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21話 サイジェン島合宿Ⅵ - 攻略組パワー!

 あたしとダブ東が追い詰められ、あわやロボットのマシンガンの餌食になろうかというところ……。


 史跡:研究所施設の出入口を豪快にブッ壊した謎の人影達は、緊張感の欠片も無い空気感だった。



「あら、案外簡単に開きましたわね」


「いや開いたっつーか、ブッ壊しただけじゃね? まあ入れるなら何でも良いッスけど!」


「ムゥ? 既に先客が居るようだぞォ! ガハハハハッ! これでは最前線攻略組の名が廃るなァ!」



 だっ、だだだだ誰なんコイツらっ!?


 確かにムラマサ達が助けに来たにしては早すぎると思ったけど、だからって何で知らない人達が助けに来るワケ?


 いやいや、今は彼らが誰かなんてどうでも良いか!


 さんくす謎の戦闘職3人組!


 ほんとはあのロボットを手に入れたいところだったけど、死に戻りだけはしたくない……あの3人組は()る気まんまんっぽいし、その隙に離脱するしかねえ!



「あら、あのボスをロックオンできませんわ?」


「マジじゃん! なんコレバグ!?」


「おそらくだが、クエスト自動発生型のボスモンスターなんだろうなァ! しかも同時に別のパーティーは挑めないようだぞォ!」


「じゃあどうしますの!? やっと遭遇できましたのにお預けだなんて言いませんわよね!?」


「それなら話は簡単スよ!」



 などと話しながら、3人は史跡:研究所施設に入場してきた。


 キンピカローブの男性妖精(エルフィア)、和装の男性人間(ヒュマニ)、重鎧の女性獣人(ビストレア)の姿を視認した途端、この3人組が何者であるかがすぐに分かった。


 いくら生産職のあたしでも知っている。


 彼ら、あの攻略クラン『The Knights古参の会』のメインパーティーのメンバーじゃん。


 あれ、でもエースと呼ばれてる魔銃士の『Spring*Bear』が居ないな……。



「攻略にお困りのお嬢さん!」



 などと、脳内で3人組の正体を思い出していると、和装の男性人間『GrandSamurai』さんがまったく信用ならない意味ありげな笑顔を浮かべて話しかけてきた。


 ……えっ、なに、めっちゃ嫌な予感する…………。



「俺達、攻略クラン『The Knights古参の会』の者なんスけど。実はあのボスを討伐しに来たんスよね。で、なんだけど~……良かったら俺達と臨時パーティー組んでくれないかな~って! もちろんドロップ品は公平に分配するッス! その条件でどうスかね?」



 はぁああああああああああああ???


 なんであたしみたいな生産職が最前線攻略組のエース達とパーティーを組むなんて話になんの!?


 畏れ多いのはもちろん、そもそもあたしは今すぐ逃げ出したいんだけど!?



「あっ、いや、あのあたしと一緒じゃなくても良くないですか? 自動受注クエストならあたしがクエストリタイアしてから改めてお三方がクエスト受けちゃえば良いんじゃないかなーって……」


「ウゥム、そうしたいのは山々なんだがなァ……」


「それができないんスよね……」


「実はこの形式のクエストなのですがね、誰かがクエストをクリアもしくは失敗・リタイアしますと、一時間待たなくてはクエストが再発生しませんのよ」


「そしてあと30分でこの史跡も消滅するのだァ! ガハハハハッ! 絶妙に噛み合わんなァ!!!」


「だから、ね? お願いネクちゃん!」


「ねっ、ネクちゃん……?」


「もちろんあなたはこのわたくし、最優・最重の騎士ことヤマダヤマがお守りいたしますわ! だからご安心くださいまし?」


「そーそー! それにもしもの時はどんぐりパイセンがバッチリヒールしてくれるんで怖いもの無しっスよ!」


「グラ助も守ってあげなさいな!」


「俺はダメージ出して速攻で倒しきることで、間接的にネクちゃんを守ることになるんだっつーの!」


「ウム! まあそういうコトだァ! だからどうか頼む、オレ達とパーティーを組んではくれぬだろうか……?」


『侵入者ヲ、ソロソロ排除シタイデス』


「マスター、いい加減ご決断を。待ってくれてるロボットが少々不憫に思えてきました」



 ロボットに感情とか無いでしょーが。


 ……いやまあ? あの攻略組様方にこうも頼まれてちゃ断るとかできるワケないし?


 あーもう不本意中の不本意すぎるけど…………。


 あたしは目の前の3人にパーティー招待申請を送った。





               * * *





「ちょっと待ちなよくまさんクン! 場所は分かってるのかいっ!?」


「史跡の発生場所に心当たりがあります!」


「なんでアンタみたいな初心者がそんなコト知ってんのよ!?」


「今はくまさん君の勘を信じるしかないわ。急がないとネクロンさんが危ないもの」


「うぅ……せめてわたしが一緒に付いて行ってたら肉壁くらいにはなれたのにぃ…………っ!」



 10周年記念大型アップデートによって追加された史跡というランダム発生エリアには、低確率で新規実装のボスモンスターが出現する。


 本当は()が『The Knights古参の会』に居る間に攻略しておきたかったのだが、運に見放されて遭遇することすら叶わないままだった。


 しかし『The Knights古参の会』は史跡が発生し得るポイントの調査は済ませていた。


 まさかセカンドキャラの生産職になってからその知識が役に立つとは思わなかった。


 さあ到着するまでに考えろ俺、もし本当にネクロンがボスに遭遇していたらどうする?


 あの形式のボスは遭遇したら自動で討伐クエストを受注してしまい、討伐するか逆に倒されてしまうか、あるいは自らクエストをリタイアするまで史跡エリアから出ることができなくなる。


 生産職専門のネクロン1人ではクリアは絶対に不可能、ならばリタイアしてくれるのが一番なのだが、その隙も無く瞬殺されてしまう恐れがある。


 ならば、考えられるのはエリア内で逃げ回っているという可能性か。



「ちなみに皆さんの戦闘職のレベルってどんなもんです!?」


「ボクはワイルドアーチャーが50そこそこかなっ!」


「アタシはエーテルマジシャンだけレベルキャップの80に到達してるわ!」


「エンドプリーストが48とオンミョージが39ね」


「ごめんなさい魔導士13ですぅ……」



 さあ考えろ俺!


 俺とパリナは戦闘職としては役に立たない。


 幸いにしてムラマサとアリアが中遠距離A(アタック)D(ダメージ)C(キャリー)──パーティーに於いて火力を出す役割──として機能はしそうだ。


 ミロルーティにエンドプリーストでヒーラー役をお願いすれば、最低限の基本構成までリーチにはなる。


 ……となると欲しいのはタンク役だが、俺がやるしかないか。


 いくらレベルが低くとも、プレイヤースキル頼りで避けまくれば、辛うじて回避タンクになれるはずだ。


 その場合、一発でもモンスターの攻撃を受けたら即死という超ハードモードで挑むことになるが、他に方法は無いだろう。



「もうすぐ到着します! 皆さん戦闘職にクラスを切り替えておいてください! ムラマサ先輩は俺とパリナさん以外の武器を、ミロロさんは【広域化】の付いた回復アイテムを作ってパリナさんに持たせておいてください!」


「まさかキミ、戦う気なのかいっ!?」


「その可能性もあります、転ばぬ先の杖だと思ってください!」


「ちょっと待って、武器更新無しってアンタまさか回避タンクやろうとしてない!? 一撃即死よ分かってんの!?」


「VRアクションゲームには慣れてるんでッ!」


「……分かった。AGI上昇効果のあるアクセサリーを作っておくわ、でも過信しないでよねっ!」



 ……さてはアリア、別のMMORPG経験があるな?


 メンバーのクラスから即時に役割を理解し、名ばかりの剣士である俺が前衛を請け負う、しかも耐久力も火力も無いから回避に専念することを察し、回避タンクの枠に収まるというところまで理解してくれた。


 別ゲーだろうと経験者が一人でも居るのはありがたい。


 俺がIGL(インゲームリーダー)──ゲーム内で戦闘指揮を行う役割──を担うとしても、きっと回避とヘイト稼ぎに必死で継続的な声掛けは難しいだろう。


 だからアリアのような識者が居るだけで、もしもの時の為にサブIGLを任せられるという安心感がある。



「あった、あの建造物です!」



 目的地を視認、いよいよ生産職だらけのボス攻略が始ま────。





「スプベアァ!」

「ラスト、ベアー先輩!」

「ベアー様トドメをっ!」





 ────ッ!!?!?!!????!?


 えっ何でどういうことなの俺は居るけどその俺は居なくてというか今の声って絶対そうだよなつい先日までは毎日耳にしていたアイツらの声だったよななんでネクロンを捜しに来たのにアイツらが居んのッ!!?!?!!???



「くまさんクン、入口壊れてるけど入って良いのかなっ!?」


「えっ、ああ、そう、ですね……気を付けてくださいね」


「待って、ロボみたいなのと戦ってる人達が居る!」


「ネクロンさんも居るわ~~~~~!!!」


「ふぁあ……よかったですぅ…………」



 ムラマサ達が、一歩出遅れた俺を置いて史跡:研究施設の中に入っていった。


 俺もそれに続き中に入ると、巨大なロボットと、『The Knights古参の会』のエースパーティーが戦闘を行っていた。


 ロボットのHPは残り僅か、あと一撃でも強力なスキルをぶち込めば倒せそうなところまで削れている。



「おっとォ……ガハハッ! またいつもの癖でスプベアに任せてしまったわァ!」


「チクショウ! 俺も早くこの癖を抜かなきゃ最強の座なんて引き継げねっスよ!」


「でもなんだか、嬉しいですわ。今もわたくし達の心の中に、ベアー様との日々が染み込んでいるという証左ですもの」



 ああ、そうだった。


 いつも最後の一撃は、安全圏まで退いた俺の長距離狙撃で仕留めていたんだった。


 懐かしい攻略組での日々を思い出し、少しだけ、胸が温かくなった。



「ってことで次世代の最強ユーザー『GrandSamurai』……ラストヒット、いっただっきまーっス!」



 そしてGrandSamurai────グラ助の一太刀がロボットをぶった斬り、俺の杞憂とも言える作戦考案は水の泡となり、目の前でボス討伐が達成されたのであった。


 ……まあ、何はともあれネクロンが無事ならそれで良いか…………。



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