34話 2033 Summer PvP Battle Tournament Ⅷ - 対策
『さてさて状況を整理しましょう! 序盤から攻めっ気を出していたシズホ選手ですが、ヤマダヤマ選手のスキル【威嚇】により隙を見せてしまい、あわや大惨事! かと思いきや、持ち込んでいた“機械人形”を使用し防御、空中へ脱出! 未だシズホ選手の優勢と言ったところでしょうか!』
実況の鞍馬マイクの言う通り、現状を誰の目が見てもシズホの優勢である。
が、それは現状だけを見た場合の判断だ。
ヤマダヤマをよく知る俺から言わせれば、この程度でヤマダヤマの決敗とは断じられない。
「【マジックシャワー】っ!」
「くぅ……っ!」
空中のシズホが魔弓士の範囲攻撃スキルを発動、地上のヤマダヤマはガードを固めて一時凌ぐのみ。
範囲攻撃は中心に寄れば寄るほど攻撃判定のペースが早くなり、ジャスガ連打の難易度も上がってしまう。
ヤマダヤマからジャスガを奪ってしまえば、ガードゲージを削ることができる。
ガードゲージは一定時間ガードを使わずに待つか、ガードゲージ回復のスキルを使う、あるいはジャスガを成功させることでゲージが回復する。
つまり、ヤマダヤマはシズホの攻撃をいなす為にはジャスガを続けねばならず、しかしそれが難しいからガードゲージを消費し、ゲージを保たせる為にはガードを使わずに通常移動で攻撃範囲から逃げるしかない。
その結果、ヤマダヤマは一切の攻め手を失ってしまい、やがて判定負けとなってしまう。
相手が並の重騎士ならこれで良かったのだろうが、しかし相手は最優・最重の騎士である、やはり経験値が違うのだ。
「勝った気でいるのでしょうが、こちとら最前線攻略組! 飛んでるモンスターの相手なら慣れてますわッ! ────【大閃光波】!」
「っ!?」
ヤマダヤマの使用スキル【大閃光波】。
自身の身体から閃光を放ち、範囲内の敵を一瞬だけ閃光デバフを与える。
閃光デバフを食らうだけでは相手の攻め手をほんの一瞬だけ止めることしかできないのだが、そこにとあるスキルを重ねると飛んでいる敵を墜落させられるのだ。
「【タウント】ッ!」
これぞ重騎士がタンク職たる所以とも言えるスキル【タウント】。
ターゲットロックオンしている対象に2秒間当て続けると、強制的に自分の方向へ引き寄せるスキルなのだが、これが飛行状態の相手に当たると、まず着地させてから陸路で引き寄せてしまうのだ。
この仕様を知っているかどうかで、タンク上級者かそれ未満かを分ける知識となる。
しかしこのスキル、2秒間当てねばならないという縛りがある為、PvPの場合生当てはほぼ無理だよ言っても良い。
だからこその【大閃光波】に重ねて確定させるという技術なのだ。
「ちょっとなんで降りちゃうのよ!?」
「あぁーマズいよ攻撃食らっちゃう!」
これに関しては、いくら情報収集を続けてきたシズホと言えどさすがにカバーしきれない範囲の知識だったらしい。
これがもし、魔銃士ではなく重騎士を目指していたのだとしたら仕入れられた知識だったのかもしれないと思うと……うーん、罪な男『Spring*Bear』。
『なんとー! シズホ選手、せっかくの有利状況を【大閃光波】【タウント】の確定コンボによって失ってしまったァー! そこにすかさずヤマダヤマ選手の巨斧が襲い掛かるゥゥゥー!!!』
『蝋で出来た翼はやがて溶け落ちる────っ!』
なんか『Darkness Darker』の解説(?)が何を言ってるか分かってきたな。
「これで逆転ですわーッ!」
「きゃぁあああああああ!!!」
ヤマダヤマの一撃がシズホにヒット、一瞬でHPを4割ほど削った。
これがヤマダヤマの強みである。
ほとんどの重騎士のような耐久タンクはVITに重く比重を置いた構成にするが、守りをジャスガに任せることでSTRに偏らせた構成が叶っているのだ。
「光の壁出ないの!?」
「装備状態だとアレ出せないんよね……」
複雑な気分だ。
今回装備提供してブランドの広告塔になってもらっているのはシズホだし、そりゃシズホに勝ってほしいのだが……5年前に初心者だった頃から育ててきたヤマダヤマがこうもしっかりと戦えている様を見ると、どうしても嬉しくなっちゃうな。
「ちょっとアンタ、何ニヤケてんのよ。シズホがピンチなのよ!?」
「すみません、ヤマダヤマが強いもんでつい……」
「2人の装備になんか対策できそうなADPついてないの!?」
「デバフ耐性はどうしても汎用性に劣るもの……」
「ぬあー! このままじゃ攻めるしかないじゃんかー!」
うーむ、どうしたものかな。
ヤマダヤマのHPはまだ8割も残っている、対してシズホのHPは残り6割。
残り時間は……3分を切ったか。
再度“機械人形”『天和』で空中へ逃げたとしても、【大閃光波】と【タウント】のコンボで引き寄せられてしまう。
一応【大閃光波】を食らわなければ良いという対処法──と呼べるかは怪しいが──はあるものの……さて、どうなることやら。
「まずは距離を取って……っ!」
「またそれですの!? もうその手は通用しませんわッ!」
またしても、ヤマダヤマが【大閃光波】のモーションに入る。
さて、シズホは気付いているだろうか。
俺が生産した武器に、PvP大会に持ち込むにはセオリーを無視しすぎているADPが仕込まれていることに。
俺はシズホに武器を提供すると決まった時に、もし決勝トーナメントに進出したらどうなるか、と考えた。
そこで俺は、ヤマダヤマピンポイント対策を仕込むことにしたのだ。
というのも、まず間違いなくヤマダヤマは決勝トーナメントに進出してくる。
トーナメントという形式上、1度負けたら敗退となるのだが、逆に言えば1度限りのビックリ対策技を通してしまえば良いのだ。
幸いにして、『Spring*Bear』リスペクトの回避会心構成と“機械人形”『天和』による安全圏からの一方的攻撃というスタイルが噛み合う可能性がある。
「【大閃光波】────【タウント】ッ!」
「…………っ!」
再度、先程と同じコンボでシズホは地面に引き戻されてしまう。
果たしてこれはわざとなのか、それともピンチから来る焦りの結果なのか……。
「また食らっちゃうわよ!?」
「もう何やってんだよシズホんー!?」
シズホはヤマダヤマに引き寄せられながら、苦し紛れの通常攻撃を放つ。
ヤマダヤマはその攻撃をガードも回避もせず、そのまま斧を構えて突進!
その瞬間、確かにカメラは捉えていた。
「────92、93、94」
シズホは圧倒的な窮地の中で、何らかの数字をカウントしていた。
それを見て、俺は確信した。
シズホは俺の仕込んだ対策に気付いた────いや、初めからそれの発動を視野に入れて戦っていたのだ。
「どりゃぁあああああああああ!!!」
ヤマダヤマの重撃が、細いシズホの身体を襲った。
グッとシズホのHPゲージが削れ、残り2割。
もうヤマダヤマの攻撃は受けられない、まさに背水の陣というワケだ。
「どうにかなれどうにかなれどうにかなれどうにかなれ……」
「うぅ、やっぱり最前線攻略組には勝てないのかしら……」
「らしくないですよ2人とも」
「なんでくまっちはそんなに余裕なんだよ!?」
何故と言われてもなぁ……。
俺はヤマダヤマピンポイント対策を仕込んだ、シズホはそれに気付いている。
それにヤマダヤマが気付かない限り、シズホは勝ちうる。
ただそれだけのコトなんだけどな。
「秘密兵器を持たせたのがネクロンだけじゃなかったってコトですよ」
俺は改めてモニターに視線を戻した。
ちょうどその時、シズホが「間に合った」と呟いたのだった。




