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都市伝説と呼ばれて  作者: 松虫 大
第二章 巨星堕つ
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12 トゥーレ目覚める

 眠り続けていたトゥーレが目を覚ましたのは、それから三日後の事だった。


「・・・・ここは? ・・・・どこだ?」


「若様!? 気が付かれましたか!?」


 ぼんやりと目を開いたトゥーレをシルベストルが勢い込んで覗き込んだ。


「おおうっ!?」


 目覚めて直ぐに目にしたのが、疲れた老人の顔では寝覚めが悪すぎる。トゥーレは思わず変な声を上げた。


「どうされました? どこか痛みますか?」


「あ、いや、何でもない。ここは?」


 トゥーレが変な声を上げた原因がまさか自分だとは思わないシルベストルが、怪訝そうに尋ねる。さすがのトゥーレも嬉しそうにしているシルベストルに本当の事を言うことができずに曖昧な返事でお茶を濁すしかできなかった。


「覚えておられませんか? ここはフォレス城でございます。若様」


「トゥーレ様! サザンに戻る前に目覚められてよかったです」


 シルベストルの声を聞いたトゥーレの側近がベッド周りに集まってきた。


「戻る?」


「ええ、我々は一足先に戻ります」


 そう言うオレクはすでに旅装に身を包んでいた。

 オレクだけではない。シルベストルやシルヴォもローブを羽織っている。この場で平服なのはユーリたちトゥーレの護衛騎士や側勤めたちだけだ。


「こちらでの用も済みましたからな。我々は一足先にサザンに戻ります。若様は三日間眠っておられたのです。折角ですのでゆっくりと静養くださいませ」


「三日だって!? う゛っ!」


 三日眠り続けていたと聞いて、ぼんやりしていた頭が徐々にはっきりしてくる。それから慌てて身を起こそうとして左腕に走った激痛に思わず顔を(しか)めた。


「左肩は二十針ほど縫っております。しばらく安静にしていてください」


「ああ、思い出した。銃で撃たれたんだったか?」


「その後高熱を出して倒れられたんです。私は寿命が縮む思いでございました」


「いや、シルベストルがそれを言うと冗談にならないからな」


 ホッと胸をなで下ろす仕草をするシルベルトルにトゥーレの冗談が重なり、ようやく皆の顔に笑顔が浮かんだ。


「心配掛けたな。・・・・そう言えば熱に浮かされてる間に変な夢を見たな」


「夢・・・・ですか?」


「ああ、ユーリとオレクの二人に殺されそうになる夢だ」


 トゥーレが何気にそう言った瞬間、ユーリとオレクが思わず顔を見合わせる。その顔は若干引き攣っているようだ。


「あぁ、それは・・・・」


「ん? どうした?」


「も、申し訳ありません!」


 二人揃って床に身体を投げ出し五体投地をおこなう。

 急を要したとはいえトゥーレを拘束し、焼いた剣を突き刺したことを謝罪したのだ。大事には至らなかったことと、医者から処置に対するお墨付きを貰ったため処分されることはなく、引き続きトゥーレの側近として仕える事になったが、万が一があれば二人とも命はなかっただろう。


「医者が完璧な処置だと褒めておられましたが、二人の様子を見た時、私はてっきりトゥーレ様を殺めようとしておるのかと思いましたぞ」


「あの時は一刻を争う事態でしたので仕方なかったのです」


 軽く睨みながら二人を見るシルベストルに、ユーリたちは頬を掻きながら肩を竦める。

 シルベストルが本気で怒ったところを初めて目の当たりにした二人は、医者の処置が終わるまでの間、生きた心地がしなかった。周りの者が止めなければ即刻処刑されていたことだろう。


「こうして助かったのだ、あまり責めてやるな。それに、俺もきちんと処置しなかったのも悪かったのだ」


 トゥーレの言うようにその場でアレシュによる応急処置をおこなった後は何も処置をしなかった。周りも疲れていた事もあるが、トゥーレが平気そうな顔でいたのも大きかった。


「わかりました。この件はもう言いますまい」


「今回は二人の迅速な対応のお陰で助かった。礼を言うぞ!」


「勿体なきお言葉、こちらこそトゥーレ様の護衛を務めながら守り切れなかったのです。引き続きお仕えする機会をいただきありがとう存じます」


 トゥーレは改めて今回の彼らの処置に謝意を示し、ユーリも汚名を雪ぐ機会を得たことに感謝を述べ決意を新たにするのだった。

 その後、シルベストルたちはトゥーレが目覚めたことで、晴れやかな表情でサザンへと帰還していった。




「トゥーレ様がお目覚めになられました」


 側勤めの一人がそうリーディアに報告したのは、シルベストルたちが城を出て港へと向かった頃だ。

 それを聞いた彼女は、いてもたってもいられない様子でトゥーレへの面会依頼を(したた)めると急いで届けさせた。


「姫様、トゥーレ様はお目覚めになられたばかりです。直ぐに面会出来るとは限りませんよ」


 そわそわと落ち着きのないリーディアにセネイが呆れたように諫める。


「分かっています。分かっていますが、落ち着いて待っていられません。婚約者ですのに面会のお伺いを立てなければいけないなんてあんまりです。そうですわ! 婚約者ですもの、直接伺っても問題ないのではなくて?」


「いけません姫様! 婚約者だからこそ、はしたない真似は慎んでくださいませ。あらぬ噂を立てられて困るのはトゥーレ様ですよ」


 今にもトゥーレの部屋へ突撃しようとするリーディアを側勤めたちが慌てて止める。彼女は流石にトゥーレが困ると言われれば自重せざるを得ない。

 歯噛みしながら黙って俯いてしまったリーディアに、セネイが優しく声を掛ける。


「姫様、お気持ちは分かります。ですが、トゥーレ様はお目覚めになられたばかりで体調も整っておりません。今お会いになられても具合が悪くなって、また会えなくなると困るでしょう?」


「・・・・そうですね。セネイ、分かりました。トゥーレ様からお返事がいただけるまで待ちます」


 その答えを聞いて、側勤めたちはホッとした表情を浮かべたのだった。しかしその安堵も一瞬で終わることになる。

 トゥーレに面会依頼を届けに行った側勤めが、その返信を持ち帰ってきてしまったからだ。

 折角のセネイの説得も無駄に終わるかのように、返事には『いつ来ても構わない』とあっさりした文面が綴られていたのだ。セネイたち側勤めは、ウキウキと見舞いの準備を始めたリーディアを尻目に深い溜息を吐くのだった。




「心配掛けたようで申し訳ない」


 嬉々として訪れたリーディアに、ベッドの上のトゥーレはそう言って礼を述べた。

 彼女の気持ちを現すように華やかな薄紅色のドレスで着飾ったリーディアに対し、トゥーレは肌着の上にローブを羽織っただけの格好でベッドに上体を起こしていた。

 リーディアはベッド脇に用意された椅子に腰を下ろして嬉しそうに口を開く。


「お元気そうで何よりです。こちらこそ、わたくしのせいで怪我を負わせてしまい申し訳ございません」


「姫が謝る必要はないさ。本当に貴女(キミ)が無事で良かった」


「それよりも寝てなくて大丈夫なのですか?」


「三日も寝れば充分だろう。それにすっかり身体が鈍ってしまったから少しでも早く体力を戻さないとね」


 本当はまだ寝ておくようにと医者から釘を刺されていたのだが、トゥーレが大人しくベッドに横になっていられる訳はなく。丁度いいタイミングでリーディアからの面会依頼が来たのだった。


「ところで、アレシュ殿の姿が見えないようだが?」


 リーディアの護衛騎士の姿が見えないことに彼は怪訝な顔を浮かべる。

 アレシュはリーディアはもちろん、オリヤンからも咎められることはなく『引き続きリーディアを頼む』と言われていた。

 しかしそれに待ったを掛けた人物がいたのだ。


「あの馬鹿弟(ばかもの)は、謹慎にしてやりました」


「セネイ殿!?」


「姫様を守る護衛騎士でありながら、ユディタと天秤に掛けるなんて信じられません。姫様もトゥーレ様も無事で何よりですけれど、アレシュがお咎めなしなんてオリヤン様が許してもわたくしが許しません!」


「あぁ・・・・なるほど」


 興奮した様子で力説するセネイ。初めて見るその姿にリーディアはもちろんその場にいる全員が若干引いていた。


「あ、あら、わたくしったら許可なく発言してしまい申し訳ございません」


「恐縮する必要はない。それよりも今回はアレシュ殿に助けて貰った。彼がいなければ俺たちは今ここにはいなかっただろう。ほどほどに許してやって欲しい」


「ありがたきお言葉、感謝いたします」


「それにしても、セネイ殿は姫と長くいるせいか随分と影響を受けているようだな」


 トゥーレが冗談めかしてそう言うと、リーディアとセネイの二人が顔を見合わせ次いで真っ赤になる。


「ひ、酷いですトゥーレ様!」


「ユディタ殿も無事保護されたとか? 良かったではないか」


 ぷんすかと怒るリーディアをさらりと無視してセネイに尋ねる。

 エリアスが収監された後、レボルトに派遣されたダニエルによって、エリアスの屋敷に軟禁されていたユディタが無事に保護されていた。


「そうですね。アレシュは姫様が無事だったこと以上に喜んでおりましたけれど」


「それはまあ仕方ないのではないか。姫を選んだ時点で最悪を覚悟していたのだろう」


「アレシュのことを思うと、ユディタが無事で本当によかったです」


 トゥーレと目を合わせたリーディアもそう言って嬉しそうに頷く。


「姫様、トゥーレ様はお目覚めになられたばかりです。そろそろお暇いたしましょう」


「え、ええそうですね」


 セネイにそう言われ、リーディアは名残惜しそうに目を伏せる。

 トゥーレは最初は身を起こしていたものの、先程からクッションに身を沈めていた。平気そうに笑っていたが顔色も若干青く、やはり目覚めたばかりの身体では長時間起きているのは辛いのだろう。


「リーディア、今日は来てくれてありがとう。また明日来てくれると嬉しい」


 明らかに落胆していた彼女も、トゥーレにそう言われれば嬉しそうに顔を上げる。


「よろしいのですか? トゥーレ様がそう言えば姫様は本当に毎日来ますよ?」


「セネイ、わたくしをお化けか何かみたいに言わないでください」


 セネイが『大丈夫ですか』と念を押すようにトゥーレに確認すると、リーディアが頬を膨らまして抗議をおこなうのだった。

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