35話 2033 Summer PvP Battle Tournament Ⅸ - 最後の一射
『これぞ表彰台常連の実力と言わんばかりの冷静な対処から、瞬く間に逆転したァー! やはり二次職では勝てないのか!? それともヤマダヤマ選手が強すぎるだけなのか!?』
『強き者が勝つのか、勝った者が強者なのか……否っ! 恐れに打ち克ち立ち向かった者を、我々は勝者と呼ぶのだーっ!』
『ごもっともです『Darkness Darker』さん! 聞くところによればシズホ選手はまだこのゲームを始めて半年も経っていないのだとか……決勝トーナメントに進出しただけで伝説的な偉業だと称えるべきでしょう!』
実況解説の言い分はまあ……ごもっともではある。
それでも、シズホはまだ戦える。
シズホは諦めていない。
シズホは最後の手札を残している。
「あと一撃でも当たればお終いですわよ?」
「はい、あと一撃で、終わります」
「ハッキリと言いますわ。シズホさん貴女……立派にも程があります」
「えっ? は、はぁ……」
「プレイ歴数ヶ月、前代未聞の二次職で決勝トーナメント進出。偉業も偉業、この先、PvP大会イベントが開催される度に話草になるでしょうね」
「それは、どうもありがとうございます」
「貴女、ベアー様────『Spring*Bear』に憧れてらっしゃるんでしたね」
「はい。彼がこの場で戦っているのを観て、彼のようになりたいと思いました」
「故の回避会心構成、新しきを取り入れたがる性格、そして当然魔銃士になるためのクラス選び……事実、貴女と戦っていて幾度となくベアー様が重なって見えました」
そりゃ『|Spring*Bear』が武器提供したりいろいろ教えたりしてるしな。
「ですが!────ですが、決定的に足りていないものがあります。貴女では、何があってもベアー様に追い付けませんわ!」
「確かに……確かに! 彼をずっと傍で見てきたヤマダヤマさんからすれば、私なんて彼への憧れを語ることすら過ぎた事なのかもしれません! それでも私は追い掛けたいんです! 彼のようになれなくても、追い掛け努力したという過程がきっと……私を強くしてくれるはずだから!」
「それ以前に貴女、女の子ですわー!」
「……………………………………はい?」
おそらく、会場観戦客と中継視聴者のすべてが、シズホと同じ間を空けてから各々の表現で疑問を持っただろう。
かくいう俺も、ヤマダヤマの虚を衝くレスポンスに、一瞬頭が真っ白になった。
彼女が何を言っているのかがただシンプルに分からなくなった。
「ベアー様はオンリーワンのナンバーワンですのよ!? 世界で1番カッコ良いベアー様には何人たりとも追いつけたりはしませんの! 貴女ご存知? ベアー様はダッシュをすると長い黒髪が風に靡くんですのよ!? それがまたカッコ良いの何の……最早ベアー様が風そのものですわー!!!」
「は、はぁ……………………」
分かる、分かるぞぉシズホの気持ち。
もう何が何だかって感じだよな。
何だったら戦闘中以上の気迫と勢いすら感じるんだよ。
チャンスっちゃチャンスなんだが……ここで攻撃を仕掛けられるような胆力はいくら何でも無いか────。
「はっ! チャンスな気がする!────“機械人形”『天和』フォームチェンジ!」
シズホが装備している“機械人形”が更に変形し、手足に装着されていたパーツ達が自律飛行を始めた。
それらは光の粒子を溜め込んでおり────うん、ビームだこれ。
絶対ビーム出るやつだこれ!!!
「ネクロン、ビーム!?」
「ビーム!」
「ファ○ネル!?」
「ファ○ネル!」
「「うぉおおおおおおおおおおおおおお!!!」」
「アンタ達が分からないわ……」
画面内の“機械人形”『天和』の子機達が今か今かと主人のゴーサインを待っている。
未だヤマダヤマは…………『Spring*Bear』を語っていてシズホの動きに気付いていない。
さあチャージ十分、オールグリーン────。
「撃ェ────っ!!!」
────一斉掃射ッ!
紫光のビームがヤマダヤマを襲うッ!
「ちょっ、不意打ちは卑怯じゃありませんコト!?」
────ドガァアアアアアアアアアアアアアアアン!!!
『なんと直撃ィー!?』
“機械人形”による攻撃の威力が如何ほどのものかは知らねど、あれほどの物量ならばいくらヤマダヤマでも無事では済まなかろう。
HP残量比率が同等……とはならないだろうが、削りとしては文句なし!
『ステージ上は爆発による砂煙でよく見えませんが、ヤマダヤマ選手は無事なのかァー!?』
『絶体絶命っ! ぜ、絶体絶命っ!?』
実況解説でさえ戦況を確認できない。
現場カメラも砂煙のせいでヤマダヤマとシズホの姿を映せていない。
正しく戦況を見定められているのは、今戦っている2人のみである。
「てやぁッ!!!」
砂煙の中からヤマダヤマの掛け声が響くと、一瞬にして視界がクリアになった。
巨大な斧を振り抜き、砂煙を吹き飛ばしたのだ。
これぞフルシンクロVRシステムとも言うべき解決方法だな。
ただのMMORPGじゃこんなアクションはできまい。
「削れてるわっ!」
「あのヤマダヤマ様でも『天和』の電磁砲は効くんだっ!」
「それでも残り5割……それにもう不意打ちは通用しない」
シズホは攻撃の手を休まない、再度『天和』の子機達を周囲に展開する。
さっきは不意打ちだったから一方向からまとめて放ったが、今度はヤマダヤマの360度に囲うように展開、不意を打てないのなら回避不可能の攻撃を行えば良いというコトか。
「もう一度、撃ェ────っ!!!」
ドーム状の攻撃範囲がヤマダヤマに襲い掛かる!
ジャストガードはあくまで一方向からの攻撃をシャットアウトする事しかできない……これなら防げない!
…………とは、いかないのが重騎士というクラスなんだがな。
「【女神の守護盾】ッ!」
ヤマダヤマが叫ぶと、彼女をドーム状に護る聖なる光の壁が展開された。
【女神の守護盾】、重騎士が最硬のタンクと呼ばれる所以たるスキルだ。
5秒間、如何なる攻撃も完全に防ぎきる最堅の防御スキル。
このスキルの使用中は動けないだとか、クールタイムが長すぎて1度限りの切り札だとか欠点はあるものの……いや、強すぎてそんなの欠点にもならないんだけどさ。
「制限時間は残り僅か、もう大技を撃つだけの時間もありませんわ! 初心者相手に判定勝ちというのは少々情けないですが……わたくしの、勝ちですッ!!!」
“機械人形”『天和』が放つ紫光線がヤマダヤマの絶対防御スキルに阻まれる。
重い衝撃音と共に爆発が起き、またしても砂煙が舞ってしまった。
これでは更に攻めたいはずのシズホにとっては攻撃を阻む遮蔽となり、ヤマダヤマにとっては射線を打ち消すスモークボムとなる。
ヤマダヤマの宣言通り、シズホの敗北は必至か────。
────否。
シズホの勝ちだ。
『制限時間終了まで残り10秒! シズホ選手が弓を引き、砂煙の中を狙っているぞ!? まさか最後に運ゲーをするつもりなのかァー!?』
『足掻き、足掻き、足掻き抜いた者にこそ、英霊へと至る道が拓かれる……っ!』
そしてシズホは矢を放った。
ただの通常攻撃である。
その一射を最後に────。
────カンカンカァァァァァァン!
試合終了の合図が闘技場に響き渡った。




