29話 2033 Summer PvP Battle Tournament Ⅲ - 流し満貫
「とても良い装備ですわ、本当にありがとうございます」
俺とネクロンは、ホルンフローレン青空劇場の壇上を眺めながら、悔しさに言葉を失っていた。
クランハウスに戻ってからも互いにかける言葉を見つけられず、沈黙が続く。
そんな沈黙を破ってくれたのは、先にクランハウスで待っていたアリアだった。
「その様子、ダメだったみたいね」
「まあ、はい」
「くまっちの防具は良かった。あたしのがちょっと……攻めすぎてた」
コンペで選ばれたのは、ジャスガ型重騎士のテンプレート的な構成の装備だった。
俺が作った防具はそれに近かったが、ネクロンが作った武器と消費アイテムは、テンプレートを敢えて外した役割破壊──ジャスガ型に強い構成へのカウンター的なワンポイントを刺す対人戦前提の構成──と呼ばれる構成だった為、そこの差で選ばれなかったのだろう。
事実、ヤマ子はこれまでの大会でもトップ4常連で、意識すべきライバルは何と言ってもグラ助だ。
グラ助のメインクラスであるワノブジンはAGIが非常に高いクラスなのだが、攻撃手段のすべてが物理攻撃である。
であれば重騎士はとことんまで防御に振り切り、受けきって勝つのが基本戦術となる。
だからネクロンの秘密兵器よりも、基本型構成が選ばれたのである。
ネクロンの名誉の為に補足しておくが、仮想敵がグラ助でなければ絶対に俺達が選ばれていた。
これは身内贔屓ではなく、元最強戦闘職の視点から見た評価である。
更にもう1点敗因を挙げるとしたら、つい最近実装された機械武器をヤマ子が使い慣れていないから、ぶっつけで実戦に持ち込みたくなかったというのもあっただろう。
故に、最前線で5年も戦ってきたヤマ子だからという長所が却って俺達にとってはデメリットになってしまったという不運の敗北と言えるだろう。
提供先がプレイ歴が短くまだプレイスタイルが固まりきっていない戦闘職だったらあるいは────いや止そう、負けは負けなのだから。
「切り替えていきましょ、アタシもまたダメだったし」
「あれですっけ、NPCのお姫様に着せるっていう。どんな人のが選ばれたんですか?」
「ミカリヤよ」
「アイツそんなに凄い奴だったんですか!?」
「凄いわよ。ブランドの売り上げはアタシより上だし」
普段がマトモかどうかと生産職としての実力は比例しないんだな……。
「あ、そういえばそろそろくまさんにお客さんが来るから」
「お客さんですか?」
「大会に向けた装備生産の逆オファーだったりして」
「まさか、有り得ないだろ。ムラマサ先輩や『Lionel.inc』みたいなベテランじゃなきゃ来ないだろ」
話していると丁度、クランハウスのチャイムが鳴った。
俺への客なのだから、俺が出迎えることにした。
「お久しぶりです、くまさんさん」
「シズホさんッ!?」
俺への客というのがまさかシズホだったとは。
いや、知り合いの少ない俺を訪ねてくる相手なんて限られてくる訳で、予想はできたか……。
「とりあえず入ってください、とっておきの飲み物がありますんで」
「ありがとうございます、失礼いたします」
シズホをリビングに通し、冷蔵庫から“レッディサワー(ノンアルコール)”を取り出し提供する。
その隙に、いつの間にかアリアとネクロンはどこへやら消えており、リビングには俺とシズホの二人きりになっていた。
「あっ……美味しいです。これってもしかして、あの料理士の方が作ったんですか?」
「そうですそうです。マーケットでも販売してますし、気に入ったら買ってみてください」
「マーケット……まだちょっと怖くて、使ったことないんですよね」
「便利ですよ。……あっ、結構クラスレベルも上がってますね、もうすぐ二次職じゃないですか。装備更新の時とかとりあえずマーケットで買っちゃうの、結構おすすめですよ」
「なるほど……メモしなくちゃ」
シズホはメニュータブからフリーメモを開き、俺の言葉を律義にメモに取った。
メモの詳細までは読み取れなかったけど、かなりの文量が記されているようだ。
「それで、今日はどういった用事ですか?」
「あっ、はい! あの、大会イベントの開催が近いじゃないですか。それについてのご相談を、と」
「おー! エントリーするんですか?」
「いえ、まだ決められていなくて。エントリーするかどうか、まずはそこからご意見をいただければと思いまして」
「ふむ、なるほど。不安ですもんね、始めたてってのもあって」
「そうなんです……。『Spring*Bear』さんはどうしていたんでしょう? やはり始めたての頃から積極的に参加されていたのでしょうか?」
「彼が始めたての頃はすべてのユーザーが始めたてでしたからね。あまり参考にはならないと思います。ただ、彼の後輩の『GrandSamurai』や『ヤマダヤマ』の初参加時のレベルはシズホさんよりも下でしたよ」
「お名前知ってます! 確か準優勝やベスト4常連の戦闘職の方ですよね。ワノブジンと重騎士の」
「詳しいですね」
「やはりプレイヤースキルで劣る私ですから、情報収集は誰よりも頑張っているつもりです」
その結果がさっきのメモか。
MMORPGで成長を早める公式──プレイ時間×座学──に即した素晴らしい心掛けだと言えるだろう。
「それで、その……くまさんさんは、もうどなたかに装備を提供するお約束とかはされていらっしゃるのでしょうか?」
「あぁ、それなんですけどね……ついさっきコンペに負けたばかりなんですよ」
「コンペ……ああ! 有名な戦闘職ユーザーの方が開くという」
「そうですそうです。それこそさっき話に挙がった『ヤマダヤマ』のコンペだったんですけどね」
「じゃあ装備提供の予定はまだ無いということなんですね!?」
「はい、絶賛暇です」
「じゃあエントリーします! それで、できたらくまさんさんに装備を作っていただけるとありがたいのですが……」
いや正直なところ、シズホが訪ねてきた時から期待していなかったと言えば嘘になる。
しかし本当にそうなってくれるとは……捨てる神あれば拾う神あり、だな。
「こちらこそ是非、提供させてください。何てったって、俺の初めての人ですから」
「はじっ……!」
何故か赤面するシズホ、いつの間にか廊下から頭だけ覗かせてニヤついているアリアとネクロン、何だこの状況は。
「あの、装備提供についてひとつ提案なんですけど」
「はい、なんでしょうか。いくら情報収集を頑張っているとはいえ初心者ですから、いろんな意見が欲しいです」
「あっちの2人も参加させても良いですか?」
「「アタシ?」」
「暇なんですよ、俺と同じで」
「むしろ良いんですか? 私のような、その……表彰台《ベスト4》どころか決勝トーナメント進出すらできないだろう戦闘職に装備提供しても……」
ああ、シズホ……言っちゃったな、俺達にとって禁句となっているその言葉を。
だけどその失言のおかげで、あの2人も火が付いたに違いない。
「シズホさん、「できない」なんて自分の可能性を自ら狭める呪いよ」
「そーそー、初心者だからって勝てないとは限らない。というか、初心者のジャイアントキリングを手助けした生産者とか絶対に話題になるし」
「で、では……!」
「もちろん、全力で手伝わせて?」
「ふふふ……やろうよやろうよ、チーム流し満貫の結成っしょ!」
流し満貫ってのは麻雀の役で、捨てた牌で成立する特殊役なんだが……まさにコンペと公式コンテストに負けた俺達にピッタリのチーム名だな。
「では何卒、よろしくお願いいたします!」
かくして、終わったかと思われた俺の『2033 Summer PvP Battle Tournament』がリスタートを切った。
このチームが大会を荒らしに荒らす事になるのだが、そのことをどのユーザーも、当事者たる俺達ですら、まだ知らなかった。




