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31話 2033 Summer PvP Battle Tournament Ⅴ - 験担ぎ

 大会当日、俺達チーム流し満貫の生産職組はクランハウスで待機していた。


 大会の日程は、初日に予選が行われ2日目に決勝トーナメントが行われる。


 ゲーム内やインターネットでの中継が入るのは2日目の決勝トーナメントからであり、初日は案外ひっそりと進行する。


 つまりブランドの広告効果があるのは決勝トーナメントに進んだ64人に装備を提供している生産職のみ。


 予選のエントリー人数は例年波はあるも、平均して2~3万人は居る。


 尋常ではない、狭き門である。



「あー落ち着かんし! シズホん大丈夫だよね勝てるよね!?」


「大丈夫……とは断言できないけど、ここまで来たら俺達にできるのは祈ることだけだ」


「……………………速報出たわっ!」



 アリアがメニュータブから開いている公式のお知らせ、そこにはたった今更新されたばかりの決勝トーナメント進出者の一覧があった。



「何順!? これ何順なのくまっち!?」


「エントリー順だ! シズホは遅かったから多分後ろの方!」


「シズホシズホシズホシズホシズホ…………」



 ────ピンポーンっ。



「俺出てきますんで探しといてください!」



 急いで玄関へ、時間的にシズホの帰還か?


 ドアを開くと────。



「ちわーっス! 予選1位突破でーっス!」


「ごめんなさい、ウチのグラ助が礼儀知らずで。お邪魔いたしますわ」


「たっだいまーっ!」


「うふふっ、賑やかでしょ〜?」


「フン……」


「あ、あわ、あわわ、くまっ、くまくまさくまさぁん……」



 なんかすごい集団が居た。


 グラ助にヤマ子、ムラマサ、ミロルーティ、そして何とLionel.incまで居り、そんなレジェンド達に囲まれたシズホは緊張でおかしくなってしまっている。


 とりあえず皆をリビングまで通す。



「やっやまやまやま、ヤマダヤマ様ぁ!?」


「ネクロンさん! 先日はフレンド申請いただき誠にありがとうございました! コンペティションにもご参加していただけたと聞いております。今後とも何卒、よろしくお願いいたしますわ」


「こっこち、こちらこそ、末永くよろしくお願いします……」


「ふふっ、まるでプロポーズみたいですわね」



 もうやめて、ネクロンのライフはゼロよ!



「あ、えっと、ご無沙汰してます」


「…………くまさんか」


「はい。『GrandSamurai』さん、予選トップだったとか。おめでとうございます、流石ですね」


「当然だ。俺とムラマサとミロルーティが組み、現最強戦闘職に装備を提供するのだからな」


「掲示板とか見てもやっぱり優勝最有力候補だって言ってました」


「フン、事前評価など何の意味も無い。……そう、だからこそ俺はお前に、言葉をひとつ掛けねばなるまいな」


「何でしょうか?」


「────()()は、お前には負けん」


「…………はい?」



 瞬時に、彼の言葉の意味を理解できなかった。


 しかし数秒の間を置き、ようやくその意味が分かった。



「あっ、あああ! あああっああああっ!!? ありがとうございます失礼します!」



 俺は急いでアリアとネクロン、そしてシズホを探した。


 アリアはグラ助にナンパされていたから引き剥がし、ネクロンはヤマ子と話していたから放置しておいた。


 で、一番大事なシズホはというと────。



「ほぁ……………………」



 部屋の隅っこで放心状態だった。



「シズホさん、シズホさん! 結果! どれくらい勝ったんですか!?」


「…………はっ! あっ、くまさんさん! 勝ち越し数ですね。12-3で勝ち越し9です」


「っしゃア!」


「えっなにくまさん、結果見るわよ!?」


「ああ! でも多分抜けてる! 例年予選抜けのボーダーは大体11-4あたりだから、絶対抜けてる!!!」





 決勝トーナメント進出者

 .

 .

 .

 .

 .

 No.27420 シズホ





「うおおおおおおおおお!!! ほら見ろ抜けてる!!! プレイ歴半年未満初エントリーで決勝トーナメント進出!!! これもう広告効果で言ったら俺たちの大勝ちですよアリアさん!!!」


「そうよねそうよねっ!? ありがとうシズホさんアナタもしかして天才っ!?」


「ありがとうございます。それもこれも、皆さんのおかげです。本当にありがとうございます」



 それからひとしきり喜びあった後、ムラマサに報告に向かった。


 ムラマサもミロルーティも、我が事のように喜んでくれた。


 俺がシズホに「プレイ歴半年未満で決勝トーナメント進出」を快挙だと称えたように、ムラマサ達からすれば俺もまた同じだったのだ。


 生産職始めて3ヶ月、初心者の戦闘職ユーザーをPvP大会の決勝トーナメントに送り出せた。


 ムラマサ達から褒められたからってのもあるけど、これは自信になる。


 ただひとつ物足りなさがあるとしたら、装備一式ではなく武器しか提供していないことだが、この際それは良しとしよう。


 今の俺はまだ鍛冶士しかクラスを持っていないのだから。


 いずれはLionel.incのように、すべての生産職クラスを極めてみせる。


 その時はきっと、シズホの専属生産者として決勝トーナメント進出────いや、優勝の立役者となるのだ。



「そういえば気になってたことがあって。ここ数日パリナさんの姿を見てないんですけど、リアルが忙しいとかですかね?」


「ああー、パリナはね……リアルじゃなくて()()()で相当忙しいみたいだよ」


「うふふっ、明日には理由が分かると思うわよ〜」


「ふむ、なんでしょう……」



 はて、料理士のパリナが今忙しい理由とは……。


 まさか複数の戦闘職ユーザーから消費アイテム枠での提供オファーが殺到しているとか?


 そうなると決勝トーナメントで彼女がライバルとして立ちはだかるかもしれないな。


 ムラマサ達だけでも脅威なのにパリナまでライバルとなると、こりゃ決勝トーナメントを勝ち上がるのは一筋縄ではいかなそうだな。


 今日は明日の為に英気を養おう、というムラマサの提案から、早い時間に解散となった。


 いよいよ明日、俺達にとって今後のキャリアを左右する戦いが始まる。


 生産職の俺にできる事はもう無いけれど、シズホが勝てるよう祈っておこう。


 俺はログアウトしてから、夕飯にカツ丼を食べ、早めに床に就いたのだった。




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