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辿り着いたその惑星

作者: 雉白書屋

「やった! やりましたね船長! やった! やったんだ! ははっ!」


「こらこら、そうはしゃぐな。まだ測定結果が出ていないんだからな」


「ははは、無理もないですよ船長」

「ええ、それに一番浮き沈みの激しい奴ですからね」

「躁鬱病のアル中よね」


 そう、無理もない。彼らは宇宙船の乗組員。地球を飛び出し、人間が住むことのできる惑星の調査をしていたのだが、ここまで空振り続き。船内に絶望的な空気が漂う中、ついに見つけ降り立ったこの惑星。空は薄ピンク色だが、植物が至る所に生えている。 そして、酸素もありそうだ。喜び、興奮した船員の一人が今にも防護服を脱ぎそうな勢いで飛び跳ねている。


 ――ピピピ


「お、結果が出たぞ。大丈夫だ。呼吸はでき、ん、こ、これは」


「なんですか船長!? 大丈夫なんですよね! も、もう脱ぎますよ! こんな宇宙服なんてぇぇ」


「あ、ま、待て!」


「むむむ、はははは! はぁーん! 良い空気だ、あ、あ、あ」


「船長! あいつ、なんか様子がおかしいです!」

「一体、この惑星は、測定結果は!?」

「まあ、彼は元々おかしいけどね」


「はぁはぁはぁぁぁん、ああ、いい、良い空気だぁ……」


「あいつ、蕩けた目を……船長?」


「あ、ああ。この星は――」


「あ、あいつ! 丘に向かって走り出しましたよ!」

「あの馬鹿! 追いかけましょう!」

「無駄に足が速い……あ、あれ」


「湖!?」

「いや、それよりもあれ、宇宙人!?」

「あそこは水飲み場なの? 四つん這いで原始的、でも服を着ているわ。

どういうことなの……あ、馬鹿も湖に飛び込んだわ」


「はははは! でも幸せそうだな、あ、おい、お前らも行くのか!

まったく、大はしゃぎして……。まあ、あの閉鎖空間から解放されればそうなるか。

で、船長、どうします? 我々ももうこの窮屈な宇宙服を脱いでも、船長? 上を見てなにを、あ」


 その時であった。空から円盤、サーチライトのようなその光を浴びせられ、反射的に体が強張る中、降り立った宇宙人が二人にあれこれ機械を向け始めた。どうやらどこから来たのか調べ、翻訳機のようなものを調整しているようだった。


「アーアー、聴こえますカ? 通じてまス? ああ、よし、どうモどうモ。

いや、困るんですヨ。ちゃんと着陸場で降りて貰わないト。彼らが脱走したラどうするんですカ?」


「え、あ、すみません、え、脱走? ここはまさか刑務所惑星……」


「いや、多分違うだろう……」


「船長?」


「はイ、ここは更生施設でス」


「更生……?」


「ええ、どうすることのできない問題を抱える者たちをこの星に集メ、保護しているのでス」


「へぇ、さすが宇宙。惑星丸々使うとはスケールが大きい話だ」


「ええ、ただ単にこの星の環境が適していたという話ではありますがネ。

我々のように影響のない種族が管理を任されていルのでス」


「ははは、何にせよすごい。我々の星からも療養とか、船長?

あ、脱いでいいんですか? じゃあ、自分も……あ」



 船長は大きく深呼吸しながら思い悩んだ。

 このことを地球にどう追加報告するか。すでに『移住に適した惑星の可能性あり』と通信してしまった。そのまま伝えるべきか、楽園のような星を見つけたと言うべきか。その先の落胆、あるいは混沌が見える。

 刑務所とは当たらずとも遠からず。更生施設とは名ばかりの隔離施設。


 ここはアルコールの惑星。


 心地良い酒の空気に浸された脳はそのまま、悩みも宇宙船も、何もかも置き去りにした。

 宇宙人たちの「なんだ、この二人も病んでいたのカ」という呟きをも……。

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