お昼の放送
『はーい、今お聞きいただいたのは先週リリースされた人気曲、都知事サンバでした! 次の曲に行く前に、お便りがありまーす!』
「サーンバ!」
「イエーイ!」
「従え、都知事のガバナンス~」
「オ・レ!」
とある小学校。その給食の時間は、このように放送係がラジオDJ気取りで放送を行っている。
が、DJ気取りと言っても、その人気は中々のもので皆がこの時間を楽しみにしていた。
『えー、おっと恋のお便りのようです! フゥー! はい、ラジオネームは匿名希望さん。
えー、私は何年も前から、とある男子生徒に恋をしています! でも、中々意識してもらえません!』
「えーだれだれー!」
「うちのクラスかなー!」
「他の学年かもよー?」
『えー……なので、えっ、媚薬を作り……その男子生徒がいるクラスの給食の鍋の中に混ぜました』
「え?」
「は?」
「ちょ……」
「嘘でしょ」
『材料は……蛙の目玉、陰毛、唾液、爪、などを刻んで入れました……あ、あとオイスターソースも入れておきました』
「オエエー!」
「ちょっとコクを出そうとしてんじゃねーぞ!」
「告白だけにか!?」
「は?」
「みんな落ち着け! まだうちのクラスとは決まってないぞ!」
「確かにそうだ! コクはあるか!? カレーの中のコクを探せ!」
「嫌だよ!」
「俺はぜってー最後まで食うからな!」
『えー、そのクラスというのは……一年生のクラスではありません』
「クソッ!」
「でもそれもそうか」
「じゃあどこなんだよ!」
「どの学年なの!?」
『二年生でもありません』
「頼む、頼むぞ……」
「三、四年生であれ」
「六年生でもいいぞ……」
『三年生……とも違います』
「次、次こい!」
「あああ頼む頼む頼む」
「五年生以外でどうかどうか……」
『四年生…………じゃないです。そしてそのクラスは六年生!』
「いよーし!」
「ざまーみろ!」
「いつもグラウンド占領しやがってよぉ!」
『……でもありませーん! 五年生でしたー!』
「クソッタレが!」
「放送係楽しんでんじゃねーぞ!」
「欲しがりめ!」
「それで何組なの!?」
「お願い……二組以外で……」
『そしてそのクラスは……一組、二組、三組のうちのどれかとなります! と、ここで一曲行きますか。えー、都知事サンバのアカペラバージョンです、どうぞ』
「ふざけんな!」
「いるかそんなもん!」
「サーンバ!」
「ババアがよぉ!」
「カレーが冷めちまう!」
『おおっーと、でもでもみんな、気になっちゃいますよねぇー? じゃあ、曲をバックにしちゃいましょうか! 結果はっぴょーでえええす! イエーイ!』
「盛り上がれるかよ!」
「クソみてーな曲流しやがって」
「でも耳に残るんだよなぁあの曲」
「もうカレーいらない……」
「そもそも惚れられたやつ誰だよ!」
「明瀬だろどうせ! モテるもんなぁ!」
「バレンタインのチョコも一番貰ってたしなぁ!」
「もしうちのクラスだったらお前がカレー全部食えよ!」
「もったいねえからなぁ!」
「そ、そんな無茶な……」
「うるせぇ! SDGsだ! 背くなら殺すぞ!」
『そのクラスとは……五年一組』
「いよぉぉぉし!」
「よっしゃぁぁぁぁ!」
「ああ、でもあのクラスにはあの子が……」
「ああ、あの子かわいいよなぁ」
「仕方ないよ。アーメン」
『…………ではなく二組! でもなければ……三組……と思いきや……やっぱり二組! おめでとおおおおう! フォオオオオウ!』
「あああああああああ!」
「クソがああああ!」
「オエエエエエ」
「ちくしょおおお!」
「やっぱてめえだろ明瀬ぇ!」
「巻き込みやがってこの!」
「まだ俺と決まったわけじゃ! やめて!」
「クソ野郎がよぉ! チョコをよぉ!」
「俺の、俺のカレーがぁ……」
『……と、実はドッキリでーす! 媚薬なんて入ってませーん!』
「え」
「は?」
「おいおい」
「マジか」
「……おい、行くぞ」
「え、カレーは無事?」
『あ、でもお便りは本物ですよ! いやーユーモアがあるなぁ。
みんなも見習ってこーゆーのドシドシちょうだいね! え、なに、おい、やめろ! 放送中だぞ! いや、悪かったって! ちょっとノッちゃって! 曲! ほら、曲流そう! ジャズバージョンで落ち着いて! あ、ああああああ――』
「悪ノリしすぎだよねぇ」
「ほーんとだよねー」
「男ってねぇ」
「ふぅー。カレーうまっ」
「ジャズもいいなぁ……」
「なんか疲れたぁ」
「ホントそう……」
「結局、誰からのお便りだったんだろう?」
「放送係の自演でしょ」
「……うっ」
「あれ? 明瀬くん、大丈夫?」
「あ、まあ、色々あって気分が……」
「私、保健委員だから、ほら、一緒に保健室いこっ!」
「あ、ありがと……」
盛るなら個別に。紙パックの牛乳の中にでも垂らせばいいのよ。それも媚薬なんてものじゃなくても少量の液体洗剤でね……。
そう、少女は鼻歌交じりに笑った。