第八話 母の思いと妙案
今日は、慣れないことをして疲れたな。。。
一日を振り返り、肉体的に精神的にと疲れ果てた桔梗であった。
そんな怠けたい衝動に駆られつつ布団の上で横たわっていると。
『トントンッ』っと襖を叩く音がする。
「桔梗さん。入ってもいいかしら?」
そう言って私は訪ねる。
「は~い」っと少しばかりおざなりな返答をしつつ、招き入れてくれる。
「母様どうされたのですか?もう寝る時間を過ぎてると思われますが・・・・」
今の時間は酉の刻辺りで鎮まりかえっている時間であり
朝一番で一家の家事などを受け持つ私がこの時間に桔梗の部屋に来るのは珍しいのである。
「ふふ。桔梗が武術の学びを始めたからね。今日は、疲れているんじゃないかな…っと思って顔を見に来たのよ。慣れない天力の行使ですし、大丈夫だったかしら?」
そう言って、桔梗を真っすぐ見つめ今日の出来事を訪ねる。
「—―そうですね。札の扱いはわかった気がします。攻撃は最大の防御とも教わりました!勾玉は……兄さまが作ってくれたそうですが。効果が心配ですね」
兄の作った勾玉の事を思い出したのであろう桔梗は虚空を見上げ遠い目をしつつ、今日の出来事を振り返って、話してくれる。
「あら、その謳い文句まだ使っているのですね。勾玉は、奏が貴方の身を案じて作ってくれた物ですから大事に使ってあげてくださいね。たしかに……効果は心配ですけれどね」
ふふっと、口元を緩めつつ私は彼女を肯定する。
それにしても、攻撃は最大の防御とはよく言ったもので、口癖にしてたのは・・・
実は薊様とは言えないわね。と心の中でクスッっと笑う私である。
「それとですね。爺やから刀を頂きました!『月下美人』という刀で私の為に打っていただいた、一品物だそうです。すっごく綺麗な刀です!」
明日の朝から、試し切りを行うんです!っと刀を振るう素振りをしつつ、楽しそうに語る桔梗を見つつ安心する。
この子は本当に純粋で真っすぐで真面目な子だなと。母としては嬉しい事だけど……本当のことを言えば、生業にはついて欲しくはない。
女子だから・・・もっと普通に生活して欲しかった。
神楽の家に生まれた——ただ、それだけで戦いに身を置かないといけない。
だから、少しでもこの子の支えになってあげたい。私はそう思っている。
「母様?気分でも悪いのですか……?」
私は苦渋な顔をしていたのであろう、桔梗は心配そうに顔を除いてくる。
そんな彼女を私は抱きしめ・・・
「—―桔梗さん、これから貴方にとって辛く厳しい日々が続くと思います。時には傷つき、倒れ、悩む日も来るでしょう。でも、貴方の周りには家族わたしたちがいます。どうか頼ってくださいな」そう言って抱きしめる力を強める。
「ふふっ。桔梗は幸せ者です。母様にも父上にも、爺やにも……あと一人はどうでもいいとしてですね。守って貰っているというのは伝わっています。ですが、神楽の家に生まれたのです、私にも人を守る手伝いをさせてください」
彼女は口元を緩ませ、最大限のはにかんだ笑顔で微笑んでくれた。
それを見た私は、やっぱ私の子だな。。っと嬉しく思いつつ。
「桔梗は強い子ですね。ですが、無理は禁物です。この先、命の危険にさらされる時もあるでしょう……その時は逃げてもいいのですからね。生き残る事を忘れずに。死んでしまっては……駄目です」
「そうですね。私の身を守ってくれる従者のような存在がいれば、母様の心配も解消されるかもですね!今度、集落に出向いてみましょうか?」
そう言って私の心配も気にせず、思い立ったのか桔梗は名案だ!と両手を打ち。
張り切っているのであった。
「確かに、守り人がいてもいいかもしれないですね。集落より人を召し上げるのも良いかもです。薊様に相談しておくとしましょう。では、遅いのでおやすみなさい」
考えもしなかった娘の妙案に私は心躍らせつつ部屋を出ていくのであった。