私のお友達
この作品は、人が事故で亡くなります。ストーカーまがいのことをする男性が出てきます。苦手な方は自己責任でお願い致します。
この作品は、しいな ここみご様主催の「冬のホラー企画」及び武 頼庵(藤谷 K介)様ご主催の「冬は○○○!!企画」の参加作品です。
また、武 頼庵(藤谷 K介)様主催『幻想の中の雪企画』参加作品です。
更に、武 頼庵様ご主催の『冬の星座 (と)の物語』企画にも参加させて頂いております。
「さっむ〜い」
「理沙、冬は寒いのは当たり前でしょ、何でもっと厚着してこなかったのよ」
「だってぇ〜」
私、玲奈と理沙は友達だ。いや、親友だ。
今年大学に入学して、初めての講義で理沙と会った時から気が合って、いつも一緒に行動している。もちろん理沙と出会ったのも大学に入ってからである。
今日は二人でショッピング。何を買うかなど決まってはいない。
女性のショッピングとはそういうものである。
「映画を観に行く」「食事に行く」と同じカテゴリーに分類されるのである。
散々いろんなお店を冷やかした後、カフェで一息入れることにした。
このカフェは、冬限定のスイーツがあるため、二人は前から狙っていたのである。
チーズケーキをベースに、チョコレートやフルーツなどで、クリスマスをイメージした装飾をされたスイーツを黙々と食べる私たちであった。
「勉強の方はどうなの?単位とか大丈夫?」
「いやねぇ玲奈。こんな時に勉強の話とかやめてくんない」
「それはそうね」
私はあまり会話が得意ではないので、どうしてもこういう堅苦しい話から始まってしまう。
コミュニケーション能力というのは勉強だけではどうしようもないらしい。
「でさ、また来たのよ。アイツ」
話題を変えた理沙が本当に嫌そうな表情で話しだした。
「ああ、瀬田先輩?」
「そう、全くしつこいのよね」
「またなの!なにそれ」
瀬田という人は、大学のサークルの先輩である。
私たちがサークルに入った時からやたら馴れ馴れしくされ、特に理沙に執着しているようであった。
サークルの代表に相談しても、「アイツも悪気はないんだから...」と、いつもの事なのか、まるで取り合ってもらえなかった。
何度断っても、付き纏ってくるので、私たちはサークルを辞めた。
「どうして辞めるんだ!」
サークルを辞めてすぐ、瀬田がいきなり私たちに怒鳴ってきた。
こいつはマジで言ってるのか?と思いながら私はこう言った。
「先輩がしつこいからです」
キツく言い放つと、さっさとその場を離れた。
それからは、先輩は姿を現さなくなったが、どうやら最近、理沙が一人でいる時に、また付き纏い始めた様だ。
「断ればすぐに諦めるから、実害があるというわけではないんだけどね」
「それでもいい気はしないよね。それに何かあってからでは遅いでしょ。とりあえず、私と居るか、学食とか大勢の人が居るところで理沙が一人にならないようにした方がいいね」
「そうね、私も他の知り合いとかに、それとなく相談しておくわ」
せっかく限定のスイーツを食べているので、こんな嫌な話はとっとと切り上げて、話題を変えるのであった。
「あら、雪が降ってるわね」
空を見上げて私が言った。
カフェを出ると雪が降っていて、少し積もっていた。相当長い時間カフェで過ごしたのだろう。
「それじゃ玲奈、またね」
「またね」
私は地下鉄、理沙はバスなので、ここで別れた。
「うぅ〜さぶ」
傘を持っていなかったので、私は小走りに地下鉄の駅へ向かった。
「あっ」
地下鉄の改札へ降りる階段の入り口で、フラっとよろけて、更に積もった雪に足を滑らせて、階段をゴロゴロと落ちてしまった。
「...ううっ」
一瞬激痛が走ったが、しばらくするとそれさえも感じなくなっていった。
ふと階段の入り口の方を見ると、人だかりの隙間から、空に舞う雪が見えた。
そして私は意識を手放した。
ーーーーーー
頭を打ったせいか、私は言葉が話せなくなった。失語症というものだろうか...
あれからそっと大学に行って理沙を遠くから見ると、泣きながら項垂れていて、友人らしい人たちが慰めているところだった。
理沙の事だから、責任を感じているのだろうか、しばらく理沙には会わない方がいいだろう。
それから公園や、メインストリートなどを散歩して回った。
途中で『すみません』と、何度か人に声をかけようと試みたが、やはり通じなかった。
久しぶりにのんびりと、街を見て回った。
どれだけの時間が流れたのだろう。辺りは少し暗くなっていた。
そんな時瀬田をみかけた。
『アイツだ!』
先ほどまで穏やかだった気分が一変し、ふつふつと怒りが込み上がってきた。
無意識に後をつけていた。
『あ、理沙』
後をつけていたのは彼も同じだった。
『アイツ、また理沙に付き纏うつもりか!』
彼は確実に理沙をつけている。
絶対させないと、彼に駆け寄った。
そして、腕をつかもうとするが、スッとすり抜けてしまう。
『そうよね』
何度も何度も試してみるが、結果は同じだった。
『分かってはいたのよ』
彼はどんどん理沙に近づいていく。
『私はあの階段で死んじゃったんだ。雪で足を滑らせて落ちたから事故なんだけど...』
かなり近づいているが、理沙は気づいていないようだった。
『りーさぁーー』
力いっぱい叫ぶが、まるで聞こえていない。
そして。
私は、瞬間移動するように瀬田の前に立ちふさがった。
彼はニヤニヤと気持ちの悪い笑みを浮かべていた。
でも、やっぱりすり抜けてしまう。
私はかつてないほど怒っていた。
すると、私の体は黒い靄となって、彼の体に巻きついた。
「な、何だ!」
靄は見えないようだか、何か異変は感じてるようだった。
私は蛇のように彼の体に巻き付き、ぎゅうぎゅうと締め付けるように怒りをぶつけた。
『理沙に近づくなぁぁぁっ』
聞こえていようがいまいが関係ない、私は力の限り叫んだ。
「ギャーー」
彼が大きな声で叫んだので、理沙は気づき、振り返った。
そして、異変に気付いた人たちが集まってきた。
「な、何なんだ、これは」
「やめろ!誰だ!テメー」
「やめろぉぉーぶっ殺すぞぉぉ」
彼は、罵声を上げた。しかも理沙の方を向いたまま。それによって集まってきた人たちは、彼と、彼に驚いてへたり込んでいる理沙を見て、「これはただ事ではない」と感じたのであった。
黒い靄は見えていないので、集まってきた人たちには、彼が言った言葉は理沙に向けられたものだと思ったのである。
『もう一度言う、理沙に近づくなぁぁ』
私はさらに力を込めて、彼を締め付けながら叫んだ。
「分かった、分かったから...」
どうやら彼に聞こえたのか、感じ取ったのかはわからないが、今自分に起きてることが少し理解できたみたいだ。
「え、玲奈?...」
理沙も何か感じ取ったようだ。
そして集まってきた人たちによって通報を受け、駆けつけた警官によって瀬田は逮捕、連行されて行った。
理沙は救急車に運ばれて行き、私はその様子を少し浮かんだところから見ていた。これでもう彼が理沙に付き纏うことはないだろう。
ーーーーーー
今日はクリスマスイブ。
街はイルミネーションなどで飾り、親子連れやカップルなどで賑わっていた。
チラチラと雪が降り、少し積もってそれがより一層街の彩りを鮮やかにしていた。
私はその街をフワフワと浮かびながら、その様子を見ていた。
『あれは理沙と最後に入ったカフェね』
そして、私が転げ落ちた地下鉄の改札への階段の入り口に来ていた。
私が息を引き取った場所には、たくさんの花やお菓子、飲み物などが供えられていた。
そこには理沙も居て、手を合わせていた。
ふっと顔を上げた理沙と目があった気がした。
『理沙はできるだけゆっくりとこっちに来るのよ』
私がそう言うと、理沙がにっこり笑って「ありがとう」と言っているように見えた。
『またね』
そして、玲奈はキラキラと輝く無数の小さな星となって、舞い降る雪たちと共に踊りながら、星空の彼方へと向かって消えていくのだった。
おわり
最後までお読みいただき、ありがとうございました。