第七話 護石と桔梗の刀
……何だろうこの石?玉のような形をしているけど少し突起部分もある。
爺やから手渡されたそれは、小さい三日月のような形をしており、透明で透き通った緑生い茂るような新緑の石であった。
「これは護石「勾玉」といいます。堀士が丹精込めて作っています、身を守るためには必要不可欠なので、肌身離さずお持ちくださいですじゃ」
これは、奏様が時間をかけて、桔梗様の為に作成したものですよ。
ほほっ。っと和やかな笑みを浮かべつつ教えてくれた。
兄さまが私に……?手先は器用なのに、女性のもてなしは不器用なんだよね。
だいたい、百合姉さまに贈ってあげればいいのに。
でも、これどうやって身に着けようかな?
1つしかないし首にかける?それとも……
そう悩んでいると爺やは言う。
「女性であれば耳飾りにするのがよさそうですな。明日までに細工をしお届けしますので、一度預かりますじゃ。それと、勾玉に使われている原石での違いも教えておきますかな」
勾玉は源石の種類によって効果が変わる。
「水晶・琥珀・翡翠・瑪瑙」の4種で、述べた順につれて身を守る効果が高くなるという。
今回、奏が作った勾玉は「翡翠」を研磨した物のようで、堀士ではないため製作にかなり時間がかかっていると聞かされる。
ただし、これはあくまで目安であって、確かなモノではない事と限界を超えると壊れてしまうという点を注意してくだされと。教えてくれた。
中には属性を含んでいる物があるそうだが、かなり貴重な原石なので、まず手に入らないらしい。
なるほどね。こんな小さな石でも、しっかり身を守ってくれるんだね。
兄さまからってのが心配だけど、効果は変わらないよね・・・
「はぁ……」っと溜息をつきつつ爺やに向きりつつ疑問に思ったことを問う。
「そうそう……爺や、勾玉には天力を注ぎ込む必要はないのですか?札は自身の天力を注ぎ、自身のみが使用できるとの事でしたし」
私は首を斜めにしつつ、どうでしょうか・・・?といった感じで爺やをうかがう。
「勾玉には、基本的に天力は注ぎませぬ。そもそもですが、天力を消費してまで守りを復活させるより、新しい物を召し上げた方が早いからですじゃ。とは言え・・・
大事な親族から頂いたものですし注ぐことも考えてみてもいいかもですね」
やはり、注ぐことは出来るんだね。そうなると。。。大事に使わないとね。
まぁ。あれでも兄弟だし。
あれ……?もう一つ大事なものが足りないような。
うちの流派は「刀」を使うはず。
攻撃が最大の防御なんて言うなら、ないといけないよね。
私がさらなる疑問を解消しようと口を開けようとした時・・・
「桔梗様、一番大事な物を忘れておりました。12歳の契約の時にも必要ですが、爺やからの贈り物ですじゃ。どうぞ、受け取って下され」
そう言って爺やは一本の刀を私に差し出す。
少し反って細長い鞘は白く光沢を帯びており、白木のような物で作られている事がわかる。
そこに、赤の下緒と月の装飾がされ神々しさを携えていた。
私は柄を持ち刀身を少しだけ覗き見る。
柄の部分にも赤い紐が付いていて抜きやすく、手離しにくくなっているみたい。
鍔にも月の装飾がある・・
刀身はどうだろ。。。?
刀身見た一瞬——私は神秘的な光沢に見とれてしまった。
それは月の光を浴びたような白銀の色をしていた。
唯々……美しいの一言である。
「……名は「月下美人」と言います。桔梗様の為に白金で打たせた物ですじゃ。とても美しい刀ですの」
爺やは思い人の女性を見たかのような、尊くも熱い眼差しでそれを見つめる。
「っと……試し切りなどは、明日から開始しましょうぞ。
そろそろ菖蒲様から昼餉のお声がかかるはずですし、座学もしないとですじゃ」
天力を使ったからいつも以上にお腹が空いていた事に私は気づき。
今日の昼餉は御代わりをたくさんしないといけない!
――けっして……!
食いしん坊ってわけではないんですからね!
っと、誰もいない空間にしゃべっている事を不思議に思わない私であった。