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華と夢25

翌朝も劉帆はやってきて、毒見と言い一緒に食事をした。

そしてその後、馬小屋へと案内され清爛と吏志は驚いた。

そこにいた馬は自分たちの馬とは違い、力強い体型をしていた。

「いい馬ですね、とてもよく肥えていて手入れがすばらしい。」

「この国では家畜は餌に困りません、冬の厳しい時期を耐え抜けるだけの力強さも兼ねている馬です。」

劉帆と清爛、吏志、そして憂繰と数名は馬に乗った。そして憂繰の案内で道の工事現場へと向かった。

清爛はその道を見てすぐ、自分たちが送った石工たちは間違いのない仕事をしていると思った。遠くから聞こえる石を叩く音、新しい道が出来ている何よりの証拠だった。

「では、さっそく問題の場所に行きましょうか。」

「こちらです。」

憂繰がさらに馬を走らせ、その後ろを清爛達が追う。

しばらく馬を走らせると目の前に大きな岩山が見えた。そして、そこは大きく崩れていた。

「なるほど・・・」

清爛は周囲を調べる様に馬を歩かせる、そびえ立つ岩山は完全に割れて崩れ、人間の力ではどうしようもないほどの大きな岩が無数に積み重なっていた。崩れたであろう岩肌は未だ危うく、きっかけがあれば再び崩れそうな状況だった。そしてそんな崩れた岩は、本来道を通そうとしていた谷を完全に潰していた。

「これでは、この道は諦めるしかあるまい・・・」

「しかしながら!」

清爛の言葉に割って入って来たのは方方だった。

「しかしながら、すでにここまで道を作っております!この先の農地も買収済みです!岩を崩し、除け、人が通れるほどの幅を確保できれば継続着手は可能かと!」

「一度崩れた山は必ず再び崩れる、他を模索した方が良い。」

「しかし、一からとなりますとまた時間もかかります!ここまで来てやめますと、石工たちにも負担がかかり、」

「この国は長い雪の時期があり、その度に岩や土地は凍結と解凍を繰り返す。わずかな隙間には雪解け水が流れ再び凍ることで水は膨張し岩の亀裂は更に大きくなる。さすれば今は目に見えていなくとも、同じように崩落の危険のある岩は他にもあるはずだ。公共事業ごときに貴重な職人たちを犠牲にしたくはない。」

「しかし・・・」

方方は劉帆の前で費用の事を口にできなかった。

新たに道を引けば職人たちに払う日当もかかり今までかかっている材料費も全て水の泡、新たに土地を買収するだけの体力がこの国にはないと言う事を方方はよくわかっていた。

そんな方方の葛藤は清爛には手に取るようにわかる、それは長い事文でやり取りをしてきたせいだった。

「・・・費用の配分だが、新しい道の工事着手に当たる費用はすべてこちらで持とう。」

清爛の発言に方方が顔を上げた。

「その代わり、指揮命令系統は我が国で持たせてもらう。それが条件だ。」

「なんだと!」

憂繰の叫びに清爛は馬の向きを変え、劉帆、憂繰の方へ向いた。

「石工の中より責任者を出す、その者にこの事業を一任させたい。しかし、この国の事情は石工どもにはわかるまい、そこで軍事経験が豊富であられる憂繰殿には引き続きこの事業の指揮を願い、ご協力頂きたい。」

憂繰は眉間にしわを寄せていた。

「我が国の石工たちには技術がある、しかしこの地の土地勘はない。しかしあなたにはこの土地で生きてきた経験があり、軍を率いていたことで土地勘が高いはずです。ましてや隊を率いてきた経験がおありなら統括能力は高いのだと、私は踏んでいます。隊を率いて戦を経験してきたあなたならきっと、この事業に関わる誰一人犠牲者を出さない的確な判断が下せると私は思っています。」

憂繰は清爛の言葉に心を動かされた。

「事業ごときに名誉の負傷や犠牲など伴う必要はない、そんなものは名誉でも何でもない。彼等は誰一人掛ける事なくこの事業を終わらせなければならない。そのためにはきちんと管理する者が必要です。憂繰殿ならそれが出来るはずです。お願いします。」

「どうだ、憂繰。」

劉帆が憂繰に声をかけた。

憂繰は馬を下り、膝をついて頭を下げた。

「勿体なきお言葉。お任せください、必ずやこの事業を成功させて御覧に入れます。」

方方も馬を下りて頭を下げた。

清爛は再び馬の向きを変え、崩れた谷に目をやった。

「自然とは恐ろしいものだ・・・崩れたのが作業に取り掛かる前で良かった、もし作業中であったのならばどれだけの犠牲者が出た事か・・・」

「そうですね、命より大切な道などありませんね。」

「あぁ、全くだ・・・」

清爛と吏志のやり取りを劉帆は聞いていた。その二人のやり取りは模範にすべきだと劉帆は思った。

資源こそ豊かだったが備国は決して人口の多い国ではなかった、そんな中で国家が成立しているのは国民のおかげであると言う事を劉帆は捕虜から帰ってきて、自国について学ぶことで思い知った。

国民が働き収めた物で自分たちの生活が賄われていることをその時初めて劉帆は知った。

「では、石工達の所へ連れて行ってもらえますか。責任者を出し、その者を連れて改めて机上で話がしたいのだが。」

「はっ!こちらへ。」

憂繰は馬に飛び乗るとすぐに来た道を戻った。

石工達の長屋はきちんとされていた。孫文と吏志の登場により男達は一斉に出て来て頭を下げた。

そんな男達を見て、食事がきちんと取れている事を確認する清爛。

清爛は馬を下りた。

「怪我をしたり、体調が悪い者はいないか?」

「その様な者は誰もおりません!」

誰かが声を上げた。

「そうか、なら良かった。皆に相談がある、顔を上げてほしい。」

清爛の言葉に、男達が顔を上げた。

「今回の道作りだが、聞いていると思うが崩落があり本来使用を考えていた谷が使えない。そこで、すべてを一から見直そうと思っている。」

そんな清爛の言葉に男達がざわついた。

「そこで、この中から今回の事業の責任者を出したいと思う。その者にはこの事業の全てを一任させたいと思っている。我こそはと言う者はいないか?」

その瞬間、ざわつきは止まり、男達は皆左右を見渡した。

「誰かいないか、他選でも構わないが・・・」

「俺にやらせて下さい!」

立ち上がったのは若い青年だった。

「俺にやらせて下さい!きっと成功させて見せます!」

その青年の瞳は非常に輝いていると清爛は思った。

清爛はすぐに、その青年が気に入った。

「他に名乗り出る者はいないか?」

青年以外、誰も名乗りを上げなかった。

「では、異論はないな。名は?」

(てん)()と申します!」

「では天柚、自分が認める者2名を選びなさい。」

清爛はそう言って再び馬に跨った。

劉帆はそんな清爛の一言一句、その行動も含めて観察していた。

天柚は同じ年くらいの青年と、ベテランであろう中年の男を選んで連れてきた。

「いい人選ですね。」

「あぁ、天柚とか言う青年、なかなかかもしれない。」

劉帆には清爛と吏志の会話を聞いてもその意味が分からなかった。

城内など入ったことのない職人三人は、城に入ると言うだけでも萎縮しているのに、大きな会議室に入れられて更に委縮していた。天柚を含む三人は憂繰の横に座らされた。

そしてこの時初めて天柚達は劉帆が皇太子であることを知った。

「大丈夫だ、心配しないでほしい。この事業を成功させるために考えを聞かせてもらいたい。」

天柚の目は、本当に言っていいのかと言うような目だった。

清爛はにこやかに微笑む。

「天柚、君はこの事業の責任者だ。君にこの事業を一任する。だがだからと言って責任は絶対に問わない。責任を取るのは私だ、心配しなくていいよ。」

天柚は横の同じ歳ぐらいの青年燈流(とうりゅう)と顔を見合わせる。

「さぁ、天柚。君ならこの備国と崔国をどんな道で繋ぎたい?そしてそのためには何が必要だ、教えてほしい。」

天柚は顔を上げ、清爛を真っ直ぐ見つめ、力強く口を開いた。

「美しい道を作りたい!雨風にも負けず馬車が通っても揺れないまっすぐで美しい石の道です。俺の作ったその道を使って多くの人達に行き来して欲しいです!」

「いい道だな、その道を敷くのに、今何が必要だと思う?」

「この国の正確な地形が知りたいです。」

「なるほど、それで。」

そうだろうと清爛は思った。そしてそれと同時に、天柚の目が間違っていないことを確認した。

「地図が欲しいです、地質や傾斜などが把握できる様な正確な地図が。備国は土地が肥えていて土が柔らかく崔国とは土壌が違います。柔らかい土壌に石を置いても高さがそろわず歪んでしまいます。まず地盤を把握し、その地盤に合った方法で石を積まなければ崩れてしまいます。備国は雪が多いと聞きました。地図さえあれば雪が降るまでは備国側から、雪の季節は崔国側から工事を進めることが可能です。地図を、何とかしては頂けないでしょうか。」

「憂繰殿、この国に地質や地形の知識に長けた者はいますか?」

「地質や地形なら私も含め軍人はすべて把握している。」

「では、それはどのようにして他者に伝えていましたか?」

「全て口頭と経験だ、地図などにしたことはない。」

「わかりました。ではこちらから測量士と地図が書ける者を派遣しましょう。せっかくです、興味のある者がいるのならその技術を学ばせて下さい。さすれば今後軍事としても活用できましょう。天柚、それ以外には?」

天柚はしっかりと自分の考えを口にした。時折若さが表に出るときもあったが、その時は横の年輩の職人博文(はくぶん)が口を添えたしなめる。清爛はこの二人は師弟関係なのだろうと思った。もう一人の若者燈流はどこか客観的に物事を見ている様な気がした。それは熱い天柚とは真逆であり、良い組み合わせだと感じた。

清爛と吏志はすぐに、この事業は上手く行くだろうと確信した。

「ところで天柚、君は文字が書けるか?」

「いえ、私は書くことも読むこともできません・・・」

「他の者で、書ける者はいるか?」

「いえ、たぶんみんな書けないと思います・・・」

「そうか、君達まで教育が届いていなかったか・・・それは申し訳なかった。」

天柚は横にいる燈流と顔を見合わせた。

「では、方方殿、代筆を頼めるかな。」

「ははっ!」

方方は頭を下げた。そんな姿を見て口を開いたのは劉帆だった。

「方方、もし文の内容に偽りが認められた場合、それは孫文殿および崔国に対する侮辱と事業妨害とみなし、処罰の対象とする。覚えておけ。」

「ははっ!」

清爛と吏志はそんな立派な劉帆の態度に思わず顔を見合わせた。

その後もいろいろと話し合い、吏志は青巒の横で内容を全て書面にした。

憂繰も協力的な姿勢を示し、若者達との関係も上手く行きそうだと清爛は思った。

「わかった。ではまず正確に地質を調べよう、水の道や風の道も重要そうだ。国に帰り次第すぐに人選を行い送ろう。それまで数日かかると思うが憂繰殿や仲間達と協力し出来る事から進めておくんだ、任せたぞ、天柚。」

「お任せ下さい!」

天柚は椅子から立ち上がり頭を下げる、そして同席した燈流と博文も頭を下げた。

そして天柚は憂繰と方方の方に向き、再び頭を下げる。

「何卒!ご指導よろしくお願い致します。」

三人は使者に連れられて部屋を出た。

「憂繰殿、方方殿、あの若者にぜひ力を貸して頂きたい。彼らはきっといい道を作るでしょう。道が出来れば人が動き、人が動けば物が動き仕事が生まれます。さすれば必ず経済が動きます。希望する者にはぜひこの事業に携わらせて下さい。さすればこの国にも我が国からの知識技術が広まり、やがて我が国からも備国の知識技術を習得したいと望む者が現れるでしょう。国力とは人が育つ事、この道はその第一歩です。若者が育つ事が何より大切です。」

清爛はそう言って、劉帆を見て微笑んだ。

「私からも頼もう、憂繰、方方。崔国の石工達と共に道を作ってほしい。」

憂繰と方方は立ち上がり劉帆に頭を下げた。

「自分も軍人です、若者が育つ事の大切さは十二分に身に染みております。必ずやご期待に応えて見せましょう。」

憂繰は劉帆にそう告げた後、清爛に向き直って頭を下げた。

「清爛殿、この度はわざわざおいで頂き誠に感謝する。本来であれば文などではなく直接出向くべきであった、大変無礼を致した。お許し頂きたい!」

その言葉に方方も怯える様に頭を深く頭を下げる。

「いや、この度は来て正解でした。まさかあそこまでひどい崩落だとは私も思っていませんでした。百聞は一見に如かず、今後ともよろしくお願い致します。」

清爛も立ち上がり頭を下げ、吏志も同じように頭を下げた。

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