26話 電気技士ネクロンの恋煩い
サイジェン島での採取合宿を終えた『クラフターズメイト』は、クランハウスで駄弁ったり麻雀をしたり、たまに生産をしたりして日々を過ごしていた。
俺はその緩い空気感に流されてはならない、もっと生産職として成長せねばと思っていたが、気付けば俺もゆるゆるになっていた。
「はぁ…………」
「ネクロンさんのツモ番ですよぉ……?」
「あっ、ごめん……」
それにしても最近、ネクロンの様子がおかしい。
常にボーッとしているというか、心ここに在らず状態というか。
「なんかあったのか?」
「な、なにが……?」
「だって様子おかしいだろ」
「確かにそうよね。この間の合宿終わってからじゃない?」
俺の指摘にアリアが便乗、パリナが「うんうん……!」と頷いている。
「何か悩み事でもあるの? もしそうならアタシ相談に乗るわよ」
「もちっ、もちろん私もご協力しますぅ!」
「まあ、悩みってほどのモンでもないけど……」
「悩んでるやつだろ。好きな人でも出来たか?」
「んなっ!!!!! そそそんなワケないってぇ! あたしそういうキャラじゃないじゃんやめてよー…………」
えっ、コレ、マジのやつでは?
マジのマジで好きな人出来てて図星って反応だろ。
「へえ、いつもクール(?)なネクロンがなあ……で、それってどんな相手なんだ?」
「はぁ!? だからそんなんじゃないっつってんじゃん!」
「いーやこれは恋ね、二次元恋愛マスターのアタシには分かるわ。その瞳はまさに、恋する乙女の瞳よっ!」
「アバター設定なんでそこは別に変らないんじゃぁ……?」
「というか"二次元恋愛マスター"役に立つんですか……?」
「ここも現実じゃないんだからエロ────じゃない、ギャルゲーと一緒よっ!」
それはさすがに暴論だろ……。
「ネクロンさん……そのドラの南で振り込んじゃうのと、おとなしくゲロっちゃうの、どっちがいいですかぁ!?」
「うそー!? ぶっちゃけ……高い?」
「おっとぉ、うっかり手牌がぁ!」
「見えただけでも親満貫確定してたんですけど……はいはい分かりました、話しますよー」
パリナのどデカい直撃に恐れて観念したか。
別に金をかけてる対局でもなし、秘密を明かすより点棒ブチ撒ける方がマシな気がするんだけどな。
とはいえそこはネクロンという雀士のこだわりというか、ある種の意地なのだろう。
だからここは大人しく、ニヤけを隠しながら、ネクロンの好きな人とやらを聞いてしまおうじゃないか。
「まあーえっと……何から話せばいいかな…………」
「アタシ達が会ったコトある人?」
「うん、会ったコトある人……だね」
「わぁ……わぁ…………」
「さすがにくまさんってコトは無いだろうし……」
「そりゃね、さすがにね」
「くまさんさん、元気出してくださいぃ…………」
こういうのはね、フォローされた方が心の傷が深くなるんだよ。
「くまさんも知ってる人なのよね? そうなると結構絞られそう……」
「『Initiater』の人ですかぁ?」
「ないわー」
「じゃあまさか……あれ、アイツの名前なんだっけ。あの……最初に出会うNPCの男の……」
まだ歳を理由に物忘れが激しい自分を許容したくはないんだけどな……。
「バングルだっけ、懐かしいわね」
「いくらなんでもNPCを好きになったりはしないし」
「まさか『Lionel.inc』ですかぁ!?」
「くまっちは会ったコト無いっしょ」
「ん? あるぞ。サイジェン島の『Spring*Bear』の豪邸見に行った時にばったり」
「へー、そりゃまた奇遇な。あっ、ちなみに違うからね」
それも違うとなると後は…………。
あぁ、なるほど……。
「『The Knights古参の会』ってことか。いやなるほど、助けてもらったもんな」
「っ…………まあ、そう、っすね…………はい」
「うわ~~~~納得ね……ピンチを救ってくれた白馬の王子様にきゅんと来ちゃったのねっ! 何よそれ尊すぎじゃないっ!?」
ってことはどんぐりかグラ助か。
どんぐりなら良いと思う、アイツは社交性も高けりゃ男にも女にも優しい。
対してグラ助は……オススメできないな。
別に悪い奴ではないんだが、というか普通にスッゴク良い奴なんだが……女性ファンが怖いんだよな。
個人チャットに突撃してくるだけならまだ優しい方で、グラ助に近寄る女を、徒党を組んで運営にバッドマナーユーザーだと虚偽の報告をするとかいうテロリスト紛いも居るのだ。
それをグラ助は知らない。
だからグラ助本人がファンに注意をするコトも無いから、厄介ファンを取り締まる術が無いのだ。
「ちなみに若い方? 歳上の方?」
「…………まあ、若いかな」
俺は頭を抱えながら中を切った。
「それポン。若い方ね、確かにカッコよくはあったわよね。アタシはちょっと苦手なタイプだったけど」
「まあそうかもね。ちょっとミカリヤと似てる雰囲気もあるしね」
「に、似てたかしら……?」
怪しいラインだが、まあ分からないでもないな。
グラ助もミカリヤも、どちらもアクティブなタイプだもんな。
「こんなコトを言うのはなんだが、止めといた方が良いと思うぞ」
「そうだよなー……相手は最前線攻略組のエースパーティーだしなー……」
「たしかにぃ……ファンも多そうですぅ…………あっ、ツモです」
けっ、ダマテンの七対子かよ。
しかも待ちが役の付かない字牌と来た。
まっ、直撃食らわなかっただけ良しとしよう。
「それでそれでぇ? 告白とかしちゃうんですかぁ?」
「いや絶対無理だから! 困らせちゃうだけだし……」
「本人は別に困らないと思うぞ。ファンが怖いだけであって」
「アンタ妙に詳しいわね。もしかしてアンタもファンなの?」
「えッ!? ま、まあそんなトコロかな……ハハッ」
ヤバい、なんか色々とゆるゆるになっちまってるぞ俺。
もっと気を引き締めねば……。
「じゃあじゃあ、この対局でネクロンがラスだったら、告白とは言わなくともフレンド申請を送るってのはどう? アタシとしてはやっぱり、身内には幸せを掴んでほしいわ……」
「そっか、一時的にパーティー組んだんだもんな。それなら向こうがオフライン状態でもフレンド申請が送れる」
「えぇー……迷惑じゃない? あたしみたいな戦闘ろくにできない生産職とフレンドになってくれるとも思えないし……」
「いえ逆にですよ逆にぃ! 戦闘職にはできない、生産職だからこそのサポートができるじゃないですかぁ!」
「それはあるんじゃないか? 『Neck-rune』の電気系アイテムは一級品だろ。だったら必要としてくれる日が来るかもしれないぞ」
「来るかなぁ…………」
「良いじゃない、あくまでラスになっちゃったらって条件だし」
「そっ、そうだよね! 言うて南2局で2着だし……」
その時、パリナから無言のままに熱い視線が送られていることに気付いた。
なるほど、やるんだな?
俺が微かに頷くと、途端にパリナの目の色が変わった。
「リーチぃ! ネクロンさん以外は見逃しますぅ!!!」
「続くぜそのドラ白をポンッ!」
「んなっ、なんでそんなコトするんだよー!?」
結局、俺とパリナのチームワークにより見事ネクロンをラスに叩き落とすことに成功した。
前言通り、俺達の目の前で、想い人たるグラ助にフレンド申請と一言メッセージを送らせることになった。
「はぁ…………えっと、『拝啓、ヤマダヤマ様』…………」
「「「えっ?」」」
「え、なに?」
「ネクロンの好きな相手って『GrandSamurai』じゃないのか……?」
「アタシもてっきりそっちかと……」
「はっ! そういえばネクロンさん、ミカリヤさんとその人は似てるってぇ……言われてみれば言葉遣いが似てるかもしれませんねぇ!」
「送ったよ……ってうわっ、今オンラインだったんだけど! ってうわぁあああああああああああフレンド承認されちゃったぁあああああああああ!!!」
かくして、俺達の小さな小さな勘違いは、ネクロンにとっては最高の形で幕を閉じた。
相手が女性とは驚いたが、よくよく考えてみれば、どう考えてもヤマ子の方が優良物件だと思った。
ヤマ子の方が如何な趣味かは俺も分からんが、ネクロンの恋が成就することを祈ろう。
ただ、『Spring*Bear』を含む三角関係になってしまっていることは……ネクロンにとっては酷な話かもしれないな。
* * *
「ふぅ、つっかれたぁ。ミロロ肩揉んでっ!」
「はいはい、お疲れ様ムラマサ~」
「それにしてもまさかまさか、まさかのオファーだよね」
「そうね~、鍛冶士は分かるけど、まさか錬金術士のわたしにまでオファーが来るとは思わなかったわ~」
「でもこれはチャンスだ、ボク達のブランドを更に多くの人に知ってもらうため、そして『クラフターズメイト』を世に知らしめるため……頑張ろうね、ミロロっ!」
「もちろんよ~! でも、もしかしたらクランの皆とライバルになっちゃう可能性もあるわよね~」
「それはそれで面白いでしょっ! もしそうなって、皆まとめて決勝トーナメントまで上がってこれたら……それこそ『クラフターズメイト』の大勝利っ! ってね!」
「うふふっ、それもそうね~」
くまさん達がクランハウスで遊んでいる頃、ムラマサとミロルーティの2人は、今後の生産職界隈────そして戦闘職界隈にすら大きな波紋を及ばせる、とある打ち合わせに呼ばれていた。
仲良しごっこはもうここまで、もう間もなく────大きな戦いの渦が巻き起ころうとしていた。
『2033 Summer PvP Battle Tournament 開催のお知らせ』




