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24話 サイジェン島合宿Ⅸ - 勝つには

 翌朝、朝の9時にサイジェン島リゾートホテルロビーで集合となった。



「おはようみんなっ! ゆっくり休めたかな?」


「わたしはログアウトしてたけど~、ネクロンさんはカジノで遊んでたのよね~?」


「そそ。おかげさまで懐が潤ったよ」


「アタシはホテルの個室でゆっくりしてたわ。リアルのベッドよりふかふかだったし」


「ふわぅ……私は新レシピ考案してましたぁ…………」



 それぞれ銘々にサイジェン島での夜を過ごしていたらしい。


 そして俺はというと────。



「くまさんクンは? サイジェン島のリゾート施設楽しめた?」


「あぁ、すみません。徹夜で採取に行ってました」


「わお、モチベ激高だねっ! もしかして夜の散歩で何かあった?」


「そうですね……目指すべき場所と、進むべき道筋が見えたなって感じです」


「そっか、それはとっても良いコトだっ!」



 あのトップ生産職ユーザー『Lionel.inc』が『Spring*Bear』の豪邸を買おうとしていると分かった。


 俺みたいな初心者生産職が彼と対等に戦うには、それ以前に彼に追い付くには、生半可な努力では足りない。


『クラフターズメイト』の皆よりも、『Lionel.inc』よりも努力を積み上げなくてはならないのだ。


 さて、ではMMORPGにおける努力とは何なのか。


 その具体的な解答は2つある。


 まず1つは、知識である。


 戦闘職で言えば、効率的なレベリングの方法であったり、モンスターの行動パターン、そして強いスキル回しなどである。


 これは生産職でも同じことが言えよう。


 効率的な採取の回り方であったり、日々流動的に変化するマーケットの相場であったりと、座学必須の要素は多い。


 そしてMMORPGにおいてやるべき努力の2つ目は、時間をかけることである。


 これが基本のキであり、最も重要な点でもある。


 簡単な話、時間さえ掛ければ前項の知識も積み重なってゆく。


 更にその他の様々なリソースも貯蓄される。


 金、素材アイテムなどがそれに当たる。


 どれだけの知識があろうとも、それを活かすリソースが手元に無ければ意味が無い。


 これが戦闘職なら更にプレイヤースキルも上がっていく訳なのだが……これは生産職には関係無いか。



「ムラマサ先輩、今日は何するんですか?」


「今日はゆっくり採取かな、これこそが合宿の本来の目的だしねっ!」


「だから一緒に行動じゃなくて別行動よ。みんな欲しい素材のジャンルがバラバラだしね」


「なるほど……」


「くまさんクンはボクと来るよね? 鍛冶士におすすめの採取ルートを教えてあげるよっ!」


「よろしくお願いします!」



 かくして、『クラフターズメイト』の面々は別れて採取に向かった。


 俺はムラマサに付いていき、辿り着いたのは雪山エリアだった。


 やはりと言うべきか、『ドラグニティライト』が掘れるこのエリアが、サイジェン島に於ける鍛冶士おすすめの採取場らしい。


 俺はムラマサの影のようにピッタリとくっ付いて採取ポイントを巡る。


 そして採取を行いながら、俺は()()()()()()()()()()()()()()()()()



「そうだ、ムラマサ先輩聞いてくださいよ。昨晩、あの『Lionel.inc』にバッタリ会ったんです」


「ええっ!? そりゃまた奇遇な運命だねぇ。一日のうちに『The Knights古参の会』と『Lionel.inc』に会っちゃうなんてね。このままいくと、今日は『Spring*Bear』にも会えちゃうんじゃない?」



 その『Spring*Bear』なら、今貴女の目の前に居るんですけどね。



「それで? 話した?」


「はい、ちょっとだけ」


「彼、不愛想だっただろう? あれね、ただ人と話すのが苦手なだけなんだよ」



 ふむ、彼と同じことを言っている。


 が、実際に俺が感じた『Lionel.inc』の印象としては、そこまで不愛想だとか話下手とは思わなかった。


 硬派であるとは思ったが、それ以上になんというか────俺に似てると思った。


 いや、もちろん彼と比べれば俺はコミュニケーションは得意……とまでは言わないが、不得手ではない。


 だけど、何だろう……。



「このゲームが好きなんだろうなって思いました。だから、例え相手が自分の足元にも及ばない初心者だろうと手を抜く気が無い、むしろ手を抜くことが失礼に当たる……そういう感じがしました」


「キミ……アイツと何話したのさ…………もしかして喧嘩でも売っちゃった?」



 ムラマサのジト目が全身に刺さる。


 俺を何だと思ってんだこの人は。



「実は昨晩、『Spring*Bear』の豪邸を見に行ってたんです。買う前の下見というか」


「ははっ、あまりにも早すぎる下見だねっ!」


「そこで『Lionel.inc』に会いまして……彼も、あの豪邸を買うって言ってました」


「おぉっとっ! そりゃまたアイツもとんでもな────いや、ある意味彼らしいとも言えるか」


「『Lionel.inc』ってどんな人だったんですか?」


「わーおそれ聞いちゃうっ!? 語ると長いよ~っ? 何せアイツを語ろうとすると、イコール『The KnightsⅫ Online』に於ける生産職の歴史を語ると言っても過言じゃないからねっ!」



 そ、そこまでなのか……。


 俺ってそんな相手と張り合わなくちゃならないのかよ……。



「それじゃ採掘を続けながら話すから、話半分に聞いてよ。まずは生産職専門ユーザーの中で最速ユーザーレベルキャップ到達した時の話なんだけど……」



 ムラマサから彼の話を聞いて、ひとつ分かったことがあった。


 それは『Lionel.inc』というユーザーが如何に凄いユーザーか…………なんてことではない。


 むしろ逆で、聞けば聞くほど彼は俺と同じ、『The KnightsⅫ Online』というゲームを────いや、それどころか『The Knights』シリーズを愛しているかということであった。


 彼が生産職専門でこのゲームを始めたのも、シリーズ過去作のとある人気NPCへの愛着かららしい。


 それはまさしく、俺がサービス開始時から弱クラスと評されていた魔銃士に直行した理由と同じで、『Lionel.inc』というユーザーに親近感を覚えた。



「ぶっちゃけ、俺が『Lionel.inc』に勝つにはどうすれば良いですかね?」


「うぅ~ん、それは非常に難しい質問だねっ! 何せアイツはボクよりも凄い生産職なんだよ? そんな男に勝つ方法をボクが知っているワケがないじゃない?」


「まあ、そうですよね……」


「でもそうだね、それでもひとつだけアドバイスをするとしたら────」


「…………」


「────セオリーに縛られないコトだねっ!」


「えっ、セオリーを無視して良いんですか?」


「うん、セオリーなんてぶっ壊しちゃえっ! それくらいの前傾姿勢の方が良いと思うよっ!」


「だ、だって生産職もセオリーは大事ですよね? 今やってる採取巡りだってそうですし、クラスレベリングやマーケットの相場だって、言っちゃえば全部セオリーありきじゃないですか」


「まあ~~~~~~~~~ねぇ……でもね、そういうこのゲーム内の生産職のセオリーってのはほとんど『Lionel.inc』が形成したものなんだよ」


「チートすぎる……」


「だからね、アイツはセオリーから外れる行動はしない。何故かって? アイツが作り上げたセオリーなんだ、そこから外れるってのは自分自身の10年間を否定するコトになる。だからアイツは何事もセオリー通りに動く。そんな相手を上回るには、今あるセオリーをぶっ壊して、キミだけのセオリーを作り上げるコトだよ」


「俺だけの、セオリー……」



 10年間かけてトップユーザーが作り上げたセオリーを、初心者生産職の俺が壊す。


 そして新たなセオリーを作る。


 考えてもみろ、戦闘職として最前線を走り続けた『|Spring*Bear《俺》』だぞ?


 むしろそっちでは基盤となるセオリーを作ってきた側の人間だ。


 そんな俺が────『くまさん()』が、セオリーを作り変えなくちゃならない。


 想像するだけで身震いがする、恐ろしい、まるでかつての俺を相手にしているような気分になる。


 そんな革命とも呼べる偉業を、俺なんかができる訳がな────その瞬間、俺はとあるユーザーを思い出した。





『私、シズホと申します。ゲーム初心者の弓術士です。目標は『Spring*Bear』さんみたいな魔銃士になること』





 ああ、居たな。


 傍から見れば無謀としか言いようのない目標を掲げたユーザーが。


 しかも彼女はMMORPGそのものの経験も無い、ズブの素人だって言うじゃないか。


 そんな彼女と比べれば────。



「やるしか、ないっすね」


「ふふっ、そうだねっ! やるしかないっ! それでこそ『クラフターズメイト』の一員だっ!」


「ぃよっしゃ! ムラマサ先輩、ちょっと教えてほしいコトがあるんですけど……」



 その後も、俺はムラマサに鍛冶士として弁えておくべき知識・心構えを教えてもらった、それはもう教えてもらいまくった。


 俺は初心者生産職、しかし目標はトップユーザーと同じ。


 知識なんてものは、どれだけ入れておいたって損はしないのだ。




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