳ございません!皆様!プロジェクトマッピングが誤作動を起こしてしまいました!」
「撮影をおやめください!」
口からでまかせだったが、
幸い、人が少なかったので、スマホを構えるのをやめてくれた。
すぐに俺はドラゴンのすぐ目の前に立って。
ドラゴンの瞳に視線を合わせながら。
一か八か思考をぶつけてみた。
『俺はお前の味方だ。お前が警戒しているように俺達も警戒をしていたんだ、俺はお前と和解したい。だから周りの光も止めた。だから、どうか落ち着いてくれ!』
幸いにも、俺の思考が届いたのか、ドラゴンは静かに俺の方を見つめていた。
安堵した俺は、続けて
『お前を安全な所へ連れていきたい。着いてきてくれるか?』
ドラゴンを見つめながら思い巡らせた。
すると、ドラゴンは俺に頭を近づけて来た、俺は思わず、ドラゴンの頭を撫でた。
その瞬間
深い青い閃光が輝き。
辺りを包んだ。
灯りが止んだら目の前のドラゴンは消えていて。
俺の腹部には、黒い鱗に5本線の紺色のラインを纏った、大きめのリュックサックに入るくらいのぬいぐるみサイズのちっちゃいドラゴンがしがみついていた。
あらかわいい。
ちっちゃな四足の足でしっかり固定され、長めのシッポを巻き付けられていた。
急いで俺は、上着でちっちゃなドラゴンを隠しながら。
脱兎のごとく。ドラゴンを抱っこしながら、その場から離れた。
これが俺の平穏な日々を変えてくれた。
始まりの1日だった。