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42 嘘つきは誰?

「フィフィ、待たせてすまない」

 息を切らしてどこからともなく現れたレオナルドは、いきなりソフィアを後ろから抱きしめた。


「レ、レオ!? 今は少し面倒なことになっているの……、離して頂戴」

「ダメだ。一緒に朝食をとってから7時間も経っていてフィフィ不足だよ。補充させてくれ」


「……」


 この無言は、エマとバルト、ヴァレンティナそしてソフィアのものだ。


「ああ、いい匂いだ。癒される。なあ、フィフィは24時間俺の側にいていいんだぞ」


 ソフィアは、レオナルドが後ろから首元に顔を近づけてスンスン匂いを確認しているのがいたたまれず、腕の拘束を解いてレオナルドの方を向いた。

 それでもレオナルドの手はソフィアから離れることはなく、腰を引き寄せられてしまった。


「でも、レオには溜まりに溜まった執務があって、私には妃教育もあるのよ?」

「だが、妃教育などフィフィにとっては復習みたいなものだろう? もう少し俺に使う時間を増やしてくれないか?」

「だから、合間を縫って温室デートなのでしょう?」

「そうか、これは城の中だが、確かにデートだな……いい響きだ」

「レオ、どさくさに紛れて髪や背中をなでるのは今は止めて。お願い」

「今はってことは、後でならいいのか?」

「そういうことではないの」


 二人は小声で話をしているつもりだったが、エマとバルトにはまる聞こえだった。


 ただのイチャイチャじゃん。


 ベタ甘の二人の様子に、エマとバルトには胸やけ注意報が発令されていた。



「レオ様……、なぜそんな女とベタベタしているの」

「お前は誰だ? 愛称呼びを許可した覚えはない。許可された者しか入れないエリアになぜ入っている?」

「私、バーツ侯爵家のヴァレンティナでございます。幼い頃よりお茶会などに呼ばれてご一緒していますわ」


 ヴァレンティナの挨拶は侯爵令嬢としては微妙なものだった。


「ところでレオ様、レオ様はその女に騙されていますのよ」


 騙されている、の言葉にレオナルドは鋭く反応した。

「騙されている? それはどういうことだ。説明してみろ」


 レオナルドは、ヴァレンティナに殺気をまとって話しかけるが、その間もソフィアを抱きかかえて離すことはない。


「その女は、レオ様の精霊が見えると嘘を言ったんでしょう? その女に精霊が見えるのなら私にも見えるに決まっているわ」

「では、その精霊はいまどこにいる? 見えるんだろう?」

「えっと……今は見えませんわ」

「そうか、さっきから足元をちょろちょろしているんだがな」

「え、あっ、その女が邪魔で見えませんでしたが、今レオ様の足元にいます」


 ソフィアには、バルトの足元でカリカリしているミールが見えていた。


 レオナルドが、ヴァレンティナに向かって告げる。

「堂々と嘘をつくとはいい度胸だな。俺を騙そうとしているのはお前の方だ」

「え? 私嘘なんてついていないわ」

「足元は足元でも俺の足元じゃない。見えていないのに嘘をつくとは見苦しい。この場を立ち去れ!」

「だって、精霊なんて本当はいないんでしょう!?」


 ヴァレンティナはレオナルドの後から追いついてきた近衛騎士たちによって、連れ出されて行った。



 相当な時間のロスはあったが、ようやく温室に入ることができた。

 落ち着くため、温室内に準備されたソファーに並んで座りお茶を飲むことにした。


「フィフィ、嫌な思いをさせてすまない」

「なんだか消耗してしまったわ」


 エマが、ヴァレンティナのセリフの一部をモノマネ口調でレオナルドに伝えた。

 本人かと思うほどよく特徴をとらえていた。


「あの方、レオの筆頭婚約者候補でいらっしゃるそうよ」

「そんなことを言ったのか! 妄想にもほどがあるな」

「そうだったのね。もしかして、婚約者候補がいるから君は国に帰れ、と言われてしまったらどうしようと思っていたところよ」

「フィフィ、意地悪言わないでくれ。フィフィに帰れなんて俺が言うわけがないだろう」


「……意地悪なことを言うその口にお仕置きだ」

「えっ……」

 レオナルドはソフィアを膝の上に横抱き状態で乗せると、ソフィアの頬に手を添えて上を向かせる。

「レオ、先に温室を見……」

 毎度おなじみキス魔レオナルドの出現であった。理由なんて何でもよくて、結局キスをしたいだけらしい。さらに最近では、キスの最中にレオナルドの手がいろいろ動くので、油断ならないのだ。


 大方の予想通り温室内の植物を見る時間はなくなってしまい、後日仕切り直しとなった。



 ◇◇◇


 一方、追い出されたヴァレンティナは、バーツ侯爵家に戻っていた。

「何よあの女、ちょっときれいだからって、レオ様にベタベタして。レオ様も完全に洗脳されているわ。私が何とかお助けしてあげないと」


 ヴァレンティナは、侯爵家の使用人を呼ぶとこう告げた。

「レオ様が連れ帰った女の弱みを調べてちょうだい」



 数日後、王国にいた頃のソフィアの情報が届いた。

 学生時代のあだ名は()()()令嬢。印象も薄く、見た目も平凡だったという。あとは化粧の腕がいいとかなんとか……ということだった。


「どうなってるの? この間見たあの顔は、お化粧で相当盛った状態だったってこと?」


 言い換えるなら、不細工なのに嘘で塗り固めた容姿で帝国の皇太子をたぶらかした悪女ということだ。

 これはもしかして皇族への詐欺罪かなにかで実刑レベルの罪だ。


「なんとかしてレオ様の洗脳を解きたいわ。あの女のスッピンをレオ様に見せる手段はないかしら」


 この時のヴァレンティナの顔こそが悪女の顔だったのだがそれを指摘できる者はいなかった。


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