40話 2033 Summer PvP Battle Tournament ⅩⅣ - 独唱
2033 Summer PvP Battle Tournament決勝トーナメントは着々と進み、次は準々決勝。
既に、エントリー数6桁の中でのベスト8までが確定していた。
その8人の中でも絶大な人気と応援を受けている者が2人。
まずは当然、優勝候補筆頭の『GrandSamurai』。
『Spring*Bear』不在の今大会においては頭ひとつ抜けた実力の彼はまさに勝ち馬。
大衆は“勝つ人”を応援したいのだ。
そして彼はその期待に応えるように、ここまでの3戦をすべてパーフェクトゲームで勝ち上がり、決着時間も段々と縮まっている。
そしてもうひとりの人気高は、『シズホ』だ。
ゲームを始めて3ヶ月、クラスは二次職。
決勝トーナメントに上がってきたのはよっぽど運が良かったか、そう思われても仕方の無いバックグラウンドの彼女である。
が、そんな評価は1回戦の激闘により一瞬で覆った。
最優・最重の騎士、最前線攻略組のエースパーティーメンバー、あの『ヤマダヤマ』を打ち破ったのだ。
大衆は、弱い方を応援したいものだ。
いつしか彼女は、この大会の台風の目となっていた。
勝てば歓喜、負ければ健闘を讃えられる。
ある意味では、彼女こそがこの大会の絶対勝者と言っても過言ではないのだ。
そして準々決勝第3試合の対戦カードは────。
『いよいよこの2人が当たってしまうぞォー! 片や次世代の最強ユーザー、片や稀代のジャイアントキラー! 再び見せてくれるのかパーフェクトゲーム、あるいはジャイアントキリング! どっちに転んでもこの鞍馬、冷静でいられる自信がありませんッ!』
『ラグナロクが終演せし時、新時代の新芽が芽吹くだろう…………っ!』
ところはシズホの控え室。
俺もアリアもネクロンも、相手が相手だもの、緊張感に包まれていた。
「あの、皆さん? そこまで静かだと却って落ち着かないのですが」
「すみません……でも相手はあのグラ助ですからね。ヤマダヤマが落ちた今、実力では彼が絶対的トップです。ここが事実上の決勝みたいなものですよ」
「大丈夫絶対決まる、絶対大丈夫絶対決まる…………」
「あたしは別に緊張とかしてないし? そもそもここまで来たことが奇跡みたいなものだもん。気楽にいこ────にっが! 何これブラックじゃん!!!」
「ああもう、何こぼしてんだよ。拭くからちょっとズレて」
「くまさんさん、それ、ハンカチじゃなくてパンツですよ。アリアさんの」
「のわァ!? なんでパンツ!?」
「ご、ごめんなさい……汗がすごくてさっき着替えたのよね……フルシンクロVRの高性能さが憎いわ…………っていうかいつまで握り締めてんのよ返しなさいっ!!!」
冷静でいられない俺達に対して、シズホは案外に落ち着いている。
戦っているのは彼女なのだ、本人が最も緊張感に苛まれるもんだと思ってたけど……意外とそうでもないのか?
「シズホさんは緊張してないんですか? 俺なんてもう、ずっと落ち着かないですよ」
「緊張……してない訳ではないんですよ? ただ……大勢の人の前に立つ事には慣れているのがひとつと、あとは私、失うものが何も無いので」
失うものが何も無い、か。
肯定を明言するのは失礼だが、まったくもってその通りだな。
シズホは初心者だ。
負けたところで、ヤマダヤマのように大勢から失望されるような事は無いだろう。
そういう意味では、シズホこそが今大会で最も戦いやすいユーザーなのかもしれない。
逆に相手方からすれば、勝っても得るもの無し、負ければ絶大な反感を買うだろう、最悪の相手とも言えるだろうか。
さて、そんなシズホを相手に、グラ助は如何な戦いを繰り広げるのだろうか。
「それじゃ、いってきます」
「が、頑張ってくださいシズホさん!」
「困ったら空に逃げよう! 現実逃避サイコー!」
「お願いします上手く決まりますように今のとこアタシだけまだ見せ場ナシなんだから……っ!」
思い思いの激励(?)を送り、シズホを送り出した。
あとはシズホ次第、せめてグラ助の連続パーフェクトゲームを阻止できますように……。
準備段階でしか力になれないというのは、生産職の歯がゆいところかもしれないな、と俺はため息を吐いた。
* * *
あれは私が小学3年生の頃。
親友の女の子に誘われて、ファミリー向け演劇を観劇した。
その舞台には当時の私と同じくらいの年齢の子も立っていて、私は生まれて初めて、何かを観て感動するという体験をした。
終演後、その劇団が新団員を募集するオーディションを開催するのだと知った私と親友は、互いの両親に掛け合い、オーディションを受けることになった。
当時の私は我というものを持たず、クリスマスもお正月も、誕生日でさえ、何かをねだるという事はしなかった。
そんな私の口から「演劇がやりたい」などと飛び出したのだから、父と母はそれはもう驚いていた。
驚いていたし、喜んでくれた。
親友はというと、普段から活発な性格で、とにかく我の強い子だった。
クリスマスもお正月も、誕生日も、何も無い時期でも、欲しいものがあれば買ってもらえるまで親にねだり、やりたいことがあれば一晩泣きついてでもやらせてもらう、そんな子だった。
私はあっさりと、親友は粘り強い交渉の末に、共に劇団のオーディションを受けられることになった。
オーディションまでの間、放課後は2人で課題台本の本読みをしたり、互いの両親に見せて感想を貰ったりもした。
そんな私達の情熱と努力が劇団の主宰に伝わったのだろう、2人揃って合格、晴れて劇団に入団する事となった。
オーディション合格の通知が届いた日、互いの家族を交えての会食、私は人生で初めて回らないお寿司を食べた。
その時の事は今でもよく覚えている。
回転寿司屋にはよくある、マヨコーン軍艦が食べたかったのだ。
劇団に入団すると、オーディションとは比べ物にならないほどの苛烈な競争が始まった。
公演の日程が決まれば、配役を巡っての劇団内オーディションがあり、勝てばスポットライトに照らされ、負ければバックで影の中。
私と親友が入団してから初めての公演で、なんと親友がいきなりメインキャストを射止めた。
対して私は端役も端役。
役があるだけ凄い、と両親は褒めてくれたがそうではない。
オーディションに負け、名前付きの役を勝ち取れなかった者は皆、この役を与えられるのだ。
舞台の真ん中で輝き喝采を浴びる親友と、それを眺めることしかできない私。
嗚呼、思い返せば、それを悔やめていれば未来は違ったのかもしれない。
次回、次々回と公演が進むごとに、親友は益々と実力・人気を積み上げていった。
何度かテレビ番組にも呼ばれるほどだった。
そして来る、高校1年生になった年の秋。
別々の高校に通うことになった私達は、やはり放課後に集まりオーディションに向けての練習を繰り返していた。
そしてオーディション当日。
これまでずっと影の中に居た私がいきなり、メインヒロインに抜擢された。
名前付きの役を飛び越えて、メインヒロインだ。
私はその喜びを真っ先に親友に伝えた。
ずっと一緒に頑張ってきた、一番大切な親友だから。
しかし、返ってきた言葉は想像していたものとはまったく違っていた。
「……新しい演出の人、イケメンだもんね」
その言葉の意味を分からない子供ではなくなっていた私は、ひどくひどくショックを受けた。
きっと褒めてくれると思っていた。
ようやく彼女と対等になれた気がして、嬉しかった。
だがそうでなく、負けず嫌いな彼女の機嫌を逆撫でするだけの、暗く汚らしい現実がそれだった。
その公演が終わると、親友は退団した。
曰く、芸能事務所に入るのだとか。
あんな事があったけれど、私は彼女の栄達が自分事のように嬉しかった。
彼女の居なくなった劇団で、いつか彼女に誇ってもらえるような女優になる。
それが私の夢だった。
それが私の原動力で、生きる理由だった。
────サラリーマンと共に歩く彼女を、ホテル街で見てしまうまでは。
嘘だったのだ。
彼女は芸能事務所になど入っておらず、ただ居心地の悪くなった劇団から……いや、私の元から逃げただけなのだ。
私は劇団に居続けた。
そこにしか、私の“親友”の面影は無かったから。
えっ、なんで今、そんな事を語ったのかって?
……だって、まさか社会人になってから再会するとは思わなかったんだもの。
それもゲームの中でなんて。
ねえ、気付いてるんでしょ?
そっちは髪も顔も声も身体も変えてるけど、こっちはリアルそのままなんだから。
私は貴女を失い、独唱となれど歌い続ける。
「アンタとアタシで一緒に勝つ。そうでしょ、大嘘つきの────バカシズホ」




