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01 3人の婚約者候補

「婚約者候補が増えるということかしら」

「後でお父さまに確認してみるわ」

 エリザベスの父、ライン公爵はこの国の宰相だ。


「伯爵家の侍女たちが読んでいる流行りの恋愛小説では、『お前との婚約を破棄する!!』から始まるのがお決まりなのに。まさか増えるなんて……」

 とマリアベルがつぶやいた。


「殿下が気に入らないのなら婚約者候補をなかったことにしてほしいわ」

「私たちのうち誰か一人でも救われるチャンスと思って候補を減らすよう提案したのに残念だわ」


「「「王子妃候補、白紙にならないかしら~~」」」


 今日のカリキュラムが終わって、女子寮に戻るまでの帰り道、婚約者候補の3人の表情はどんよりしていた。


 彼女たちは3人とも17歳、王立学園の3年生だ。

 学園の授業が終わると、教員室のある特別棟に移動して、そこに設けられた専用室で王子妃教育を受けている。

 そして妃教育が終わったら3人でそろって寮に戻るという日課の繰り返しだ。


 この王立学園では、学生は皆、寮に入ることになっている。

 寮は男子が敷地の東側、女子が西側と離れている。それぞれの寮棟を取り囲むように高い塀があり、入り口は一か所で守衛が常駐するなど、不法侵入を防ぐためいろいろ配慮されているのだ。

 さらに、無用なトラブルを避けるため、上位貴族用と低位貴族・庶民用に建物も分かれていたりする。


 3人は学園に入学した時にダミアン王子の婚約者候補に選ばれた。本来なら、正式な婚約者を1人選ぶのが慣例ではあるが、王子妃にふさわしい家格、素養、学力ともに申し分ない令嬢が同世代に3人揃ったため、今の王家が1人に絞れず、今に至っている。


 1人目は、エリザベス・ライン公爵令嬢。公爵家の一人娘で身分的にも一番王子に釣り合う存在だ。シルバーのストレートの髪にルビーレッドの瞳で、つり目系のため少し冷たい印象はあるが、整ったきれいな顔の令嬢だ。

 教養、学力も高く、真っ先に候補に選ばれた。公爵家の跡継ぎ問題はあるが、万が一王子妃となった場合は従兄弟が公爵家を継ぐ予定だ。


 もう1人は、マリアベル・モントレー伯爵令嬢。高位貴族の中では低めの爵位だが、ピンクゴールドの髪にサファイアブルーの瞳で、小動物系童顔の彼女は男女問わず人気がある。魔力の高さにも定評があり、芸術面にも秀でている。学力は言うまでもなく彼女もまた王子妃候補にふさわしい令嬢だ。


 そしてソフィア・エトワール。さきほど()()()令嬢と言われた侯爵令嬢だ。学園での成績は、常に学年で3本指に入る才女で、得意科目は外国語だ。マナーについても講師からお墨付きをもらっている。魔力は理由あって中程度だが、回復系魔法が得意な令嬢だ。


 ソフィア自身は見た目が訳ありなので婚約者候補に選ばれることはないだろうと思っていたが、国王陛下の推薦もあって不本意ながら名を連ねることとなった。

 ダミアン王子からすると、3人の中では一番劣るらしいのでさっさと候補から外れたいと思っている。


 3人は性格など全然違うタイプだが、なぜかウマが合い、今では、ベス、マリィ、ソフィーと呼び合う親友関係だ。

 そういう意味では候補者になって悪いことばかりではなかったようだ。


 残念なことにダミアン王子は、優秀と言われているこの3人を蔑ろにし、自由恋愛を満喫中。

 低位貴族の令嬢から庶民まで、既に数々の浮名を流している。複数同時進行などという噂まであるくらいだ。

 最近は、リリアーヌという男爵令嬢がお気に入りで、珍しく続いているようだ。隠すこともなくいつもベタベタしているため、学園内でも二人が恋人関係であることを知らない者はいない。


 リリアーヌ嬢は男爵家の現当主と庶民の愛人の間の子らしい。ずっと庶民として育ってきたが、昨年男爵家に引き取られ貴族として学園に入学してきた。年齢は16歳、本来なら2年生の年齢だが、基礎から勉強が必要なため1年に在籍している。


「はぁ~、来週からさっきのリリアーヌ嬢が一緒に教育を受けるのね」

「リリアーヌ嬢は今1年生だったかしら?」

「そうよ。成績は下の中。殿下と付き合う前は、1年生の見目麗しい令息に片っ端から声をかけていたことで有名よ」

「……嫌な予感しかしないわ」

 テンションだだ下がりの3人だった。


「気を取り直して、来月の音楽祭に向けて提案があるの。2回目のサビのところで少しだけアレンジを入れたらどうかなと思って。楽譜を書いてくるので見てほしいわ」

「ええ、マリィ。わかったわ」

 


 学園名物の音楽祭は、楽器の演奏が得意な生徒がその腕を披露する場だ。貴族子女は幼少期から楽器のレッスンを受けているのでレベルが高く、中にはプロ級の演奏ができる生徒もいたりする。人気があるのも当然で、一般公開もされているため一般席は毎年抽選になるほどだ。


 音楽祭のあとは夕方から、生徒のプレ社交としてダンスパーティーも予定されている学園屈指の大型行事なのだ。


 3人は、エリザベスがピアノ、ソフィアがバイオリン、マリアベルがフルートの三重奏で参加予定だ。婚約者候補として注目度も高いので練習も念入りに重ねてきた。

 もっとも、3人とも物心ついた頃からそれぞれの楽器には親しんできたので、前評判も高い。


「リリアーヌ嬢が、私たちの三重奏に参加したいとか言ってきたりして?」

「ソフィー、流石にそこまでバカではないと思うわ。まだ彼女は婚約者候補でもなんでもないし、今回は『仲良し3人組』がたまたま婚約者候補だったというだけだもの」

「そうよ。常識的にありえないもの。それよりステージ衣装なんだけど、黒のロングドレスだけだと何か物足りなくて……せっかくなのでそれぞれの髪色に合わせてリボンを色違いでつけたいんだけど」

「それいいわね。週末買いに行きましょう」

「賛成!」

 気持ちの切り替えも早い3人だった。

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