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25 戻らなかった日常

 3年Aクラスには日常が戻っていた。

「ねえ、皆さまご存じかしら?」

「今日のネタは何でしょう?」

「来月、帝国の一流ミュージカルが王都の劇場に来ますのよ」

「まあ、演目は?」

「それが、あの『子犬の縁結び』ですの」

「それって、かわいいタイトルなのにR15でかなりドキドキさせられる情熱的なアレの、ですわよね?」

「タイトルのネーミングセンス以外は、五つ星評価とか」

「そうよ。現皇帝陛下がモデルのラブロマンスですからチケットも奪い合いですわ」

「来月と言えば建国祭もありますがその時期と重なるのかしら?」

「建国祭より少し前からだそうよ」


「建国祭と言えば、1週間の休日、皆さまどのようにお過ごしで?」

「私は、タウンハウスで家族と過ごすわ。お兄さまの婚約者が挨拶に来られるのよ。あとは親族が遊びに来たり、予定が詰まっていますの」

「私の家は、建国祭の休日は、毎年、領地に戻るのが恒例ですわ」

「私の家は旅行よ。今年は、あの有名な南のリゾート地シャイナで過ごしますの」

「「羨ましいですわ~~」」



 また話があっちこっちに飛んでいるわと思いながら、ソフィアは考えていた。


(シャイナと言えば、南国フルーツもりもりのパフェ、食べたいわ。レオ様はスイーツ好きかしら)


「ソフィーの頭の中……」

「……南国フルーツパフェですわね」



「私たちは、予定通り、わが公爵領のリゾート地にある別邸で過ごしましょう」


 3人は学園に入学して以来、建国祭の休日を使ってお泊り女子会をしていたのだ。

 1年生の時はマリアベルの伯爵家が所有する海辺のヴィラ、2年生の時はソフィアの侯爵領の観光地にある別邸で、今年はエリザベスの番だった。


「あの美しい湖のほとりの別邸で過ごせるのが楽しみですわ」

「今年は、学生時代最後の旅行ということで、3泊4日なのがうれしいわ」

「卒業してしまったら3人揃うのが難しくなりそうですものね」

「この時期は星空も綺麗ですわよ」

「素敵ね。いろいろ話しましょうね」



 3人は女子旅のつもりでいたのだが、この計画を知った若干3名の男たちが、一緒に行きたいと言い出すのは時間の問題であった。

 


「ソフィー、マリィ、相談なんだけど、建国祭の旅行にエドが一緒に行きたいって言いだしましたの。自分は近くのホテルに宿泊するから気にしないでくれって」

「私もルイス様が同じことを言っていて……」

「……レオ様もよ。ただ、ベスやマリィの場合は婚約者なので問題ないと思うけど、私とレオ様は……ただのお友達なので困りましたわ」


((ただのお友達……。この間のお茶会から進歩してないわ))


「ま、まあ、レオナルド殿下もソフィーともう少し仲良くなりたいのだと思いますわ」

「そ、そうよ。これはいい機会かもしれないわね」

 未だ進展しそうにない二人がちょっと心配なエリザベスとマリアベルなのであった。


「でも行き帰りの馬車と、夜のルームウェア会だけは、男子禁制ですわよ」

「「もちろん!」」




「ルイス、ルームウェア会とは?」

「彼女達が言っているルームウェア会は、かわいいルームウェア、つまり部屋着を披露しながら寝落ちするまでおしゃべりするものだそうです」

「フィフィのかわいい部屋着……寝落ち……」

「レオ様、妄想している場合ではありませんよ」

「ルイスだって、マリアベル嬢の部屋着が気になるだろう?」

「僕は、彼女のルームウェアのデザイン、一緒に考えてオーダーしましたから」

「抜け目ないな……」



 ◇◇◇


 平和に戻ったように見えたが、ここに一人、日常に戻れない人物がいた。

「ちょとぉ、なぜ私だけがずっと謹慎なのよ。迷子になって困っていただけなのに! うるさいことばかり言うあの女のせいだわ。私のほうが被害者なのよ!!」


 リリアーヌは、自分勝手な行動から帝国の皇太子と自国の侯爵令嬢を命の危険にさらしたことを重く受け止められ、無期限の自宅謹慎となっていた。

 最低でも、レオナルドの留学が終わるまでは復帰できない見込みだ。

 だが、貴族令嬢としては致命的で、実質退学に近い処分と言えた。


 寮は一旦追い出され、男爵家の自室に戻っている。部屋の中をぐちゃぐちゃに荒らして、うっぷんを晴らしていた。


 リリアーヌの父サンド男爵は、リリアーヌが男爵家の評判を下げたこと、さらにはリリアーヌのせいでエトワール侯爵家から睨まれるようになったことに立腹していた。

 帝国の皇太子に怪我をさせたことに至っては、相手が雲の上すぎて、もはや没落の危機に怯えることしかできない状況だ。


「たしかに、学園で貴族の令息を捕まえてこいとは言ったが、つり合いというものがあるんだ。ダミアン殿下の恋人になったところで、平民上がりの男爵令嬢が王子妃になれるわけがないだろう。遊ばれて捨てられるのがオチだ。愚かな」

「そんなことないわ。私は身分の高い男性と結ばれる運命なのよ」

「は? 何を言っているんだ」

「街に買い物に行ったとき、道端にいた占い師が私を見てそう言ったのよ」

「まさかそれで帝国の皇太子に近づいたとか言わないよな?」

「そうよ。彼が私を見初めたんだから」


 脳内お花畑だ。


 サンド男爵は、リリアーヌを引き取ったことを後悔していた。

 見た目は悪くなかったので、格のつり合う貴族に嫁いてくれれば御の字と思っていたが、男爵家を危機にさらすだけの存在ならば、いないほうがいい。


「リリアーヌ、どちらの修道院を希望する?」

 男爵が候補に挙げた2つの修道院は、一度入ったら出られない厳しいことで有名なところだった。


「そんな……。お父さま、酷い!」



「ダミアン様に助けてもらおう」


 リリアーヌは、ダミアンが王宮に戻る週末になるのを待って、男爵家をこっそり抜け出した。馬車など一人で用意できるわけがないので歩いて向かう。


 当然だが王宮の入り口で衛兵に止められてしまった。

「ダミアン様に会いたいの」

「約束のない方はお通しできません」

「ダミアン様に、リリアーヌが来たって伝えてよ」

「ダミアン様とは、殿下のことか? 無理に決まっているだろう。帰るんだ」

「なによ。私はダミアン様の恋人なのよ。会えるまでここで待つわ」

「自称恋人は掃いて捨てるほどいるんだ。居座るなら牢に入ってもらうことになるが」


 リリアーヌは衛兵に食らいつくがダミアンに会えることはなかった。


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