32話 2033 Summer PvP Battle Tournament Ⅵ - 初戦の相手
翌朝、会場に到着すると、そこらじゅうにパリナが居た。
「な、なんですかこれッ!?」
「ミロロが言ってただろう? 今日になったら分かるって。見ての通り、会場周辺のグルメ屋台はすべて『Party Foods』系列……つまりパリナのブランド一色だねっ!」
そう、そこら中にパリナの顔写真が使われた看板が立ち並んでおり、様々な種類のファストフードが販売されていた。
香ばしい香り、甘たるい香り、スウィーティーな南国の香りまで、屋台グルメと聞いて思いつくメニューのすべてが揃っていそうなほどに豊かなバリエーション。
「パリナちゃんはね〜、半年くらい前から公式から打診されていたみたいよ〜」
「はーぁ、流し満貫のあたし達とは雲泥の差だよ。昔は可愛い初心者だったあの子が……およよ」
「仕方ないわよ、パリナの作る料理はどれも絶品だもの」
「「「ただし成功品に限る!」」」
「で、でしょうね……」
俺は未だに、ミロルーティを卒倒させた悪魔のグラタンを忘れてはいないぞ。
「おっと、一緒に行けるのはここまでかな? ここから先は……」
「はい、ライバルですよね」
「ぶつかるまでは仲間よ、応援してるからね〜」
会場であるホルンフローレン闘技場に入ると、ムラマサ・ミロルーティの2人と別れて控室に向かう。
決勝トーナメント進出者は64名、なんとその全員に控室として個室が割り当てられているというなんとも豪勢な待遇となっている。
ただ会場がべらぼうに広いという訳ではなく、控室が独立エリアとなっているために見た目通りの広さである必要が無いのだ。
俺達チーム流し満貫の生産職組は、シズホの控室に向かった。
「あっ、おはようございます皆さん」
「おはようシズホ、調子はどう?」
「ごめんねー、主役のシズホんを差し置いての重役出勤で」
「まあ、これでも早い方だと思うけどな。シズホさんはどれくらい前に到着してたんですか?」
「私もついさっき到着したところです。初めてなので控室の場所が分からなくて……運営の方に案内してもらって、ちょっと恥ずかしかったです」
ふむ、シズホの様子を見る限りリラックスできているみたいだな。
初のエントリーで決勝進出なんていう快挙なのに緊張の色を見せないとは、案外メンタルは強いタイプなのかもしれないな。
「トーナメント表の発表は……もうすぐか」
「実は私、決勝進出者の中から上位有力候補をリストアップしてきたんです」
「へえ、殊勝ね。見せて見せて」
シズホがメモを開き、俺達にも見えるように拡大してくれた。
…………はぁ~、どれもこれも知ってる名前だこりゃ。
グラ助やヤマ子はもちろんのこと、“メタ読み”のドリグバに“幸運厨”のアサコーと、『Spring*Bear』が苦戦してきた相手が尽くリストに名を連ねている。
以前までは『Spring*Bear』、『GrandSamurai』、『ヤマダヤマ』、そして『アサコー』が4強と呼ばれていた。
そこから『Spring*Bear』が抜けて『ドリグバ』が入り、現4強と言ったところか。
ちゃんとそいつらに目を付けているとは、良い考察だな。
「ふーん、アタシでも知ってる名前がチラホラあるわね」
「アリアって結構戦闘職方面の知識もあるよね。だめだわ、あたし『GrandSamurai』とヤマダヤマ様しか分かんないや」
「シズホさん的に特に危険視してるのって誰とかあります?」
「特に、ですか……相性の関係でやはり、『ヤマダヤマ』さんは怖いですね。ただでさえ守りの堅い相手は不利ですし、その上彼女はジャスガ型構成が有名ですから」
ふむふむ、それも正解。
基本的に遠距離職、特に弓や銃は重騎士に弱い。
手数が技量に依存する得物だから、どうしてもジャスガでいなされやすいのだ。
魔弓士な分、魔法攻撃になるから当たりさえすればダメージは通るのが不幸中の幸いと言ったところか。
ちなみに重騎士の崩し方としては、連撃を与えてジャスガする余裕を与えず、ガードを固めさせてガードゲージを消費させることである。
このゲームではガードができるクラスにはガードゲージという特有ゲージがあり、これがゼロになってしまうと一定時間ガードができなくなる。
だからスピードと連撃が武器の、グラ助を代表とするワノブジンのようなクラスが重騎士に対するアンチクラスとなる、というのが戦闘職界隈での通説である。
「あ、そうだ。シズホんさ、予選でアレって使った?」
「どうしても危なくなったら使えって言ってたアレですよね。幸い、一度も使わずに済みました」
「おー、それはラッキーかも」
「アレって何ですか?」
「いやいやくまっち、あたしがアイテム担当なんだからさ、そこは何となく察してよ」
「なになに、アタシも知りたいんだけど」
「アリアもわかんないの? まあ言っちゃっても良いんだけど……シズホんどうする?」
「ここは秘密にしておきましょう。敵を騙すならまずは味方から、です」
なに、俺達騙されようとしてんの?
「あっ、トーナメント表が出たみたいです」
「4強は反対側に居てくれ……ッ!」
「シズホんシズホんシズホんは……ぎゃあっ!」
「ちょっとネクロンどうしたの!?」
「な、なんてこったぁ……」
ネクロンが指差すところにシズホの名があり、その隣────つまりトーナメント初戦の対戦相手欄には…………。
『ヤマダヤマ』
考え得る限り、最悪の対戦カードが記されていた。
「これ一番ダメって言ってたやつよねっ!? よりにもよって初戦で当たるのっ!?」
「落ち着けおち落ち着けおおおちつ落ち着けけけ、まだ勝ったと決まったわけでは……」
「あの、くまさんさん……そこは逆かと」
「…………いやぁ、心苦しいね」
「心苦しいって、愛する『ヤマダヤマ』を相手に苦しい戦いを強いられることがか?」
「まさか、逆だよくまっち」
「逆?」
「ヤマダヤマ様を────ボコしちゃうことがさ」
ヤマ子をボコす!?
このネクロンとかいう女、自分が戦う訳じゃないからって無茶苦茶言ってないか!?
さっきも言った通り、魔弓士のシズホは重騎士のヤマ子に相性不利、そこにプレイ歴から生まれるプレイヤースキルの差まであるのだから相当難しい戦いになるんだぞ!?
「シズホん、早速アレを解禁だー!」
「わ、わかりました!」
「だから何なのそのアレってのはーっ!?」
「もうなんも分からん、後はネクロンとシズホさんを信じることしか俺にはできないんだ……」
俺とアリアが絶望の淵に叩き落とされた中、どういうワケかネクロンとシズホは自信満々であった。
ああ、お願いします女神ホルンフィア……どうか俺のこの不安を吹き飛ばすような、そんな秘密兵器をネクロンが託していますように。




