30話 2033 Summer PvP Battle Tournament Ⅳ - 英雄の影
「まずはモンスター狩りの様子を見せてください」
俺とシズホ、アリアとネクロンの4人はマップに出た。
まずはどのような構成の装備にするかを決めねばならず、今のシズホがどのようなスタイルで戦っているのかを知る為である。
「……っと、隙アリです!」
「ふむ」
「くまっちは戦闘職には詳しいんだっけ」
「多分他のMMOをやってたとかじゃないかしら」
正しくは「このゲームでトップ戦闘職だった」のだが、お口チャックで。
「それで言ったらアリアさんも経験者じゃないですか?」
「まあね。VRでさえない古のゲームだけど」
「なるほー。そんな2人から見てシズホんは如何ですか、可能性ありそうですか」
「PvEとPvPはまた別だからな。可能性云々は一旦置いとくとして……上手いよな」
そう、普通に上手いのである。
数ヶ月前は雑魚モンスターに苦戦してたような子が、今やノーダメは当然のこと、射撃の精度も上がっているどころか的確に弱点を突けている。
偏に弱点を突くと言っても、モンスターの系統ごとに弱点部位は違ってくる。
今や膨大な数居るモンスターの弱点を覚え、そこを貫く。
これは知識とプレイ時間の積み重ねから来るプレイヤースキルが伴わなければ、身に付かないだろう。
「シズホさんって『Spring*Bear』の動きに似てると思わない? アタシ、結構過去大会の動画観てるんだけど……そんな感じするのよね?」
「分かります。多分相当に研究して参考にしてるんでしょうね」
「あたしはよく知らないからアレだけど……じゃあさ、スプベアの構成参考にすれば良いんじゃない? それなら戦闘スタイルを矯正してもらう必要も無さそうだし」
ひとまずの方針、大雑把な方向性が決まったので、またクランハウスに戻った。
「ええ、こちらといたしましては、『Spring*Bear』の構成をパク────ンンン゛! リスペクトしようと思うのですが、シズホさん的にはどうです?」
「わ、私のような初心者が『Spring*Bear』さんの構成を……それは些か、不敬に当たりませんか?」
不敬って……『Spring*Bear』を何だと思ってんだ。
「大丈夫じゃない? シズホさん、自分が思ってるより相当上手いわよ」
「わかる。フツーにあたしより上手い」
「俺もそう思います。なので自信を持って良いと思いますよ。多分ですけど……予選15戦は勝ち越しできるくらいの実力はあるんじゃないかな」
「そう、でしょうか……あの、『Spring*Bear』さんをパク────こほん。リスペクトと言いますと、回避と会心構成ですよね?」
そう、『Spring*Bear』はDEX重視の回避会心構成だった。
魔銃士の特徴として、DEXの伸びが高く耐久方面が貧弱というものがある。
故に特長であるDEXを最大限生かした構成がすなわち、回避会心構成だったのだ。
「いくらなんでも初期クラスだとキツいっしょ。二次職のワイルドアーチャーか魔弓士くらいには進めといてもらう?」
「そうだな。シズホさん的にはやっぱり────」
「────無論、魔弓士です!」
だろうな。
『Spring*Bear』のクラスは魔銃士、魔弓士から進められる三次職だ。
ちなみに、ワイルドアーチャーか魔弓士かという分岐は、物理攻撃か魔法攻撃かという違いがある。
これは経験者ゆえの贔屓目もあるだろうが、魔弓士の方が使い勝手が良いと俺は思う。
魔法攻撃の特性上、武器そのものの属性とは関係なく、スキルによって属性の切り替えができる。
だから相手の属性耐性に対応しやすいのは魔弓士、ということになるのだ。
「じゃあMPとかINTあたりを底上げしたいね」
「そうだな……INTよりはDEX優先かもしれないな。会心を量産できるならそれだけで火力は伸ばせるし。それより根本的な話なんだが、魔弓士の防具なら、鍛冶士じゃなくて裁縫士が作ることになるし、ネクロンは機械武器とアイテムを作りたいんだよな。もしかして俺の仕事無い?」
「それはダメです!」
「だ、だめ……?」
「はい。私はくまさんさんの装備で挑みたいんです。せめて武器だけでも、くまさんさんに作っていただきたいです」
「わーお、くまっち愛されてんね。じゃ、あたしはアイテムの方に集中するよ。ヤマダヤマ様のコンペで出したやつ、まだまだまだまだ改良の余地ありだし」
「いいわ、アタシが防具一式ってことね。任せて、性能だけじゃなくてデザインも手を抜くつもりは無いからっ!」
「なら俺は、今作れる最高の武器をお渡しすると約束します」
「はい、よろしくお願いいたします」
シズホが深々と頭を下げてきた。
その対象は俺だけではなく、俺達3人に向けてだ。
一旦の休憩を挟み、会議を再開。
方針が決まれば、後はどんなADPを付与するかという話なのだが、これはサクサク進んだ。
やはり『Spring*Bear』という見本があると決めやすい、ありがとう『Spring*Bear』。
「ふぅ……こんなモンですかね」
「良い感じじゃないかしら。あとは本番までにアタシ達が間に合わせるだけね」
「あー、シズホんシズホん、ちょっと後日個人的に打ち合わせしたいからフレンド送って良い?」
「は、はい、もちろんです!」
「じゃあアタシも!」
「わぁ……どんどんフレンドが増えていく……」
うんうん、こうして先輩が後輩を手助けし、いずれその恩を次なる後輩に繋げていく。
これもMMORPGの良さだよなぁ……。
やさしい光景に思わず笑みを零しながら、俺はソファーの背もたれに体重を預けた。
* * *
『さあいよいよ幕を上げます、『2033 Summer PvP Battle Tournament』ォ! あのキングオブヒーロー『Spring*Bear』の不参加が報され、開幕前から大波乱の今大会ですが、次なる栄冠は誰の手に渡るのかァー! 実況は今大会もこのワタシ、E-SportsキャスターVTuber・鞍馬マイクがお届けいたします!』
ある者は人気のない裏通りで、ある者は仲間と共にクランハウスで、そしてある者はホルンフローレンの酒場で酒を飲みながら、『2033 Summer PvP Battle Tournament』のスタートを待ち望んでいる。
「いやぁ、まさかあの『Lionel.inc』と一緒に仕事ができるとは思わなかったよっ!」
「なんだか同窓会みたいで楽しかったわ~」
「俺もマジで光栄っスよ! こりゃ何としても勝たなくちゃな~!」
「勝てるに決まっている。『Spring*Bear』の居ない今、繰り上がりで最強となったお前に、最強の生産職が手を貸したのだからな」
「ちょっと聞いたミロロっ!? あの『Lionel.inc』が人を褒めてるんだけどっ!」
「うふふっ、光栄だわ~。だけど、絶対に勝てるとは決まったワケじゃないわ~」
「『ヤマダヤマ』の対策は万全だろう、優勝以外ありえない」
「あははっ! こりゃウチのクランメンバーを相当舐めてるみたいだねぇ……」
「ムラマっさんのとこの人、誰かに装備提供してるんスか?」
「ああ、そうみたいだよ。無名の子を捕まえたみたいだけど……自信はあるみたいだったよ?」
「お前のところの……フン、決勝トーナメントに上がってきたならば意識してやっても良い」
「うんうんっ、来る来る絶対来るよっ! ────そうじゃないと、彼はキミに勝てないだろうしね」
「…………『くまさん』か。時間だ、集中しろ『GrandSamurai』」
────そして、戦いの幕が上がる。




