第四話 母は強し
「三人とも、ちゃんと聞こえてるのかしら~?昼餉ですよ」
そう部屋の入り口で声をかけてきた女性は。
桔梗の母「神楽 菖蒲」である。
顔は面長で綺麗に整っており、長く美しい漆黒に少し藍の入った髪
芯の強さを感じる深紅の瞳、雪のような透き通った白い肌ようは美人である。
「ささつ、爺やと兄さま居間へ移動しましょうね。お腹が空いて座学もままならないですし、しっかり食べましょう!」
桔梗は小さい体で、大の大人2人の背中を押して催促し部屋から押し出す。
「父上も、首を長くしてみんなを待っているに違いありません!」
っと4人それぞれの歩幅で居間へ移動する。
――居間につくなり胡坐をかいて待つ父へ
「父上!おはようございます。今日も良い日和ですね!」
元気いっぱいに挨拶をしつつ、桔梗は父の上に躊躇なく座る。
それを見て、やれやれといった表情の奏、ほほっ今日も仲が良いですな。
と和やかに笑う爺やと順に卓を囲む。
父・神楽家当主「神楽 薊」
まゆ頭が濃く強面、首元まで伸びたくすんだ灰の髪、厳格さを感じる漆黒の瞳であり体は屈強な男性そのものである。
「桔梗、いつになったら母のようなおしとやかさを身に着けてくるれのだ?私としても、将来が心配だ。」
元気なことはいいことである。親心としては、やはり心配である。
父とは言え男子の上に躊躇なく座るのだ。
その顔には嬉しいような、悲しいような曖昧な表情があった。
当の桔梗は『むぅーっ』と風船のように頬を膨らませつつ薊を見上げ。
父上も兄さまと同じことを言うのですね。と言いたげに瞳を三角にし無言の訴えをしてくる。
ははっ!っと腹をかかえ勝ち誇ったように2人を見つめつつ、笑いをこらえる奏。
そこに『コンッコンッ』っと鉛のような鳩の豆が当たったような感覚に襲われ、奏と薊の後頭部に鈍い衝撃が走る。
軽いようで・・・かなり重く痛い。
飛ばされた物は豆ではあるが、ある特別な力が加わっているのである。
菖蒲は投擲系の能力を有しており、遠距離からであっても獲物を狩ることが出来るのである。
「御二人とも……?桔梗を虐めるのはだめ。と何回言わせれば気が済むのですか?それと、早く食べてくださいな。残したら承知しませんよ?」
『ふふっ』と冷笑にも似た、鬼の形相の菖蒲がそこには立っていた。
「ぐっ……菖蒲……これでも、私は心配してるのだ。このままでは桔梗は——」
薊は最後まで言い終える前に、これ以上……菖蒲を刺激してはいけない。
っと冷静になり口を物言わぬ岩のごとく閉じる。
菖蒲は一見おしとやかに見えるが、一線を越えると鬼になるのだ。
こと最愛の娘、桔梗のことになると。
一食抜かれるなどまだ、軽く……最悪の場合、1日飯抜きという状態になるからだ。
「いつも賑やかで飽きない家族ですじゃ。。儂も桔梗さまには、お優しくしないとけませんな。ほほっ」と優雅に味噌汁をすすりつつ爺やは昼餉をとっている。
この爺、上手いことあっちにつきやがって!っと心の奥底で男2人は
恨めしく思うのであった。
「そうだ。桔梗、座学の方は順調に進んでおるのか?そろそろ武術なども学んでほしいのだが」
神楽家は妖を狩るものであるからに知識だけではなく
「狩る技術」「身を守る技術」も覚えなくてはならないのである。
「座学は基本は学んでおります。狩りの知識は武術と同時に学んでいくのがいいかと思いますのじゃ」
すっと目を細めつつ薊に提案をする爺や。
当の本人は、もぐもぐとご飯を口の中一杯に含みつつ『うんうん』っと頷いている。
「父上、僕と同じ刻に桔梗も学べばいいと思われます。爺や一人では大変でしょうから。明日からやってみましょう」
やる気のある奏を珍しく思いつつも、父は了承する。
夏の頃には獣神との契約もある。心して学ぶように。っといい賑やかな昼餉が終わるのであった。