第六話 武術の学び札術
朝餉は終わった。今日から爺やと武術の学びが始まる。
うちの家系は刀と札を使う系統らしいけど、どちらから始めるんだろう。
刀って重いよね・・・?
私なんかで扱えるのだろうか心配になってきた。。
一人『うーんっ』と唸りつつ稽古場へ着く。
「爺や今日より武術の教授のほど、宜しくお願い致します!……始めは身を守る術ですよね?」
「そうですじゃ。まずは身を守る術ですの。では、こちらをお持ちください」
そう言って爺やは1枚の紙の札を桔梗へ渡す。
大きさは縦4寸、横3寸ほど、葉のような薄さで片手で持ちやすく、紙と言うにはざらっとした質感があり墨のような匂いがあった。
「爺や……?何も書かれていないのですが?これで、どうやって身を守るのでしょうか」
意外な物を渡された事に私は戸惑う。
何も書かれていない真っ新な札を方々から神妙な表情で一度見た後、爺やを見上げ問う。
「そうですじゃな。その札には、まだ何も刻まれておりませぬ。桔梗様の天力を注ぎ込むことで、使えるようになるのです」
なんですかそれ?
といった理解できていない顔で、私は爺やを訝しげに見つめる。
そういえば、母様も父上も私の天力はこれまでの神楽家の血族の中でも類を見ない
と言っていたね。
そもそも、天力ってどう使うんだろう?
「……まだ話してなかったかもですな、天力とは《《術を使う為の力》》ですじゃ。札に天力を注ぐには、願うだけでいいのです」
天力は生まれた頃より個によって量が決まっているもので、生涯増えることはないとされている。
当然、使い過ぎれば体に変調をきたす。術などの行使を抑える、休息や丸薬などで回復を行える。
丸薬は貴重な為、一部の例外を除き使うことは・・まずないのである。
「では、実践です。火を付けたい。と願ってみてください。」
そういって爺やは集中すること私へと伝える。
願う……って簡単に言うけど、火を付けるって想像が難しいな。
家事の手伝いをする時、火を扱う想像をするって事かな……?
私は両手で札を持ち『むむっ……』と眉間に深い皺をよせつつ願う。
その時、うな垂れていた札が『ピンッ』とそそり立ち何やら文字が浮かび上がる。
「火」の文字が滲んだような淡い赤の文字で札の表面に浮かぶ。つづけて、文字の周りを対照的な文様で囲まれていく。
その変化をまじまじと見ていた私は口をあんぐりと開けたまま、爺やを見上げる。
「ほほっ。流石の天力ですじゃな。無事成功ですじゃ」
良くできましたな。と言って唖然としている私の頭を撫でる。
「それでは、札を使い木に向けて火を放ってみましょうか。やり方を真似していただければ出来ると思いますじゃ」
そういって爺やは桔梗の手を持ち札の構え方を教えてくれる。
構えは単純だ人差し指と中指の間に札を挟むだけある。
次に、対象に札の先端を向けつつこう言い放つ。
「解き放つは赤。炎獄!」爺やが言ったことを復唱する。
その時、札の先端より赤く丸い炎球が目標に向け一直線に飛んでいく。
木に接触したのち、それを原型をなくす程の熱量で燃やし尽くす。
なにこれ・・すごい危なくない?
黒焦げ処か…灰になってしまったし…身を守る術じゃなかった・・・?
びっくりしたような、少し不安な表情になりつつ爺やへ
「爺やこれでは、攻撃するだけで身を守る術ではないような・・・気がしますが?」
私はそう疑問を投げつつ爺やの答えを待つ。
「攻撃は最大の防御とも言われておりましての。近づけさせない事も戦における戦法です。卑怯かもですが相手が手を出せないうちに、倒す事も出来るはずですじゃ」
一度、文字が浮かんだ札は消すことはできず、他の者も扱うことが出来ないのですよと注意される。
使い切りってわけではなさそう。悪用出来ないなら安心かな・・・
とは言え、術は使いようだね。
でも、攻撃だけにしか使えないのかな?
これだけの術を扱える札だ。
身を守る術があってもおかしくないはず。そう考え再度、爺やに問いかける。
「爺や、札が攻撃に使えることはわかりました。術で身を守ることもできるのでしょうか……?それとも別の方法があるですか?」
少し首を横に傾け、爺やの顔を除く。
「札でも身を守ることは出来ます。が……神楽の術では、それはできませぬ。なので、これを身に着けるのですじゃ」
そういって爺やは、桔梗の手に一つの奇妙な形の石を渡すのであった。